第123回 『アリーテ姫』の音楽メニュー(前編)
今回は、資料的な意味合いも含めて、『アリーテ姫』の音楽を作っていただくに際して、監督側から作曲者側に手渡した音楽メニューを載録してみる。 あのときの資料を引っ張り出して読んでみると、自分の気持ちもよくわかったりしてしまうのだが、それをこの程度の文言からちゃんと理解してあれらの曲に作り上げた千住さんに、ひれ伏さなくてはならない。
○M1(C#1〜3)(01:00:10:00〜01:00:48:00)
ナレーションのスタートにやや遅れて、忍び入るように音楽が聞こえだす。
素朴な口調でゆっくりと昔話を語るナレーションです。昔話といってもメルヘンではなく、グリム兄弟が採集する前の祖形の昔語りのつもりです。
城と町の全景カットなるに従って、多少の盛り上がりをみせ、メインタイトルが出る。画面のフェードアウトとともに終わる。
○M2(C#5B〜12)(01:00:56:00〜01:01:46:00)
職人の作るガラス玉の膨らみ受けスタート。
『人の手には、こうしたものを生み出す何か不思議なものが秘められている』
『不思議』
おおよそC#12アリーテ姫の手のUPまで。次カット(熊)には若干の余韻をこぼすぐらい。
○M3(C#33〜38)(01:03:43:00〜01:04:31:00)
アリーテの灯したカンテラに照らし出された秘密の地下道。
あらためて見れば、アリーテ自身が不思議な少女なのである、というニュアンスも少々。だが、別にアリーテ自身がそんなふうになりたかったわけでもなく、人生そのものが不思議なものなのである。
謎の人物(魔女)が登場し、その足元UPまで。
○M4(C# 48〜58)(01:05:51:15〜01:07:02:00)
C#48(騎士の帰還を歓迎する市民たち)のTOPからスタート。
『雄々しく男らしい騎士たち』。
でも近代的なモラルが確立される前の時代ですから、『野蛮』でもある。喩えて言えばバグパイプの音色のような。
舞台が城内に移ってからは多少沈潜するように。
魔法の玉を王様の前に差し出すひざまずきまで。
○M5(C#60〜66)(01:07:17:00〜01:07:48:00)
現実音。『高度な文明の駄玩具』
この映画でいう「滅び去った魔法使いの文明」は、我々の現在とさほど遠くありません。理解しがたい原理で作動するこの透明な玉は、我々の駄菓子屋で売っている電子機器を内蔵した玩具のようなものです。
オルゴールが鳴り出すようにゆっくりと聞こえ始め、次第にテンポを上げ、それに従い、玉の中で回る人形の旋舞も高揚したものになって行きます。
C#66になると、音楽のテンポや、エネルギーを失い(バッテリー切れ)、パタッと途絶える。
○M6(C#70〜75)(01:08:01:00〜01:08:20:15)
ひざまずく騎士たちのUPカットのカット尻からスタート。
たくさんの不思議なものが映し出されるが、むしろ、それらを蛮行の末に集めて来た騎士たちの曲として。M4のバリエーション。
老臣の台詞に余韻こぼし。
○M7(C#108〜109)(01:12:20:00〜01:12:27:00)
現実音。M5と同じ魔法の玉のオルゴール。ネジが巻かれていないオルゴールが弾みで鳴り出し、定速回転が出ないうちにぜんまいがなくなってスピードが落ち、とぎれとぎれに終わる。
○M8(C#110〜119)(01:12:34:00〜01:13:29:00)
C#110(本の表紙のUP)カット尻でアリーテが本に向き直ったところから、『不思議さ』がポロン……ポロン……と聞こえ出す。
秘密のトンネルを行くアリーテの不思議少女ぶりとつながり、
C#119(たぐられて登っていく本のUP)のカットいっぱい。
○M9(C#130〜139)(01:14:20:00〜01:15:00:00)
暖炉の隠し戸から出て来たアリーテ、本を開き、そのページに目を留める立ち止まりの直前くらいからスタート(ほとんどカット尻ぎりぎりです)。
こんなに『不思議』なものがこの世にあった……。
手を見つめるアリーテ物音に気づきまで。
○M10(C#156〜165)(02:00:22:15〜02:01:14:15)
ダラボアの話の中に『不思議』の香りを感じる。
C#156得意げなダラボアのUP振り向きまで。
○M11(C#183〜188)(02:03:53:15〜02:04:33:00)
アリーテ跳び退るのをきっかけにスタート。
ある意味、アリーテの壮大な気宇である。それを沈鬱なムードとともに。
ロウソクのUPへは余韻をこぼす程度。
○M12(C#198〜199)(02:05:24:00〜02:05:31:00)
閉じかけた窓の透き間から見える家々へのアリーテの思い。『懐かしさ』をポロン、ポロン……と短く。
○M13(C#222〜243)(02:07:36:00〜02:10:11:00)
魔女の足元UP……。ここにも『不思議』が……。魔女の存在そのものがこの世の不思議。
魔女との対話の間を縫うように、とぎれとぎれに不思議な気持ちが、ポロロン……ポロンと、断続的に。
第124回へつづく
●『マイマイ新子と千年の魔法』公式サイト
http://www.mai-mai.jp
(12.04.16)