(前回からの続き)黒澤映画の他で、どん底テンションな時の俺を励ましてくれる映画。
「キネマの天地」(監督/山田洋次)
「蒲田行進曲」(監督/深作欣二)
「浮草」(監督/小津安二郎)
「ラヂオの時間」(脚本+監督/三谷幸喜)
……他「仁義なき戦い」や「ロッキー」シリーズなど半分以上“バカ映画”扱いで好きなのは多数あります。
でも「スター・ウォーズ」シリーズは1本も観た事がありません。
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「キネマ〜」も「蒲田〜」もまさに大衆娯楽の王様が映画だった頃……いわゆる“映画の青春時代”の物語。活気のある撮影現場に暴れんぼーな俳優がいたり、変な監督がいたり、何かやたら楽しそうで元気が出ます。「ラヂオ〜」も“生放送のラジオドラマにSE(効果音)が間に合うかパニック”な喜劇的要素は他の三谷作品同様そーとー面白かったんですが、それ以上に自分の興味を引いたのは“ひとつの作品(この映画の場合はラジオドラマ)に関わるスタッフたちのテンションやモチベーションのバラつきのドラマ”で、それは――
だったり、
ディレクターをクビにしてでも無事放送を終える事だけを考えるプロデューサー
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や、そこで
ムリやり作った……現場のスタッフ的には最悪なハズの作品をも素直に喜んでくれるお客が必ずいる!
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――とか、アニメ業界ともダブる内容で、人ごとではない映画です。しかも、最終的に大喧嘩した相手とも皆「お疲れ様。また一緒に仕事しよう」と言い合って終わる気持ちのよいスタッフたち……。観るたび勇気と元気をくれて
って気にさせられます。やっぱ、劇中でも何かを作る映画が好きみたいです、板垣は。市川準監督の「トキワ荘の青春」もタイトルどおり伝説のマンガ家アパートの話で、また観たいんですけど、なぜかビデオ・レーザーディスク化止まりでDVD化されていないんで(自分、レーザーディスクを持ってるのですが、プレーヤーがすでに壊れててもう観れない……)、非常に残念です。
で、「浮草」は数年前DVD化されてて嬉しい作品です。松竹の小津安二郎監督が唯一、大映で撮った作品。『BLACK CAT』の時もオーディオ・コメンタリーで言ったんですが、
です。自分が手がけてきた作品柄、
と思われがちで、コンテや演出だけでなく原画までも制作さんたちが気を遣ってアクションとかドタバタコメディしか振ってもらえない俺ですが、ドンパチハリウッド映画とかより静か〜な小津映画の方がよっぽど好きなんですね、実は。学生の頃「小津は映画の基本」「アニメといえども演出は小津を見習ってオーソドックスで淡々とあるべき」とおっしゃる“古典映画至上主義”な先生がいましたが、本当ですか、それ? ハッキリ言って俺らの世代から観た小津映画って
あれ、淡々とはしてますが、決してオーソドックスではないでしょ! 有名なローアングルだったり、カメラは移動せず(Followはやります)、フレームIN・OUTは決してしない等々……あれだけ自分の画作りに規律を設けた監督って他にいません。フレーム内の被写体・セット・小物を1センチ単位で動かして完璧な画を作ってたのは伝説化してます。
そー言えば、今石(洋之)さんにこんな指摘をしたのを思い出しました。
板垣「『アベノ』の12話(『アベノ橋魔法☆商店街』第12話、コンテ+作監/今石洋之)で今石さんがやった“小津のパロディ”は間違ってるんですよ!」
今石「ほう……」(たぶん、あんま興味なかったんでしょう)
板垣「あれは左右を黒で削って(『アベノ〜』はビスタサイズで制作されてました)でも、スタンダードサイズで作らないと小津じゃないの。小津はカラーは撮ったけど、生涯、スタンダードに拘った作家なんだもん! しかも、カメラももう少し低い方が感じ出たんじゃないかなあ? ……いや、あれぐらいのアングルもあるにはあるんですが、1カットで小津って分からせるんなら、もう少し下げるべきでしょ! つか、なぜアレを俺に振らなかったんですか!?」
今石「やあ〜、板垣君がこんなに小津フリークだって知らなかったもん。知ってたら振ってたよ(笑)」(……ま、言われても困るわな〜)
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俺の場合、小津監督は自分で演出やるようになってからますます好きになりました。1カット1カットの画作りに異常なほど拘り、ひょっとしたら現在に至るまで誰も気づいていない映画の面白さに手が届きかかってたんじゃないか? って気がして、グッとくるんです。
いや、正直俺、誤解をまねく事覚悟して言いましょー。
たかが、フレーム内の物をちまちまズラしたところで、観客(視聴者)に何かを伝える効果には影響しません!
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むしろカメラの高さが一定の小津アングルの方が全然問題あり(?)で、例えば
偉そうな人物や怖い人物はアオリで撮り、
落ち込んでる人物などは俯瞰で撮る
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とかはそれこそオーソドックスでしょう。ところが小津さんは効果的なカメラアングルより1枚の画作りを優先させてるフシがあります。そこが自分たちの世代からみると
わけです。天下の小津映画を「変で面白い」だの「奇妙」だの言うと、古典映画至上主義な先輩の先生方がまたご立腹しそうですが、本当なのだから仕方ありません。
そりゃもちろん“変”だけで「好き」と言ってるのではなく、その画作りも充分に「美しい」と思った上でです。そして黒澤監督と同様、
小津さんは小津さんなりの角度から、超絶に映画を愛してた!
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と感じられるんですよね。どの作品を観てもやはり小津さんの人生が入ってます、確実に。
その数ある小津映画の中で一番好きなのが「東京物語」ではなく「浮草」!
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いや、小津作品の中では「東京暮色」同様、激しい部類の作品です。で、
ですよ。不覚にも、煙草吸う女で初めて綺麗だと思っちゃったくらい。
冒頭の俯瞰カットはそれまでの小津映画にはなかったもので、仕掛人は「羅生門」の名カメラマン・宮川一夫様だというのは結構有名。前述のように「浮草」は松竹(小津監督のホームグラウンド)ではなく大映のため、カメラマンも当時大映の宮川さんというわけ。
旅芸一座で劇中劇あり……というトコが何となく「モノ作り」で、好きな理由のひとつ。ドシャ降りの雨の中怒鳴り合う中村鴈治郎と京マチ子はエラくド迫力。ラスト、でもやっぱり最後は寄り添う中村鴈治郎と京マチ子――幸せのひとつのカタチを美しーく描いてます。
でも、黒澤観ても小津観ても、今回のどん底からはなかなかはい上がれそうにないまま、現在はとある7月新番のオープニングのコンテ・演出・原画(一部)やっておる板垣でした……。