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アニメの作画を語ろう
シナリオえーだば創作術――だれでもできる脚本家[首藤剛志]

第13回 恐怖の20枚シナリオ(Part 2)

 先生から書けと言われた「20枚シナリオ」。なんとなく腑に落ちない気がしながらも……いちおう「シナリオ研究所」に通っているのだから、仕方がない……と、原稿用紙に向かった。
 先生は「何でもいいから書けといっても、困るだろう」と、そういって、テーマを決めてくれた。
「出会い」をテーマにして書けという。
 何でもいいから「出会い」を書けというのである。
 そんなことを言われてかえって困るのは、こっちである。
 「一体、誰と誰が出会えばいいんですか?」と、誰かが聞いた。
 「それを決めるのは君たち自身だ」……と、先生が答える。
 猫とネズミが出会えば、「トムとジェリー」(このアニメ、知っていますか? ……例が古いかな?)だが、そうもいかない。当時の僕は、今よりは少し真面目だったのである。
 男と男が出会っても、「やあ。こんにちわ」と、名刺交換しているうちに、20枚なんて、すぐに終わってしまうだろう。
 憎み合う男同士の出会いと対決という手もあるが、憎しみ合う理由を説明しているうちに、やっぱり20枚なんて通り過ぎ、見せ場の対決までにいたらないだろう。
 と、なれば、やはり男と女の出会いという常識的な線になりそうである。
 しかし、男といってもいろいろある。どんな男なんだ?
 女となれば、僕の好みも加わるから、どんな女性にしたらいいのか、さらに困ってしまう。
 つまり、登場人物の容貌、見せるそぶり、口のきき方等、その説明だけで、20枚など吹っ飛んでしまうのである。
 これが、主人公が、カーレーサーのキムタクで、ヒロインが、孤児院で事務員をしている小雪さん……等と決めてくれていると、イメージもわきやすいし、僕なんて、その後のストーリーまで予想できるが、それにしたって、エンドマークまで1時間で13話も続くのである。
 いうまでもなく、これ、最近放送された「エンジン」とかいうTVドラマだが、このお話、「出会い」から、中の「エピソード」から「終わり」まで、恐ろしいほどいわゆるドラマの教科書通りに作られていて笑っちゃうから、アニメファンの方達も、そのうちビデオにでもなったら、参考に見てみるといいと思う。
 その、常識的意外性(?)を持った教科書風ドラマの脚本は、韓流ドラマの参考書的存在脚本、あのヨン様とチェ・ジウさん主役の「冬のソナタ」と双璧をなすといっていい。……しかし、どうして、僕はその気はないのに、(むしろ否定的なのに……)他人の作品のPRをするような書き方になってしまうのだろう。
 話を元に戻すと、キムタクも、チェ・ジウもいない僕らの20枚シナリオは、男と女の出会いを描くにも、登場人物のキャラクターを決めるところから、大変な苦労を必要とする筈なのである。
 正直言って、20枚で、土台、出来っこないのである。
 それでも、書かなければならないから、結局……格好いい若者がいるとか、ハンサムだけどちょっと斜に構えた男がいるとか、きれいで、かわいらしくて、やさしそうな女の子がいるとか、極めて、ありふれた形容詞で、表現しなければならない人物の登場になる。
 「出会い」をテーマにした20枚シナリオで許される男女の登場人物の説明にさかれる枚数が1枚以上あっては、ドラマやストーリーのあるシナリオの形にならない。
 当然、登場人物のキャラクター性は、パターンになりがちである。
 「人間を描く」という、偉そうなお題目があるはずの脚本の登場人物が、パターン表現描写の人間ばかりでは「人間」など描けるはずがないではないか。
 などとぶつぶついいながら、とりあえず、初めて書く20枚シナリオの主人公を「シナリオ研究所」の夜間部に通う男という設定にした。
 前の方の回にも書いたが、研究所に通う人たちは、様々である。決して、一様ではない。
 しかし、ここは、社会的通念として、暗闇で見る映画を夜間、勉強している男……今で言えば、根暗タイプの純正オタクということにした(断っておくが、僕は、オタクが暗いやつらだと思っている訳ではない……アニメというオタク業界に近いところで仕事をしている僕は、明快に答えることができる……オタクは暗い奴ばかりというのは、誤りである!)。
 ともかく、その男は、「シナリオ研究所」に行く青山通りの雑踏で、1人の女を、追い越した。
 かわいくて、きれいで、聡明そうで、誰からも愛されそうな美人だった。
 「あ、僕の作品の主人公にしたいような素敵な人だな……」と、一瞬思ったが、ただ、それだけのことで、声をかける勇気も軟派系でもないから、そのまま通り過ぎただけだった。
 だが、道を急ぐうち、彼は気がついた。彼女が、自分の後ろを、同じ距離で付いてくる事を……彼は、道を曲がる。彼女も曲がる。暗闇の道を通る。彼女も来る。
 振り返る彼に見える彼女の顔は、暗闇の街頭の中で、青白く光って見える。
 美しいだけに、なおさら不気味に見える。
 彼は、恐怖にうちふるえる。
 追われている。
 当時は、ストーカーなどという言葉はなかった。
 まして、女のストーカーなどいるはずのない時代だ。
 彼は、怯え、胸の動悸を押さえながら、やっと、「研究所」の明かりを見つけ、駆け込む。
 なんと、女は、しつこく「研究所」の中まで追ってくる。
 彼女の顔も、どこか、恐怖に引きつっている。
 しかし、その顔に、ほほ笑みがやどった。
 「同じ研究所の人だったんですね。わたし、いつも、私の前を歩いているあなたが、怖くて、怖くて……」
 「はあ」としか、答えるよりない男に、彼女はにっこり笑いかけ言った。
 「よかった……」
 これが、二人の出会いだった。
 この下らないコントのようなシナリオが、割りと好評だった。かわいくて、きれいで、聡明そうで、誰からも愛されそうな美人が追いかけてくる意外性と、男の恐怖が、リアルだったかららしい。
 しかし、書いた僕本人は、多いに不満だった。
 かわいくて、きれいで、聡明そうで、誰からも愛されそうな美人が、夜の「シナリオ研究所」なんかに、通ってくるか? 他にやりそうな事がいっぱいありそうなものである。
 それでも、シナリオを勉強したいというなら、それなりの理由が描かれていない。
 だいいち、かわいくて、きれいで、聡明そうで、誰からも愛されそうな美人が、僕のあとを追跡してきたら、恐怖感など持たない。喜んで立ち止まり、彼女に声をかけるだろう。
 このシナリオ、書いた本人には、全くリアリティがないのである。
 あと、5枚、枚数があったら、僕は続きを書いただろう。
 2人は、数日後、別のところで、再会する。
 警察の取調室である。
 実は、2人ともストーカーだった。
 男は、女ににっこり笑いかける。「いつも、女性を追いかけている僕が、あなたに追いかけられるなんて、怖かったけど……よかった……」
 シナリオのひどさは、どっちもどっちだが、リアリティなら、5枚余計な後のシナリオの方が勝ると、その時の僕は、思ったのである。
 ともかく、こんな20枚のシナリオをこれから先、山ほど書くとしたら、僕という存在のリアリティさえなくなってしまうと、18才の僕は、本当に困ってしまった。
 そして、さらに、後、2本も、20枚シナリオに付きあってしまったのである。

