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COLUMN
板垣伸のいきあたりバッタリ! 第65回
『砂ぼうず』と
副監督・板垣(1)

 “副監督”――TVシリーズ『砂ぼうず』の時、テロップ表記されている自分の役職名です。副監督って呼び名はテレビ『エヴァ』から目立ってた気がしますが、正確に誰が始めた役職かは知りませんし(アニメ様、ウンチクどーぞ?)、仕事内容も作品それぞれによって様々違いがあるでしょう。<特にウンチクはないなあ(スマン)。それまで総監督と監督だったのを、『エヴァ』では監督と副監督と表示したわけだけど、当時「面白い役職名を使うなあ」と思ったよ(小黒)

 じゃ、『砂ぼ』における板垣って、何をした副監督なのか?

 それは、まずこの作品に関わる経緯から説明します。あれはたしか、『獣兵衛』→『十兵衛2』でマッドハウスにいた時、隣りの席にいた吉松(孝博)さんより

 吉松「板垣君は来年の仕事決まってます?」
 板垣「『この醜』以降はなーんにも〜」
 吉松「じゃ、『砂ぼうず』やりませんか? 『砂ぼうず』」
 板垣「『すなぼーず』?」


  ちなみにこの時、監督はまだ稲っち(稲垣隆行)ではありませんでした。監督だけでなくシリーズ構成も山口(宏)さんではなかったみたいです。「みたい」ってのは、自分はあまりそのへんの事情は知らないし、今回のコラムにはまったく関係ない事情だからです。そしてある日、その俺にはまったく関係ない事情により、キャラクターデザインの吉松さんを残し、監督・シリーズ構成が揃って降板になってしまいました。その時の『砂ぼ』は吉松さんのキャラは進めてたものの、放映開始まで9ヶ月をきった時点で脚本は初めから!

 そこで!

 「やる事なくなった」っつって『ガドガード』の時ゴンゾを出ていった俺に対して、ずっとゴンゾにいて持ち前の粘りでコツコツとゴンゾ作品の各話演出をこなしてた稲っちの監督デビューとなったのが『砂ぼ〜』なわけです。
 どこかで言ったり書いたりしたかもしれませんが、稲っちとは以前アゼータ・ピクチャーズという会社で知り合って以来の付き合いで、アゼータ時代はよく朝までエロ・トークで飲み明かしたりしたものです。



 ま、以下はその稲っちから俺への、『砂ぼ』依頼時の会話(電話で)。

稲っち(以下“稲”)「『砂ぼ』さあ、俺が監督をやる事になっちゃったんだけどさあ、時間(スケジュール)もないし一緒に、共同監督でやんない?」
板垣(以下“板”)「やだ、共同監督なんて。だって責任の所在が曖昧になるし、稲っちにきた監督なんだから、監督の肩書きは自分でもらった方がいいでしょ」
「副監督、とかさあ〜」
「それ、どーゆー仕事してほしいの、俺に?」
「まあ、コンテ・演出がメインだよね〜、あとは好きに……」
「つまり、これってスケジュール的に倍速で進行したいから監督2人で、なんだよね? じゃ、こーゆーのどう?」
「何?」
「例えば俺がチェックしたレイアウトを、監督チェックで溜めたりしない事。コンテチェックも俺に任せる分は微調整以上の監督チェックはNG。カッティングも俺に任せたなら監督は立ち会わない――まあ、ラストの確認はOKだけどね。どーゆー事かっつーと、スケジュールの巻き返しが目的で俺を雇うなら、監督フィルター(監督チェック)をふたつ重ねてもかえってスケジュールを悪化させるだけでしょ? だから、稲っちが監督として本読み、編集、アフレコ、ダビング、V編やってる間、レイアウトチェック、コンテチェックとかを現場で進めとくとか。だから、監督フィルターをふたつ横に並べて2倍の速さでチェック物を流す――って感じかな? そーゆー副監督ならやってもいい。とーぜん、3割4割は板垣っぽくなるけど、手柄は“稲垣隆行監督作品”でもってっていーよ。もちろん批判も(笑)」
「あい(笑)。そんな感じでいいす〜」

 だから『砂ぼ』における板垣は、いわゆる助監督とか監督補佐みたいな、「監督様をフォローフォロー」的立場じゃあなく、やりたいトコを好きなよーにやっちゃうっつー、「監督から仕事奪って俺フィルム作っちゃおー!」的自分勝手な副監督だったというわけなんです。
 稲っち、やり辛かったと思いますよ〜。だって、間違いなく彼の思ったとおりにはなってないですから、板垣のやった部分は。でもそのゴチャマゼ感が『砂ぼ』にはよかったのかと……自分仕事を正当化してみたり。そのお互いの違いが分かりやすいのが『砂ぼ』最終話ですね。あれ、テロップ上のスタッフ表記は、監督を立てるかたちで稲っちの方が上に出てますが、実際は、前半のコンテ・演出が板垣伸で、後半のコンテ・演出が稲垣隆行と正に真っ二つ! お互いの部分にまったくチェックが入ってないのが面白く、作打ちももちろんの事、カッティングですら前半と後半でお互い口出しせず。よって、『砂ぼ』最終話は2人の監督作が楽しめるという、「1粒で2度美味しい」とはこの事?



 事実、作打ちも真っ二つで同時進行でした。



(08.05.01)

 
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