第5回 ちゃんと帰ってくるフネが好き
話はあとさきしてしまうのだけど、とはいいつつ『侍ジャイアンツ』は、番場蛮が「巨人軍のでっかい腹を内側から食い破ってやるぜ!」と息巻いているあいだはおもしろかったが、いったん川上監督の前にひざを屈してしまうと、こちらは中学生ながら、そこから先の展開に『巨人の星』との違いを作っていくのが見るからに難しそうだなあ、などと思うようになってしまった。単純に、『侍ジャイアンツ』の冒頭の話運びは、反抗期っぽい10代にちょうど合っていたのかもしれなかった。
そんなこんなで『侍ジャイアンツ』が終わって、来週から何が始まるのだろうと思ったら、後番組の『宇宙戦艦ヤマト』の予告編をやっていた。「監督 松本零士」などとクレジットされていて、へー、と思った。漫画家の人を使うんだ。
振り返れば、4歳で幼稚園に入園した直後に大腸炎になって、いきなり長期休園しなけらばならなくなったことがあった。その前の年に、TVでピープロの『0戦はやと』なんか見ていたので、父親が白粥とリンゴのすりおろししか食べられず臥せっている息子のために、ゼロ戦ブリキ玩具なんかを土産に買ってきてくれたことがあった。そんなものに喜んでいると、親としては、近所の遊園地に本物の零戦復元機が来た、などというと連れて行ってくれるようになり、本棚にも大伴昌司の『怪獣図鑑』のとなりに同じ少年画報社の秋本実さんの本なんかが並ぶようになり、いつの間にかそれなりのヒコーキ好きになっていた。少年サンデーに突然載った松本零士さんの『スタンレーの魔女』なんかを読んで思ったのは、「元ネタが全部わかる」ということだったりした。自分でも知ってるエピソードの断片を組み合わせて、こんなふうにストーリーを組むのか、へえー、と思った。
それとはまた別の話として、のちに『MEMORIES』を作りながら、机を並べる小原秀一さんと「僕らの世代にとって『映画』っていったら『大脱走』だよね」なんて話をするようになるのだが、中学生くらいの頃はとにかく『大脱走』がおもしろくって仕方なかった。
でもって、当時見た『宇宙戦艦ヤマト』は、「旅の途中であきらめたら地球が滅びちゃうので、絶対にあきらめることができない人々の話」という仕掛けになっていて、なるほど、とうなずいた。家族内チャンネル権の問題があって、『ヤマト』は裏番組のNHK『お笑いオンステージ』と交互に見ていたので、小黒さんががっかりしたというビーメラ星の話などは見ずにすんでいた。『ヤマト』はあの独特の劣等感というか、自尊心というかが、やっぱりティーン・エイジャーの心理に響いていたのかもしれない。
だが、こちらがせっかく「あきらめられない」構造がおもしろいと思っていたのに、数年後に『ヤマト』がリバイバルされるようになって続編が作られ、主人公たちが自爆して果てる道を選ぶようになると、自分との接点がなくなってしまった。
自分としては、最悪に近い局面でも知恵をめぐらしてあきらめない人たちの話のほうがおもしろい。のちのち出会ってゆく、『アポロ13』とか、『アビス』の水中脱出シーンだとか、ギリギリの局面でも最後まで道を見つけようとする人の話がとにかく好ましくって仕方ない。
そんな見方をした『宇宙戦艦ヤマト』だったが、自分の中に影響を残したとしたら、それ以降でSFを読むようになったことかもしれない。父親の本棚にまじっていたフレドリック・ブラウンなんかから始まって、もっと宇宙船が出て来るヴォークト、ハインライン、ラリイ・ニーヴンなんかに向かってゆく。氷川竜介さんが『アリーテ姫』を「SF」として見てくださったりして、たいへんありがたいのだけれど、その辺に投入したほとんどの素地は高校生くらいに読んだSF本でできている。
高校の頃読んだラリイ・ニーヴンの『リングワールド』の主人公が、ようやく最近の続編に至って、知恵によって絶体絶命の旧知から活路を開き、人間世界への帰還を果たしたので、ほっとしている。
第6回へつづく
●『マイマイ新子と千年の魔法』公式サイト
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(09.10.05)