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アニメの作画を語ろう
シナリオえーだば創作術――だれでもできる脚本家[首藤剛志]

第61回 ここまで言っていいのか『さすがの猿飛』

 『魔法のプリンセス ミンキーモモ』の延長決定前から、代理店旭通の、片岡義朗氏という方から、たびたび電話がかかってきた。
 新番組の『さすがの猿飛』という現代を舞台にした忍者を主役にしたラブコメ風アニメをやってくれ、というのである。
 原作は小学館の月刊だか旬刊だかの「別冊少年サンデー」の連載マンガだという。
 放送局はフジテレビだが、シリーズ構成が決まっていないので、僕にやってほしいというのだ。
 フジテレビは、竜の子プロダクションの作品で、僕の作品もよく放映してもらっていた。
 特に、小学館の雑誌に連載していた『ダッシュ勝平』のアニメはよく書いていた。
 ただし、原作にないオリジナルのエピソードばかりを書いていた。
 それらの、オリジナル風アニメを、フジテレビのプロデューサー岡正氏が目をつけていたのかもしれない。
 岡氏は、『ダッシュ勝平』や『うる星やつら』をプロデュースした人でもある。
 だが、原則として、僕は原作のあるものは、敬遠する事にしていた。
 なんとなく、原作があると、縛られるようで嫌なのである。
 だからといって、自分の好きなようにストーリーを変えて、原作者の気分を損なうのも、馬鹿馬鹿しいと思っていた。
 すでに『魔法のプリンセス ミンキーモモ』で疲れていたし、『戦国魔神 ゴーショーグン』の小説化の話もちらほらしていて、健康も思わしくなかった。
 しかし、片岡氏はかなり強く、僕に『さすがの猿飛』を勧めてきた。
 『ミンキーモモ』も見てくれていて、僕しか『さすがの猿飛』のシリーズ構成をできる人はいない……というような口ぶりだった。
 「でも、原作があるんでしょう?」
 「あるにはあるんですが、今のところ8本しかなく、すぐ原作がなくなってしまうんです」
 つまり、月刊だか旬刊の「別冊少年サンデー」に連載していて、週1回のテレビ放送だと原作がなくなってしまうというのである。
 原作を読んで見たが、マンガも設定自体が、1年間52本保つボリュームがあると思えなかった。
 ある程度、僕の好きなように変えてもいいですかと聞くと、主人公とヒロインが描けていれば、それで結構ですという。
 『さすがの猿飛』は現代にある忍者学校を舞台にしているアニメだが、それだけでは、広がりがない。
 敵対する、近代化したスパイ学校「スパイナー」を設定して、ライバル高にし、そこの落ちこぼれ生徒であるスパイ候補生の00893と004989というニューハーフ風凸凹コンビを狂言回しに話を展開させる事にした。
 原作には一度しか出てこない忍豚(にんとん)という、猿飛家に居候している豚も、レギュラー出演させることにした。
 そのほか、原作を変更した部分もかなりあったが、後で、原作者と妙な確執が起こらないように、「少年サンデー」の編集長と原作の細野不二彦氏に、プロデューサー抜きで直接会って、それらの変更を快く承諾してもらった。
 僕としては、原作つきの、はじめてのシリーズ構成作品だったが、やり方はいつもの通りだった。
 オリジナルキャラのスパイナーの面々を、原作のエピソードに加えながら、脚本家とこそこそ喫茶店の隅で話し合って、脚本を作っていった。
 案の定、原作はあっという間に消化し、後は、ほとんどこちらの自由になった。
 プロデューサーも演出も、ほとんどというかまったく脚本に口をはさまなかった。
 だいたい、脚本会議というもの自体もなかった。
 これは、こちらとしては大変助かった状態だった。
 脚本のメンバーは『魔法のプリンセス ミンキーモモ』とほとんど同じだったので、『魔法のプリンセス ミンキーモモ』が延長した分の打ち合わせも一緒にできた。その他、数が足りない脚本は、竜の子プロダクションで脚本を書いていた方にお願いした。
 プロデューサーの方達には、脚本部分は信頼していただいた『さすがの猿飛』だったが、制作会社は、かなりきつく目を光らせていたようだ。
 とにかく、アニメの絵がやたらと動くのである。
 もともと原作の細野氏が描かれる少女達がかわいらしく描かれていたから、キャラクターの絵のくずれはうるさくいわれていたようだが、問題はアニメーションの絵の動きだった。
 本来の制作会社は土田プロというところだったが、たまにカナメプロというところが、作品の助っ人に入ってきた。
 元、葦プロにいた人たちだ。いのまたむつみさんなど、美形キャラが得意な人、たいして枚数も使っていないのに、効果的なところはやたら動いてみえる演出家……いまでもいえないが、『魔法のプリンセス ミンキーモモ』の総監督が演出や絵コンテを、ペンネームでやっていた回もあったのである。……あ、これじゃ名前をいっているのと同じ事か……。
 藤原鉄太郎とかというペンネームだが、杉並区の選挙ポスターから名前をとったというから、人を食っている。枚数の5千枚も使えば、相当動いているように見える。
 局プロデュサーの岡氏や代理店の片岡氏から、カナメプロを見習えとでも圧力をかけられたのだろう、他の回も、みんなやたらと動き出した。
 アニメーター達の対抗意識も働いたのだろう。
 脚本家としては動かさなくてもいいように思えるところまで、派手に動き出した。
 作品によっては、7千枚や8千枚使った作品もあったという。
 『さすがの猿飛』は、今見ても、見どころ、聞きどころはいくらもあると思うが、やたらと、無駄に思えるところが動いているところも、見どころのひとつだろう。
