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第39回 『戦国魔神ゴーショーグン』予告のわけ……
『戦国魔神ゴーショーグン』の脚本の1話は、他の作品でもそうだろうが、演出の湯山邦彦氏を中心にしたスタッフが、第1話なりの力を入れて、うまく作られていたと思う。
移動基地、グッドサンダーが、当時はまだ東京都庁のできていなかった新宿西口の地下から浮上するシーンも、東京のビル街の上空を進み、ブンドル率いるクラシック楽隊部隊との戦いも、当時の他の作品と比べても遜色のない出来だったと思う。
少ないシーンではあるが、レミー島田とブンドルの性格描写も、うまくいっていた。
フイルムにろくに絵の入っていないアフレコ現場だったが、第1回目のアフレコゆえに、集まってきた湯山邦彦氏以下のスタッフも「まあ、いいんではないかい?」と、頷きあい、絵が入っていないこと以外は(本来は、重大な欠点なのだが……当時の他のアニメも状況は変わらなかったらしい)、さして反省会らしきものもせず、夕方すぎのアフレコだったこともあって、スタッフ・キャストみんなでくり出した「打ち入り」という名で行われる食事兼飲み会も、和気あいあいと終わった。
余談だが、当時のアフレコは、現在のようにビデオでは行われず、映写機にかけるフイルムでやっていた。
30分(正味23分程度)の番組なら、3分の1巻ずつ分けて、1巻7分ちょっとぶっ続けでアフレコするのである。
録音に失敗があると、フイルムをいちいち巻き戻して、また、その部分をやり直さなければならない。
今のように、声優が間違えたところだけ、ビデオで簡単に取り出して録音し直すわけにはいかないのだ。
だから、その分、声優の方達も、失敗のないように一生懸命にならざるを得ない。
僕としては、アフレコ録音の技術進歩で、簡単に台詞の間違いを直し、声優達の声を切り張りのように編集して完成される、今のアニメの録音を決していいものだとは思っていない。
声優達の役柄に対する感情ののめり込み、モチベーションが、ばっさばっさと途切れて、それぞれの台詞の断片がはめ込まれている、音のパズルを聞いているような気が僕にはするのだ。
登場人物の台詞は、相手の台詞との絡みも含めて、連続性があってこそドラマであり、演技である。
その録音が、抜き取り、切り取り、貼り付けでは、声優の演技力を期待するほうが無理である。
誰もが、どんな場面でも使えるような、切り取り用のパターン通りの演技しかできなくなる。
仮に、声優に演技力があっても、その聞かせどころがなくなる。
誰がやっても同じ、ただ、声の質の違いだけになってしまう。
誰がやっても同じなら、声優ブームの昨今、容姿のいいほうがいい。写真写りがはえる人のほうがいい。
歌が歌えればなおいい。多少の上手下手は、歌の録音後に機械技術の処置でごまかせる。
かくして、「グラビア声優」や、「シンガー声優」が登場してからもう、20年以上経つ。声優としての演技力とは、全く別物である。
「グラビア声優」という変な言葉は、そんな声優の草分けとも言われて(ただし、この人自身は実力があった)、今はベテランになった声優さんが、若手の声優のあまりの演技力のひどさにあきれ果てて作った、「困ったちゃん声優」に対する新語である。その言葉を聞いた時は、僕も笑ってしまったが、「グラビア声優」は今となっては当たり前の呼び名になっている。
大昔。声優は、収入の少ない舞台役者や、売れない俳優がアルバイトでやっていたのが多かったという。
顔は出ないが、その分、身についた演技力と個性を発揮する場でもあったのだ。
だが、今は、声優志望の人が大勢いる時代だ。声優になるための学校もある。
それらの学校だって、けして、演技力や個性の大事さをないがしろにはしていないだろう。だが、そこで声優修業している人が、大勢の客を前にして演技する機会はそんなにない。TVや映画のように、容姿や個性を大衆にさらすこともないだろう。
演技力や役者の個性は、観客がいて育つものだ。
もちろんTVや映画にも観客がいる。
売れない俳優が、TVや映画に出て注目されることで、みるみる演技力がついてくる。そして個性や存在感が出てくる例は多い。
役者は、なにより観客が育てるものだと、僕は思う。
少人数の前で、相手がマイクだけ……しかも、演技は、台詞の切り張り、抜き取り。アフレコ録音の技術の進歩は、あきらかに、声優の演技レベルを下げていると思う。
最近、劇場アニメなどでは、TVや映画に顔出ししている人気俳優が声をやる例が多い。
これは、宣伝効果を狙う面も多いにあるとは思うが、あながちそればかりではあるまい。