    つづく


●昨日の私(近況報告)

 「出会い」がテーマといえば、まさに出会いが、そもそもの始まりという「電車男」という映画を見た。
 原作本(?)は、読んだが、オタク青年に助けられたエルメスと言う女性のリアリティのなさにあきれた。女性の意見も聞いたが、エルメスは、虚構か妄想の女性か、でなければ、オタク青年を、面白がって遊んでいるとしか思えないという声がほとんどだった。
 しかしである。映画は違っていた。
 エルメスさんに、妙なリアリティがあるのである。
 その分、「電車男」君に、オタクっぽいリアリティが薄いが、そんなことはどうでもいい。
 ひさしぶりに、エルメス役の中谷美紀という女優さんのリアリティに、驚きあきれ見とれてしまった。
 こうなると、作品の出来など、どうでも良くなる。
 ついでにTV版の「電車男」も見たが、こちらのエルメスさんのリアリティのなさは、ひどすぎる。多分、女優さんだけのせいでなく脚本と演出のまずさだ。だからといって、映画板「電車男」のエルメスさんの良さは、脚本や演出を通り過ぎて、あくまで女優の存在である。
 中谷美紀という名前を追いかけて、「約三十の嘘」(これも、ストーリーはリアリティがないが 中谷美紀だけは妙にリアリティがある)、おまけに嫌いなはずのホラー「リング」まで見てしまった。
 ガールフレンドは現地調達をむねとしていた僕には、好きな女優やアイドルは、ほとんどいなかったが、若いころの秋吉久美子……後藤久美子……アニメのアイドルものを書くときに、その番組とは関わりのない演出家から、なぜか参考に教えてもらった森高千里(この人の歌は、詞がいい)以来の、僕としては珍しい注目女優である。
 もっとも、皆さんには中谷美紀という女優さんは、お姉さんすぎるかもしれないが、ここに並べた女優さんやアイドルから、僕の言うリアリティの意味を余り軽蔑せず御理解戴けるとありがたい……。ついでながら、外国女優は、どんな役でもやっちゃえるニコール・キッドマンかな……。
 

■第14回へ続く

(05.08.24)

 
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