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第7回 本当に? だれでもなれる? 脚本家?
「誰でもはいれるシナリオ研究所」に行くことになったものの、おっちょこちょいで軽率なわりには、わずかに慎重な部分をもっている僕は、そもそもシナリオライターなる職業がどんなものか調べることも忘れなかった。シナリオ研究所は、授業期間が半年。昼間部と夜間部に分かれていて、合計すると、百人以上いる。
さらに、通信講座もあるから、半年間の受講者は見当もつかない。
一年を通すと、軽く三百人を超えるだろう。
さらに、似たようなシナリオ学校も、他にあるだろうから、低く見積もっても、年間五百人はいる(なお、これは四十年近く前のころである。二十一世紀になって、いや、別に二十一世紀にならないころから、この種の学校や講座の林立はすさまじく、とても数えきれたものではない)。
それでいて、脚本を専業にして、食べているシナリオライター……幅を広げてテレビやラジオのコントやバラエティを書く放送作家をいれても……その数は甘く見て百人はいないだろう。脚本家連盟とシナリオ作協というなぜか二つに分かれている脚本業者の名簿を合わせると結構な人数がいるように見えるが、現実ははっきり言って違う。
脚本を書いて、そこそこのぜいたくな暮らしができるのは百人のうちの半分……脚本家通の人に言わせると二十人もいえればいいほうだという。しかも、その人たちの年齢は、三十代から、何歳だか見当がつかないほどの大高齢の大家先生まで、半世紀以上にわたって、ぱらぱらと存在している。
一年間(それも毎年)何百人も脚本家志望者を排出しておいて、プロの脚本家が半世紀にわたって五十人足らずというのは、競争率が高いなどという表現では追いつけない、脚本家になるなど奇跡の沙汰である。
その事実を小耳に挟んだ僕は、困った。
親には、大学に通学する費用を「シナリオ研究所」に使うと大見得を切っていた。
ということは、大学を卒業する四年後……そこそこのところに就業している頃に、シナリオライターになっていなければ、おおぼら吹き、誇大妄想もいいところである。
親から援助されている受験料も、学費も、生活費も、ドブに捨てるようなものである。
「シナリオやーめた」そういって、大学浪人生活に戻ろうとも思った。
しかしである。
「シナリオ研究所」に行くことは、すでに家族の了解をとっている。おまけに口の軽い僕は、高校の友人達にも、しゃべっていた。
「ここで、シナリオライターはあきらめた」といえば、「あいつは、自分の将来や夢を、簡単に放棄するいい加減なやつだ」と、軽蔑されるだろう。
学生運動盛んの折から、僕の大嫌いな「自己批判せよ」などという言葉もあびせられかねない。
何より、まずいのは、難関だと思っていたガールフレンドの了解までとっていたことである。
彼女の口癖に冗談半分に軽く言う「首藤君って嘘つきなんだから」というのがある。これまた冗談半分に言う「いい加減なんだから……首藤君」というのもあった。
ここで、シナリオを、止めたといえば、文字通り「嘘つき」で「いい加減な」男になってしまう。
当時、シナリオ研究所の教室は銀座線地下鉄の青山一丁目にあった。銀座線の渋谷から、青山一丁目の駅まで、地下鉄の中で、「シナリオ」に無謀な挑戦をするかどうかで困っていた。その時は、まだ、授業料を払い込んでいなかったから、いまなら止められる。
その時だった。ふと、浮かんだ曲があった。
クレイジーキャッツという音楽グループというかお笑いグループのメンバーの一人、植木等氏が謳っていた当時のヒット曲「スーダラ節」だった。
今、聞く機会がおありでいたらぜひ聞いていただきたい名曲?だ。
その曲を思い出したことで、僕の決意は固まった。
「サラリーマンは気楽な稼業……スーダラやってけばなるようになるしかないだろう」というような内容の歌詞であった。
僕は、青山一丁目の地下鉄の階段を駆け上がりながら「えーだば。えーだば。なるようになるしかないだばさ」
分かりやすく言えば……これはどこの方言でもない。
「いいじゃないか。いいじゃないか。なるようになるしかないんだから」
この台詞は、それから十年後アニメシリーズ「ミンキーモモ」の王様の口癖になった。
ここで、皆さんに言いたいこと……脚本になるのにきまじめになることを、お勧めしない。
どうせ、プロの脚本家なんて(売れっ子の小説家もそうだろうが)超狭き門なのである。
気楽にやらなきゃ身が持たない。気楽に、気楽に、お気楽に……。
次回につづく
●昨日の私(近況報告)
ここ数週間、女子高生のことを書いたら、忠告をして下さる方がいた。
「いい歳をしたおじさんが、女子高生を観察しているとしたら、それこそ、変なおじさんと思われます」
そうかもしれないとは自分でも危惧してはいる。
だが、僕が書いているアニメの台詞は、軍人や政治家の言葉は別として、圧倒的に中学生から高校生の言葉が多いのである。あなたがもしも高校生なら、自分や友達がしゃべっているリズムや言葉に関心をもとう。
それが、シナリオ作家感覚を養う基礎だと思っている。
そして、それが、僕が街に男子高校生の姿が少なくなって、会話を聞くチャンスがあまりないのが残念な理由の一つである。
■第8回へ続く
(05.07.13)
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編集・著作:
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