声優としての技術を必要とする仕事には慣れていなくとも、それに勝る、演技力、個性、存在感を必要として、製作者や演出家は、観客の前に顔出しすることに慣れている俳優を使う場合も多いと思う。
30分程度のTVアニメで、小さな画面の中の、切り張り慣れの存在感ぽっちでは、大画面で長時間の劇場アニメには耐えられないのだ。
若手のアニメの声優が、今後、役者として存続できるかどうか、今は、とても難しい時期にきていると思う。
『戦国魔神ゴーショーグン』に関して言えば、その点に問題はなかった。音響監督の松浦典良氏のおかげで、存在感のある声優……いや、役者がそろっていた。これで、パターン通りのロボット物をやるのはもったいなさすぎた。
もともと僕自身が、『戦国魔神ゴーショーグン』を企画書どおりのロボットもののパターンにする気がなかった。登場人物の個性が際立つ作品にしたかった。そのために、僕にとって一番大切なのは、人物や設定を紹介する第1話ではなく、むしろ第2話だった。
第2話になって、キャラクター達の個性を全面にした芝居や台詞が出てくる。
『戦国魔神ゴーショーグン』のメンバーは、それぞれ自分勝手である。
グッドサンダー(正義側)のメンバーの誰1人として、隊長サバラスの命令通りには動かない。サバラスもそれをむしろ楽しんでいるようなところもある。
正義の味方のはずのメンバー、真吾もレミーもキリーも、命が危なくなると、ロボットを捨てて逃げてしまうような連中である。
いちばん正義派に見える北条真吾の台詞にしてからが、普通なら「1度死んだ命だ。惜しいとは思わない」というところが「1度死んだ命だ。2度も死んでたまるか」である。
『戦国魔神ゴーショーグン』最終部分のために大切な伏線になる少年、ケン太の決まり文句は「メカは友達」で、今、秋葉原近辺をうろついている人たちの元祖のようなことを口癖のように言っている。
レミーは婚期を逸することを気にしているようだが、対象になりそうな真吾とキリーのことは、単なるおふざけを言い合う仲間としか認めていないようだ。
キリーは、ニューヨークのブロンクス・ギャングの若頭だったくせに、「オレには何もなかった」などと言いながら、「ブロンクスの狼」という気取った自伝を書こうとしている。グッドサンダーを、自伝を書くために、警察の目から逃げるための隠れ家か別荘と考え違いしているようだ。
対する、敵・ドクーガ(悪側)のメンバーも勝手である。一見、親玉のネオネロスの命令に従っているようなふりは見せているが、腹の中は自分勝手の都合で、ドクーガの幹部をやっているのだ。
こういった、ロボットもののパターンを踏まえながらかなりずれている、このアニメの本性が現れるのが、第2話のストーリーと彼らの台詞である。
普通、第1話が放映される頃には脚本が6、7本が完成しているのだが、第2話の台詞に関しては――本当は第2話に関してだけではなく、ほとんど全部の話数だが――アフレコぎりぎりまで、決めていないものもあった。
『戦国魔神ゴーショーグン』で使われた台詞のいくつかは、最後の最後まで、考え続けていたといっていい。
そんな兆候が明らかになるのが、第2話である。
これが、どう受け止められるか。実は、第3話、第4話は、ストーリーの概略は僕が作り、他の脚本家の方に書いてもらったが、台詞がまともで、『戦国魔神ゴーショーグン』のタッチではなかった。そこで、台詞の3分の2以上を、僕が書き直していた。脚本家の方には、ちょっと台詞をいじるかもしれないと了解をとってはいたが、それが3分の2以上になるとは……! 書き直しに立ち会っていたプロデューサーの相原義彰氏は、「面白い」とは言ってくれたものの目を丸くしていた。
だが、もしも、この台詞のタッチが受け入れられなければ、この作品はアウトである。
第2話は、代理店の読売広告社の試写室で見た。第1話の試写は大勢いたが、第2話は、なぜか読売広告社のプロデューサー・大野実氏と2人だけしかいなかった。
見終わった後、「面白いんじゃないの」と、大野氏は言ってくれた。
それは、3話と4話の台詞の直しもOK、そればかりか『戦国魔神ゴーショーグン』全体のタッチもOKだと、僕自身が確信した瞬間だった。
そしてこう思った――予告編も僕が書こう。
人によっては本編より面白いという、喜んでいいのか悲しんでいいのかわからない評判をもらった『戦国魔神ゴーショーグン』の予告は、この時決まった。
それは、次の作品『魔法のプリンセス ミンキーモモ』にも続いていく、首藤節とか言われる予告編の始まりでもあった。
つづく
●昨日の私(近況報告)
いろいろな人に会おう。その方法を語る前に、僕個人の特殊事情も述べておかなければならないと思う。
僕は小学生まで、いわゆる転校生だった。
東京の幼稚園は2度代わり、2度目の幼稚園は退学だった。
退学の理由はこうである。
