前回の続きな感じで『侍ジャイアンツ』を観る日々。番場蛮のハチャメチャな元気のよさは見てて理屈抜きに楽しく何かヤル気が出ます。大塚さん同様、自分もまったく野球に興味がないんですが、蛮みたいな主人公なら描いてみたいと思いました、原画でもコンテでも。
それにしても『侍〜』はスタッフが超豪華ですね。演出(監督と同義)は『巨人の星』や“超電磁”何トカロボでお馴染みの長浜忠夫で作監(今で言うキャラ・総作監)が大塚康生。宮崎駿と小田部羊一が原画を描いた、あまりにも有名な第1話はコンテが出崎統(ペンネーム使用)!――の以上敬称略。
大塚さん本人の談では「宮さんが前半(Aパート)で、小田部ちゃんが後半(Bパート)」らしいですが何十年前の話、多少の記憶違いもあるかもしれません。何せ劇場版『じゃりン子チエ』の作監の割り振りですら、大塚さんと小田部先生それぞれで少々言い分が食い違ってるんですから。でも以前俺がスケッチブックに
たくさんの小田部キャラが小田部先生を取り囲んでるイラスト
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を描いてご本人にお見せしたところ(あらゆる著作権がいっぱいなイラストなので、ここでお見せできないのは残念ですが……)、ハイジやマルコなど誰でも知ってる小田部キャラに混じって、イタズラで描いた「ボールを握った左手」を指して、
と当ててくれました。その時のオマケの会話。
小田部先生(以下敬称略)「スゴイ!(先生の口癖)よくこんなに描いたね〜。みんな似てる!」
板垣「先生『ルパン(三世)』はやってないんですよね?」
小田部「僕はあの時『赤胴鈴之助』かなんかやってたんじゃないかな。……でも、実は僕も10カットくらい『ルパン』やったんだよ(微笑)」
板垣「あ、そーなんですか!? どのあたり?」
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と。結局やったトコは教えてくれませんでしたが(ま、それこそ何十年前の10カットじゃ憶えてるワケねーか)、これは大塚さんに確認せねば! って事ですぐテレコムで訊きました(あ、忘れてた! この話は自分がテレコム2年目くらいの時の事です)。
「ああ、ちょっとだけね。でも小田部ちゃんは可愛くなっちゃって『ルパン』は向いてなかったんだよ」
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――が大塚さんの答え。“小田部さんは品がよすぎ”らしいです。その頃、テレコム社内での“大塚さんの講演会”でおっしゃってました。
「パクさん(高畑勲監督)に言わせるとね、小田部さんの描く芝居は笠智衆で僕(大塚さん)の描くのは植木等だ、って。つまり、テーブルの湯飲みを取るんでも、小田部さんはごく自然に描くんだけど、僕がやると、グラスを取るぞ! ってポーズ(一度手を上げてみせて)を入れるっちゅーんですよ」
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うん、確かに。その「植木等」な感じは大塚作画の魅力のひとつだと思うし、自分がテレコムで教わったアニメートの基本でもあります。……そりゃもちろん、大塚さんの若い頃の巧さったら、今の俺とはケタ違いだったでしょうが。
いや、ここらで『侍ジャイアンツ』で始まった項である事はここで忘れてですね(酷えっ!)、どーせ思い出したついでなんで、俺がテレコム新人だった時に訊いた大塚さんの話を書き連ねてみようと思います(だって『侍〜』の感想とか批評なんていまさら板垣が書く意味ないでしょう?)
板垣が記憶する大塚さんの話(1)――やっぱり小田部先生との違い
これは当時よくあったテレコムの飲み会でたまたま大塚さんが俺の横に座った時聞いたお話。大塚さんは前もって「テレコムに板垣という僕の教え子が行くからよろしく」と小田部先生から話をされてたらしく、板垣相手によく「小田部ちゃんは……」といろいろ話してくださったんです。
大塚さん(以下敬称略)「小田部ちゃんはとにかく頑固でね〜。例えば、氷の上をツツーッと滑ってくでしょ? すると小田部はね、ツルーンと勢い余って転ぶと空中で一回転してまた足から着地できる! って言うんスよ」
板垣「へぇ〜」
大塚「ね? 僕に言わせるとそんな事ありえないんスよ、絶対に頭から落ちるって……!」
板垣「はあはあ。たぶん難しいでしょーね〜」
大塚「そう! 物理的にないんだよね」
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……だって。これ、小田部先生と大塚さんの発想の違いがよく出てて好きな話です。自分もその後原画になった時分かってきましたが、小田部さんが言ったという“氷の上で一回転着地”って原画では描けるんですよね、上手くベクトルを操作すれば。画で描く以上不可能なんてないんですから。
つまり、当時お二方の話を直に聞いて俺なりにまとめたのは(勝手にまとめんな! って?)
小田部先生は検証・理論武装より「こーなって(こーあって)ほしい!」って美しい理想が優先した方で、それに対して大塚さんは理屈優先で「こーなるハズ!」っていう方
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だと。タイトルは伏せますが、数年前、某動物主人公のアニメ映画の感想を訊いた際、小田部先生の第一声は
「まず、僕は○○○(動物名)のキャラが可愛くないのがダメなんだよ!」
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でした。たしかに小田部動物キャラは『龍の子太郎』を見てもかなり可愛いんですが、大塚さんに同映画の感想を求めたら――
でしたから。このまったく正反対の両巨匠が同じ作品で作監をやっている(『パンダコパンダ』劇場版『じゃりン子チエ』)のがアニメ作りの深さ、面白さだと思います、俺。