 当然、アフレコまでに絵が完成せず、絵の映っていない白身の画面に声を入れる事が日常茶飯事になった。
 音響監督の斯波重治氏の苦労は、想像に絶したろう。
 特に斯波氏は、前もっての音響設計を重視する方のようで、アフレコでは真剣な表情で、笑いはほとんどなかったような気がする。
 僕も毎回、アフレコスタジオにいったが、絵コンテででき上がりを想像するしかなかった。
 おかげで、かなり絵コンテに慣れてきて、アフレコ前に僕も絵コンテを見るのがふつうになった。
 特に『さすがの猿飛』では、アフレコ前に絵コンテを用意してもらえるようにした。
 アフレコは、なんとなく殺気立っていたが、アフレコが終わると、夜だった事もあって、主役の猿飛肉丸の声を演じた、三ツ矢雄二氏を中心にして、和気あいあいとした飲み会兼食事会が開かれた。
 なぜか、ほとんどのアフレコにプロデュサーの片岡氏も顔を見せ、場を明るくしていた。
 片岡氏は、昔も今も、いろいろな声優と随分仲良しである。
 おそらく性格なのであろう。
 楽しい人である。
 しかし、プロデューサーのプロである事には違いない。
 フジテレビの岡氏も面白い人である。
 いつも自分の担当している番組のシールを貼ったファイルを持ち歩いていて、そこには担当しているアニメの視聴率が、1分刻みで記録されている。
 ただ僕は、視聴率の下がった部分を指摘され、苦情を言われた事はない。
 なんでも、アニメプロデュースを勉強するために、劇画村塾というところに通い、高橋留美子さんと同級生だったという噂がある。
 そんな、アニメ通の2人が、アニメ制作サイドに文句を言い出したら、大変な事になるだろうし、事実、そういう噂も聞いた事があるが、僕のシリーズ構成には、ほとんど口を出さず、自由にさせてくれた。
 『さすがの猿飛』には、様々な仕掛けがある。
 一番分かりやすいのは、番外編がやたらと多い事だろう。
 これは、最初から、考えていた事である。
 原作が、もともと単発的なエピソード集で、月に1、2本しか使えないのでは、1年間をひっぱるストーリーがない。
 一応は考えたが、それでもストーリーとしては弱すぎる。
 だが、登場するキャラクターの個性は強いから、脚本家によってどんどん成長させられる。
 副主人公が、主人公より活躍する回も出てきた。
 オリジナルで登場したスパイナー達も、個性が強い。
 凸凹コンビの00893と004989など、狂言回しの位置を越えて活躍している。
 だとしたら、それぞれを、役柄を越えた個性的な俳優として、『さすがの猿飛』の本来のストーリーとは違う番外編を作ってもいいのではないか、と思ったのである。
 いわば、『さすがの猿飛』一座の演芸会である。
 宇宙ものあり、怪獣ものあり、ミュージカルあり、当時評判になっていた作品のパロディあり、なんでもありの番外編を、1ヶ月に1本は入れようとしたのである。
 そのためには、学園忍者ものだけでない、様々なBGMが必要になってくる。
 前にもいったかもしれないが、アニメの場合、必要になりそうな音楽を、前もって100曲近く、作っておく。
 忍者もの時代劇風はもちろん、近代スパイ風の音楽、恋愛風、SF風、冒険もの風、ミュージカル風……シリーズ構成として、どんな曲が必要になるか、音楽家の方にメニューを出し、注文しておかなければならない。これは、音楽家の方にとって楽なようで楽でない。たとえば、どこかで聞いたようなSF風の曲でも、確か3小節以上同じだと盗作になってしまうのである。盗作にならないように、似たような曲を作るのは大変だったと思う……例えば、サメが人間に襲いかかろうとする有名な「ジョーズ」のメロディは、重苦しい導入の途中からエリーゼのためにのメロディに変わるなど、作曲家の苦労がしのばれる。
 ちなみにその時の作曲家は、宮崎アニメや、ビートたけしの映画で有名な久石譲氏。その若き日だった。
 『さすがの猿飛』のパロディ音楽には、様々な話題がある。
 『さすがの猿飛』は日曜の夕方、放映されていた。
 たまたま、イギリスの映画製作者が、日本で見て音楽を聴き、イギリスのスパイ映画のヒット作「007」のテーマに似ていると言い出したのである。
 とうとう、その騒ぎは、楽譜を見せろという事にまでなった。
 ところが、何と、その楽譜には、この譜面は「007風」「ジョーズ風」「ある愛の歌風」であると、パロディにした元歌の題名が書いてあったのである。
 もう逃れる術はない。
 フジテレビが、どう対処したか、とても怖くて、今も僕は聞けない。
 さらに、「肉丸南極物語」というエピソードは、南極に、タロ、ジロの犬の代わりに、豚が生き残っていたというパロディだったが、当時、フジテレビは「南極物語」という大ヒット映画を作っており、印象的なテーマ音楽はアカデミー作曲家のヴァンゲリスという人が、作曲していた。
 「ブレードランナー」や、「炎のランナー」の映画音楽を作曲した人である。
 「南極物語」のテーマ音楽を「肉丸南極物語」に使いたい……誰も思いは同じである。
 そこで、「南極物語」のCM用に、「肉丸南極物語」にその曲を使わせてくださいと頼んだ。
 すると、ヴァンゲリスさん、親切にも、「南極物語」の曲ではCMに流すには長すぎるからと、わざわざ作ってくれた新曲を送ってくれた。
 音響監督の斯波氏は、さすが本物の音楽は違うと大喜びだったが、『さすがの猿飛』のエピソード「肉丸南極物語」は、「南極物語」のCMということにしておかないと、どうなるかわからないと今も心配である。
 音楽だけでも、このありさまである。
 本編、番外編には、語れそうもなくて語りたいエピソードがいっぱいある。

