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第46回 ミンキーモモがやってきた
『戦国魔神ゴーショーグン』の次の仕事は『魔法のプリンセス ミンキーモモ』のいわゆる空編という事になる。いまのところ、アニメ化された『ミンキーモモ』は2種類あって、今ここに書こうとしている『ミンキーモモ』は空に浮かぶフェナリナーサという夢の国から、夢を失いつつある地球の人々に夢を広めようとやってくる少女の話……その10年後に海の中にある夢の国マリンナーサからやって来る『ミンキーモモ』という同じ名前の少女の続編的アニメ(リメイクではない)もあるので、区別するために、ファンが空モモとか昭和モモ(もうひとつは平成に作られた)とか、主人公の声優・小山茉美さんから小山モモ(もうひとつは林原めぐみさんだったので林原モモ)といわれている……その空モモの話である。
資料によると1982年3月から放送が始まっているから、4分の1世紀昔の作品という事になる。
いまだに多くのファンがいて、制作側にも新作の続編の話がちらほら出たり入ったりしているから……(実際、2年ほど前、「小学二年生」という雑誌にコミック版が作られて、それには少しかかわった。……それとは別の続編シリーズ3作目となる企画書らしきものはできている)。
第3の続編が作られれば、3部シリーズ作になり、それには、空モモも海モモもゲスト風に登場する予定だから、3部合わせると、長大な大河作品シリーズになる。
もしも4部ができたら、そのころは僕は生きていないか、物書きなどできない高齢だろうから、どうなるかは、もう知らない。
責任をとれるのは3部目のシリーズまでで、3部作を通じたラストは、もう考えてある。
多分、ほとんどの人がびっくり仰天のラストになるから、今は、ほんの一部の人をのぞき、秘密にしている。
その一部の人も、絶対口外しないと約束してくれているので、いまだに『ミンキーモモ』ファンでいてくださる方は、どんなラストになるか、想像して楽しんでほしい。
さて、一番最初のいわゆる「空モモ」シリーズの話をはじめよう。
事の始まりは『戦国魔神ゴーショーグン』のTVシリーズが終わった時、葦プロダクションの社長からこう訊かれた。
「今度、ジョジものだけど……首藤君どうかなあ?」
「ジョジもの……?」
僕は、一瞬、叙事詩をイメージした。
イリアスやオデッセイ……コーランの歌……古代や中世の大活劇ロマンだ。
なにせ『戦国魔神ゴーショーグン』の後である。そう思っても不思議はないと思う。
「一度、そうゆうの、やりたいとは思ってましたけど」
僕は答えた。
社長は喜んで……
「そう、バルディオスやゴーショーグンの首藤君には、向いてなさそうだから、断られるかと思ったんだけど……」
「向いてない……?」
どういう事かと首をかしげたら、すぐに疑問は解けた。
「女の子向けだからね」
「はあ?」としか答えようがなかった。
つまりジョジものとは叙事ではなく、女児用玩具を売るためのアニメという意味だったのである。
知らなかった。そういうのを女児ものと呼ぶのだそうである。
みなさんは知っていましたか?
スポンサーは玩具会社で決まっていて、放送局も決まっている。
色々なアイテムを使う魔女っ子ものがいいというところまでも決まっているという。
ようするに魔法を使う女の子が主役のアニメという事で、企画が通っているというのである。
「魔法ですね……」
すぐに頭に浮かんだのは、高校時代から考えていたミュージカル、フィナリナーサという夢の国から来た男の子の話だ。
実のところ、しめた! と思った。
こんなところに、つねづね書くのが嫌いな僕が、唯一書きたかったものが転がっているとは思わなかった。
口を開けていた魚に餌とはこの事である。
つまり、男の子を女の子に代えればいいのである。
エピソードは山ほど、考えてある。
「やらして!」と叫びたいところを、ぐっと押さえて……。
「女の子ものは、はじめてですけれど、それでもよければ……やってみてもいいです」
と、平静を装って言った。
「今までの東映ものは意識しないでいいから、自由にやってよ」
と、葦プロの社長が言った。
「東映もの?」
なんのこっちゃ……?
