杉井監督(以下、杉)「杉井です、よろしく。板垣さんは『刃牙』をやってたそうで……。ちょうどよかったです、『翼』はこれから“バトルもの”になっていきますから(笑)」
板垣(以下、板)「『銀河鉄道の夜』大好きです!(会話になってない)」
杉「(笑)ありがとうございます。僕はね、映画を作る時6〜7重構造くらいに考えて作るんですよ。だから『銀河〜』は10代の時に見るのと20代の時に見るのとでは見え方が違うんだよね。30〜40代になると、また違った見方ができるはずだから、もっと見てもいいですよ」
自分の作品を“もっと見るように!”って言えるなんて素敵だ!
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板「『源氏物語』はちょっと苦手でしたが(苦笑)」
杉「(笑)『源氏〜』はね、数年前久々に見たんだけど、僕も寝ちゃったんだよ(笑)」
板「(大爆笑)!」
杉「あの長ーい“間”じゃあ……ありゃあ寝るよなあ〜(笑)」
自虐だ!
自分の作品を笑いのネタにできるなんてカッコイイ巨匠だ!
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板「テレコムの頃、大塚(康生)さんからも、東映動画から虫プロへ行った杉井さんやりんさんのお話はたまに聞いてました」
杉「そう(優しく微笑み)。……大塚さんは僕にとって“アニメーターの先生”でね、いろいろお世話になったんだよ」
板「へえ……。大塚さんを知ってる人はみんなそう言いますね〜。学生の頃の先生だった小田部(羊一)さんには、この仕事(『翼』のコンテ)の話をしたら、“ギッちゃんのだったら勉強になるよ!”と言ってくれました。小田部さんとは最近お会いになりますか?」
杉「小田部さんはだいぶ前タックに遊びに来た時以来会ってないかなあ」
板「小田部さんって『じゃりン子チエ』の時テレコムに入ってたんですけど、その頃からいた先輩に聞くと“小田部さんは女の子好きでねえ〜”らしいんですよ。その小田部さんが“ギッちゃんは昔、カッコよくて凄くモテたんだよ”って悔しがってましたよ」
杉「そう(笑)」
板「でも、小田部さんは奥さん(奥山玲子さん・残念な事に去年お亡くなりになられました)にモテモテだからいいんじゃないですかね〜」
杉「そうだよねえ」
板「まあそんなわけで、コンテ打ちなんですが、何かありますか?」
杉「そうだね(笑)、最初僕が1話のコンテきる時まわりの人に“300カットにおさめてみせる!”って言って始めたんだけど、上げてみたら400カット近くいっちゃってねえ(笑)」
板「(大爆笑)!」
杉「やっぱり、サッカーって人数が多いスポーツだから必然的にカット数が増えるんだよね〜。だから、今回のシリーズは何でもあり! 普段僕はあまり好きじゃない“分割画面”や“3回PAN”“流背”……何でもやっていいです」
板「やっぱ流背(背景ではなく、荒い流線タッチを高速で引く表現。ちなみに板垣は結構好きな表現)は嫌いですか、杉井さん?」
杉「うん。“ボケ背”(同じく背景ではなく、空間色……つまり空なら水色のグラデやにじみで描く表現)はいいんだけど、流背は“画”じゃないよ、ありゃあ!」
出た! 杉井美学! “流背は画じゃない”!!
でも『翼』では嫌いな流背も使う! いや、自分も今、監督をやってるから分かるんですが、“作品を面白くするためなら、嫌いな表現でも使う!”――これを認められる人、なかなかいないって思います。特に、アニメーター(絵描き)出身の監督では!
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板「でも『翼』の第1話見ましたけど、そーゆー表現云々より、原作にある“スーパーヒーロー”的主人公初登場でなく、“なにげなく皆の前に現れた”少年が、試合の最中、徐々に頭角を現していって、最後“俺、大空翼!”ってトコまでの盛り上がりは実に丁寧に追ってあると思いました」
杉「そうでしょう? 皆コンテきる時、絵面で追ってっちゃうじゃないですか。僕はコンテきる時、絵面より……」