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COLUMN
板垣伸のいきあたりバッタリ! 第55回
杉井ギサブロー監督とのお話(2)
〜やっぱりカッコイイ!

 (前回からの続き)

杉井監督(以下、杉)「そうでしょう? 皆コンテをきる時、絵面で追っちゃうじゃないですか。僕はコンテをきる時、絵面よりは“気持の流れ”を追うんだよ」

 “気持ちの流れ”を追う!!
 ……なるほど、俺、『刃牙』の時はやみくもに“面白いカット割り”ばかり考えててそんな事思いもよらなかったっ! 恥ずかしっ!

板垣(以下、板)「で、どんな感じのコンテがお好みですか? 何か“これだけはやってほしくない!”事とか」
「そうねえ、僕は皆でよってたかって作っちゃってもいいもんだと思うんですよ、TVシリーズは。だから、特に『翼』は“流背”でも“3回PAN”でも何やってもいいですよ」
「嫌いなアングルとか?」
「まあ、特に嫌いなアングルはないけど、逆に好きなアングルと言えば、僕は“寄り”が好きだねえ。頭切る(頭がフレームから外れる)くらいのね」
「あ、俺も好きです、それ! そーいえば『タッチ』とかも頭を切るくらいの寄り、多かったですねえ」
「僕に言わせると“頭は芝居なんてしない”んだよ」

 頭は芝居しないっ!
 またまた出た、杉井美学! こーゆー話、大好きです、板垣は。

「(笑)お任せください、寄りは得意ですから!」
「あとね、板垣さんもアニメーターだからといって、作画に頼らないで、“演出で見せるシーン”を1ヶ所は作るようにした方がいいですよ」
「“演出で見せる”……?」
「そう。アニメーターの人はすぐに枚数使った作画の見せ場でその話数を作ろうとするから。ま、もちろんそういう見せ場もあっていいけど、“ここは枚数を使わず演出で見せてやる”ってシーンを作る事を心がけると、その話数は本当に栄えますから」

 これはまだまだ“コンテ打ち”ならぬ“杉井教室”での講義のほんの一部です。この調子で3〜4時間は続いたんじゃないでしょうか……。本当に楽しい打ち合わせでした(『鉄人28号』の時の今川(泰宏)監督とのコンテ打ちも4時間くらい楽しくおしゃべりしましたが、その話はまた今度!)。
 そうこうして、杉井さんの『キャプテン翼』には1年間のシリーズの内、後半からの参加でしたが、全部で8本のコンテきらせていただけました。後半半年分(26本)中8本が俺のコンテで本当によかったのでしょうか?(汗) でもやっぱり『翼』の最後の頃には、

 「板垣さんのカット割りは気持ちがいいですよ」

 ってホメていただけたくらいでは、まだまだ杉井さんの事を“ギッちゃん”と呼べないという事だけはわかった! ――のエピソードをふたつ。
 まず、ひとつめは“とても素敵な早苗ちゃんの描写”。あれは自分が関わってない話数なので、何話だったか忘れましたが、たしか翼君と早苗ちゃんが砂浜で立ちつくして夕陽を見てる……という本来だったらベタベタなラブシーンを予感させるところでも、例によって翼君は早苗ちゃんを見向きもせず、世界に向けて……サッカーの夢について語ってるんです。そこで“ふたりの足元のカット”。早苗ちゃんの方が2〜3歩下がって――(これ、さっきから記憶で書いてます。違ってても文句言わないでください!)

 「フレー! フレー! つ・ば・さ!!」

 と応援しはじめたのです! ビックリしましたよ、もう! でもビックリしたと同時に、

 「これ『キャプテン翼』ならではのラブシーンだ!」
 (この話、グループ・タックのWEBサイトの“今掛勇インタビュー”に俺の名前入りで出てました)

 とも思いました。その話をチーフディレクターの今掛(勇)さんに伝えると、こうおっしゃったのです。

 「ええ、あれは杉井さんです」

 凄い! その当時、『エ○ァ』以来流れてた“僕たちの世代の悩みや葛藤を分かって描いてくれてる”的アニメの主人公像にウンザリしてた俺にとって、“若者はこうあるべき!”的オヤジの説教アニメの主人公像の方がかえって新しく思ったわけです。『タッチ』とはまた違った恋愛描写で杉井監督の空気を感じる事ができた素敵なエピソードでした。
 そしてふたつめのエピソードは、第49話「狙え! 10ゴール10アシスト」での事。
 これは念願叶っての、『翼』8本のコンテ中、唯一の“演出処理までやった”話数です。いや、演出だけでなく“作画監督”まで……。つまり“コンテ・演出・作監”でやらせていただきました。その第49話のカッティングの時、タックの編集室に行くと、『刃牙』でもお世話になった編集・古川(雅士)さんからいきなり飛んできました。

 「おおい、板垣君。尺足んないよ! 今の時点で10コマオーバー。止め10コマ落としてカッティング終わりにするか? ははははっ!」

 こうしてわずか10コマオーバーから始まったカッティングは、いつもの自分のタイミングでバカズバ切っていき、案の定、1分数秒尺足らずまで縮まって、古川さんも今掛さんも困ってしまいました。
 そこへ、杉井監督の登場です。遅れて入ってきた杉井監督はその事態を聞いて、

 “ラスト、それぞれのキャラ寄りにモノローグを足しましょう”

 という提案をされました。その時、編集室のモニター画面に映ったキャラクターのアップをジッと見つめ……。



 スラスラッと書いて“板垣さん、コレどうですか?”と手渡された台詞のカッコよかった事ったら! そして、その時の杉井さんの仕事のカッコよさと言ったら!! 俺が“ギッちゃん”と呼ぼうなんて、身の程知らずな事でした(汗)。



(08.02.14)

 
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