   つづく


●昨日の私(近況報告というより誰でもできる脚本家)

 アニメの脚本と実写の脚本は、実をいうと、それほどの違いはない。
 今は山のようにあるどこかのコンクールで、入選しなくてもいいから、佳作か候補作品ぐらい取れる力は持っていてほしい。
 アニメと実写の差は、登場人物の若さと――主役に20代が少なく10代が多い――、彼らが活躍する宇宙やら未知の世界やら、どこかにありそうでなさそうな学園など舞台が違うだけである。
 では、脚本らしきものが書ける実力があって、アニメの脚本を書きたい人はどうしたらいいのだろう。
 よく、アニメの専門学校に脚本科などというのがあるが、そこの教師から仕事を紹介してもらうにしても、孫の手も欲しいぐらい売れっ子のアニメ脚本家は、そんなところに教えに行く暇はない。
 就職率100パーセントを、宣伝文句にしている学校も、噂だと、実態は八百屋さんに就職しても、魚屋さんに就職しても、就職の数に数えるそうで、アニメ会社に運よく就職したにしても、すぐ止めてしまった人も就職率に計算するから、就職率が100パーセントなのは、当たり前といえばあたりまえなのである。
 僕自身、狭いつきあいだが、アニメ専門学校からアニメ脚本家になった人は、ここ20年で1人しか知らない。
 それも、アニメ会社に就職して、長い間、進行や文芸担当をやった末だという。
 たまたま原稿の遅れた脚本家の代わりにシナリオを書いたのがきっかけだそうだ。
 ともかく、アニメの現場にいる事が早道のようである。
 そうすると、忙しくなった脚本家から、ちょっと手伝ってよという声がかかるかもしれない。
 脚本家が少ない少ないと嘆かれるわりには、みんな、しぶとく仕事にしがみついているのである。
 あなたは、そういう脚本家を実力で蹴落とすしかない。
 今まで、僕が言っていた事を実行していた人なら、その実力があるはずである。
 ともかく、アニメ業界をうろつきまわって、とりあえず就職することだ。
 そして、徐々に、アニメ界の現役と近づきになって、脚本の世界に近づいて行く。
 それが、正攻法だと思う。
 では、もうひとつ、当たり前すぎるほど当たり前な、しかし、なかなかやる人のいない方法を教えようと思う。

   つづく
 


■第62回へ続く

(06.08.09)

 
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