( 前回からの続き。 板=板垣、 河=河森さんです)
板「……で、俺は何の役割をするんですか?」
河「監督、監督!」
板「はあ。……でも、“河森さんが総監督”とかでつくなら自分なんか使いづらいと思いますよ。『砂ぼうず』とかでも“監督の命令下じゃイヤ”って事を条件に受けたぐらいですから、俺、(いくら河森さんでも)言う事ききませんよ、たぶん」
河「いや、今回僕は原作とスーパーバイザー的な関わりだから(クレジット上は“プロジェクトディレクター”となってます)。ホン読みは出るけど、
監督は板垣さんです!」
板「あ、じゃあコンテ以降は任せてくれるんですよね?」
河「うん、OK、OK!」
板「(笑)。……でも、(監督を)受ける受けないの返事は1ヶ月程待ってもらえません? 本当の事を話すと、タッチの差で原作ありの1クール(13本)の企画を先にいただいてて、それの返事次第なんです。この企画(『バスカッシュ!』の企画書を見つつ)、凄く魅力的なんですけど、先に話を持ってきてくれた人を優先するのが自分の主義ですから」
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というわけで1回目の話し合いは返事を先延ばしするかたちで終了したわけです。
あえてもう一度説明しますが、
俺、仕事の依頼は来た順番にどんな題材でも受けます。
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こー言うと、
「板垣、てめえは節操ねーなあ!」
「プライドはないのか!? 最低監督」
「バーカ」
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って呆れられそうですが、勝手にしてください。こちとら、
フィルムに限らず、常に何か作ってないと生きていられない!
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んですから! 社員で金さえもらえれば数年に1本の監督作品すらもできなくともよい……って方とは根本的に違うんですよ。あと、俺はどういうわけか、
どーんな企画でも自分から能動的に好きになって自分らしい作品を作れる!
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って感覚(……もしかしたら自信かもしれない)があるんです。だから自分で立てた企画じゃなくてもいいから“1本でも多く作品を作りたい”と思ってるって事。そしてそれが“来た順番に仕事を受ける”理由です。はっきり言うと企画は何でもいい! 早く欲しいんです。
なので『バスカッシュ!』がどんなに魅力的な企画だったとしても先にいただいた話から優先して考えてました。ところが、実を言うと別の企画の方も先方に返事をするまで時間があり(これはもともと「原作読んでから返事します」の約束だったため)、贅沢にも両作品の返事を保留にしたまま、毎週河森さんと『バスカッシュ!』の話をしにサテライトへ通いました(「監督やる」とOKするまで3回ほど……)。以下は、まだ正式に監督を引き受けていない時点での河森さんとの会話。
板「そもそも、スポーツをロボでやって面白いんですか?」
河「それはどういう……?」
板「いや、つまりスポーツに限らず音楽なんかの芸術もそうだと思うけど、それぞれに才能がある人がギリギリまで鍛えられた肉体とか技とか……なんて言うか、その……精神も含めて“人間の素晴らしさ”で人々に感動を与えるもんですよね? はっきり言って汗かかないロボ見て、しかも実写でもなくアニメで皆感動するのかなあ〜?」
河「うん。でもそれは“モータースポーツ”ってジャンルが成立するんだったら、ロボットスポーツも大丈夫じゃない?」
板「……あ、なるほど〜!」
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――納得しました。自分、納得すると案外素直に従うんです。今まで俺に噛みつかれた人たち、たぶん悪いのは納得させられなかったあなたたちの方でしょう。で、河森さんの言う事はいちいち説得力があって面白かった俺は、サテライトに通うのが楽しくなっていきました。
板「でもまあなんにしても“スポ根ロボット”だけじゃ弱いと思いますよ」
河「じゃあ、板垣さんは(この作品を)どうしたいんですか?」
板「俺的には“月に向かってダンクシュート決める”ような作品にしたい!」
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と、また“直感”で即答したんです。本当は「え、何それ?」って突っ込まれると思って次に続く言葉をどうデッチ上げよーか? などとあれこれ考えてた板垣の目の前に、河森さんの意外な反応がありました。
――こーして作品のテーマが決まりました。