「サリーちゃんとかアッコちゃんとか……」
つまり、魔法少女ものアニメには、東映動画が作っている魔女っ子ものの伝統があって、それが、しばらく途絶えているから、意識はしなくていいというのである。
意識するもしないも、僕は、魔女っ子ものアニメなんて見た事もなかった。
サリーちゃんもアッコちゃんも名前は聞いた事があるが、まるで関心がなかった。
理由は簡単、僕が男の子だったからである。
女の子の見るものなんて男が、それも大の大人が見るものとは思わなかった。
魔女っ子ものをやるからといって、参考にそれらのアニメを見る事もしなかった。
なぜなら、僕の中には、「フィナリナーサから来た男の子」のテーマもストーリーもでき上がっていたからだ。
男の子から女の子への性転換(?)も簡単だった。
「フィナリナーサから来た男の子」はことさら主人公が男の子である事を強調したミュージカルではなかった。
男の子でも女の子でも、どちらでもよかったのである。
この際、とにかく、女の子としてがっちりとした性格づけをすればいい。
僕には妹が2人いる。その妹の子供の頃をよく知っている。
2人とも元気な女の子だった。
おまけに、強力なモデルがいる。
ガールフレンドだった女性の子供の頃を想像すればいい。
これもたぶん、夢に満ちあふれた元気な女の子だったにちがいない。
3人、合わせれば文殊の知恵ではなく、3人合わせれば、強固なキャラクターができる。
一瞬のうちに、まだ、キャラクターデザインもできていないミンキーモモの性格ができ上がった。
僕はミンキーモモがどんな顔で、どんなスタイルをしていようが、性格だけは、変えるつもりはなかった。
実は、この時点では、ミンキーモモはその名前もキャラクターデザインも大人になる魔法さえも決まっていなかったのである。
決まっているのは魔法の女児ものという事だけだった。
こうして、企画会議が始まった。
同時に、キャラクターデザインも芦田豊雄氏をメインに開発が始まっていたようである。
あまり本筋に関係ないと最初は思われていた、ミンキーモモの実の両親である王様とお妃様のキャラクターデザインは、スポンサーの前で、「こんなのどうですか?」と芦田豊雄氏が思いつきで数分で書いたものが、「ええダバ、ええダバ」で決まったそうである。
ところが、主役のキャラクターデザインは簡単にはいかなかった。
企画会議で、いろいろな顔やスタイルのミンキーモモを見せられ、ああだこうだと意見が飛び交った記憶がある。
ミンキーモモという名前も、モコだ、ココだ、ソコだ(これは冗談)……いろいろな名前が考えられた。
ちなみに僕が書いた第1話の生原稿には、仮に「魔法のプリンセス・ココ」という題名がついている。
それほど、名前が決まらなかったのである。
主人公が桃太郎のように犬、鳥、猿 をお供にしているから、結局、まんま、モモがいいという結論になったが、すでに他で商品登録されているという事で駄目になった。
ココで断っておくが、エンデの名作「モモ」は、全く意識になかった。
スタッフに「モモ」と言う児童小説がある事を知っている人もいなかったと思う。
だが、モモは玩具の商品登録上で使えない……主人公の名前は暗礁に乗り上げた。
しかし、モモという名前にこだわった人がいた。
読売広告社のプロデューサー、大野実氏である。
大野氏は、ミルクのようなふんわりとした語感とモモという名前を大事にしたいと言う事で、ミンキーモモという名前を考え出した。
誰も、文句を言うはずがない。
確かにいい名前である。
かくして、主人公の名はミンキーモモと決定した。
『魔法のプリンセス ミンキーモモ』がアニメ史に残る作品かどうかはともかくとして、その名づけ親が、大野実氏である事は確かである。
名前が決まるまでの話で、こんなに長い文章になってしまった。
僕の知る『ミンキーモモ』のエピソードは、山ほどある。
スタッフ、キャストが知っていて、僕の知らないエピソードを加えれば山脈を形成するだろう。
この際だから、覚えているエピソードはできるだけ書くつもりである。『ミンキーモモ』が嫌いな方は、ある種のアニメの制作過程を知ると言う意味で、我慢して読んでください。
また、なにぶん昔の事だけに「そこは違うぞ」というスタッフ、キャストの方がいらっしゃれば、僕に知らせてください。
つづく
●昨日の私 (近況報告)
この欄、このところ、人との付き合い方、異性との付き合い方に終始して……つまりは、「あなたも出来る脚本家」のテーマに沿っているわけで……ちっとも僕の近況報告になっていないじゃないかとのご指摘をいただいた。
その通りである。僕のくだらない近況より「あなたも出来る脚本家」の方が大事だと思ううちに、こんな事になってしまった。
僕が、近ごろ何をしているかより、「あなたは、今日、映画を見ましたか?」の方が大切なのである。
それでも、僕の近況(普通の脚本家と比べても変わっていると自覚している??)を知りたい奇特な方は、先月あたりから、僕がブログに迷い込み書き始めた日記のようなものを読んでください。
ヤフーのブログで首藤剛志を検索すれば出てきます。
http://blogs.yahoo.co.jp/syoutou2/
ブログ「首藤剛志のふらふらファイル箱」の「日常のつらつら話」では、ほとんど毎日の日記、読んだ本や映画の事……。
付録の書庫「未発表作品など公開」には、ぎりぎりまでいって作品化されなかった脚本・プロットなどを載せるつもりです。
今、載せているのは『幻夢戦記レダ2』のつもりだった脚本。
知っている人はご存知でしょうが、いのまたむつみさんのキャラなどで昔、評判になったアニメ映画『幻夢戦記レダ』のパート2(内容は続編ではありません)で、脚本は完成、イメージドラマLP(レコード)まで発売されたのですが、製作会社の諸都合(経営が傾きかけ……結局つぶれた)で、アニメ作品として完成されなかったものです。……ギャラはもらったのでその点の文句は言いません……。
『幻夢戦記レダ2』は長編の上、ブログに字数制限があるらしく連載の形で載せていますが、実際は1週間ほどで書き上げたものです。
若い頃、書いたものなので、いろいろ若気の工夫していて、脚本を書きたい人には参考になるとは思います。
これからも、この書庫には、完成ぎりぎりまでいった作品や、完成したが広く流布しなかったものをファイル代わりに入れて行くつもりです。
興味のある人は時々覗いてみてください。
では、次回からは、また元に戻って、「あなたもできる脚本家」のテーマに沿った話を続けます。
つづく
■第47回へ続く
(06.04.19)
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