当時、幼稚園生の間で、スカートめくりがはやっていた。
お遊戯の時間、女の子達が、輪になって踊っていた時に、誰かがスカートめくりを始めた。たちまち、それは男の子の間に伝染し、みんながスカートめくりを始めた。
「誰が始めたんです!」
幼稚園の先生が、男の子達を問い詰めた。
その時である。僕の頭にひらめいたものがあった。
アメリカのジョージ・ワシントンの桜の木の話である。
ワシントンは、庭の桜の木を切り倒して、「誰が桜を切ったんだ」と問い詰められた時、「僕がやりました」と自分から言って、「正直な奴だ」と、叱られるどころか親から誉められたという有名な言い伝えがあった。スカートめくりと桜の木を切り倒したのとではずいぶん違うが、幼い僕は、誉められようとでも思ったのであろう。
自分が始めたわけでもないのに、手を上げて、「僕が始めました」と言った。
だが、幼稚園の先生は、ワシントンの親ではなかった。事態は裏目に出た。
先生は、僕の親を呼び出して、「息子さんに変なことを先導させないように」と注意したのである。
それを聞いて父は怒った。父は、ワシントンの親の考え方だった。
「そんなことで、子供を叱る幼稚園はやめてしまえ!」
かくして、僕は幼稚園を卒業しないまま、父の転勤で北海道の札幌に行き、札幌の小学校に入学した。さらに父は、僕が小学校4年の時に、奈良に転勤した。僕も奈良に転校し、関西弁のできる小学5年生になったと思ったら、たちまち東京の渋谷に転校。小学校は、東京で卒業した。ついでながら、僕の生まれは九州の福岡である。
つまり、小学生までの間に、日本を南から北まで居場所を変えたわけで、それぞれの土地に住む人たちとの出会いと別れ、方言の違いに子供の頃から慣れていたのだ。
だから、今まで見ず知らずの土地や人に出会うのが、気にならない性格になっていた。
普通、転校生というと、いじめを気にするが、僕には、未知の学校に転校しても、好奇心が強かったから、いじめられないうちに、知らない相手にいろいろなことを聞いて、なじみ、友達にしてしまうから、いじめらしいことをされたこともないし、1人で孤独に部屋に引きこもったこともなかった。
方言は、その土地の誇りだから、いばって東京の子に、関西弁や北海道弁を教えてやった。
方言を笑われる前に、日本は広い、東京だけが日本じゃないんだぞ、いろんな言葉があるんだぞと、胸をはるのだ。そして、彼らの知らない地方のことを、できるだけ教えてやるのだ。日本一高い富士山は東京にはない。日本一古いお寺も、東京にはない。雪のめったに降らない東京で、札幌の雪祭りはできない。第一おまえらは、スキーもできまい。僕に弱みがあるとすれば、関西にいた時にファンになった阪神タイガースが優勝できないことぐらいだ。おまえらが自慢できるのは、東京タワーぐらいのものだ。
ついでに、東京の小学校と中学校が渋谷の真ん中だということもラッキーだった。商店街があり、超高級住宅地があり、花街があり、おまけに今の代々木公園は、当時アメリカ駐留軍の居住地で、ワシントンハイツと呼ばれていた。
アメリカ人は見慣れているし、貧乏人から金持ちまで、ありとあらゆる職業の人が渋谷にいた。ちなみに、僕の小学校は、今は東急デパートの本店のある場所にあった。
あまりにいっぱいいろんな人がいて、変な差別意識が、少なくとも子供たちの間にはなかったことも幸いした。
これは、僕の子供時代のことで、みなさんが真似できることではないかもしれない。
しかし、人は様々、住む土地も様々、自分には、他人に対して劣等感もないし、優越感もない。その気持ちは持てるはずである。
そして、自分の知らない世界がいっぱいあることへの好奇心は、みなさんの年齢がいくつであっても持てるはずである。
いろいろな人を知っていることは、確実に脚本家になるのに役に立つ。
ジョージ・ワシントンの親もいれば、スカートめくりを親に注意する幼稚園の先生もいるのである。かと思えば、それに怒って、息子を幼稚園から退学させてしまう父親もいるのである。
よく周りを観察してみよう。
平凡な殻をかぶって、この世界は個性的な人が、いっぱいいる。そのことに気がつき、興味を持ち、そういう人たちと付き合うつもりになろう。
まずそれがシナリオライターのファースト・ステップだと思う。
さて、次回は、僕の子供時代の経験から、我々とは別の人間……つまり、異性について、その取りあつかい(?)について話してみようと思う。
あなたが、もし、何かを書こうとした時、いやでも、人間の半分はいる異性を無視しては何も書けないだろうからだ。
つづく
■第40回へ続く
(06.03.01)
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