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アニメの作画を語ろう
シナリオえーだば創作術――だれでもできる脚本家[首藤剛志]

第62回 なんでもありの『さすがの猿飛』

 『さすがの猿飛』の脚本は、『魔法のプリンセス ミンキーモモ』のライターを中心にして、竜の子プロで一緒に仕事をした事のある柳川茂氏や数人の若手を加えた形で作られていった。
 脚本の決定権、台詞の直しなどストーリーは、僕が責任を取り、絵コンテ、演出などはCD(チーフ・ディレクター)の佐々木皓一氏が責任を取る立場で、作画監督の金沢比呂志氏や演出の山田雄三氏ら、土田プロダクションが中心になって作られていた。
 ともかく、『さすがの猿飛』というTVアニメとしては驚異的な枚数を消費した作品を語る時に、この方達の、異常ともいえる頑張りを外すわけにはいかない。
 ただ、寡黙なタイプで酒を飲まない佐々木氏とは、アフレコ現場で脚本や絵コンテを中心にした話をするだけで、制作現場がどんな火事場騒ぎだったかは、脚本関係の仕事をライター達と喫茶店やアフレコをしている赤坂の新坂スタジオだけで済まし、ほとんど土田プロに行かなかった僕には、その凄まじさを頭の中で想像するだけである。
 もうすこし、私生活も含め、色々な事を、酒を酌み交わしながらでも話したかったと今でも思う。
 それでも、寡黙な佐々木皓一氏が、まだ絵の入っていないフィルムでアフレコする時の苦渋の表情から、作画現場の凄さを察する事はできた。
 なにしろ、30分で6000枚、7000枚、8000枚の世界なのだ。
 普通のアニメの、倍以上の枚数である。
 製作費などとのかねあいを考えると、佐々木皓一氏を中心とする土田プロダクションの苦労は、ただ事ではすまないはずなのだが、それでも『さすがの猿飛』は、枚数を消費しながら動き続けた。
 何だか、物に取り憑かれたように、動き続けたのである。
 まるで、各話、各話が、消費した枚数を誇示するように、猿飛肉丸という主人公が得意技の神風の術を使う時には、必ずといっていいほど、回り込みという表現方法で、画像が動いていた。
 それに準じて、他の画面も動き回っていたから、作画関係の執念のようなものを感じて、放映時の絵がそろった完成品を見る時は、なんとなく、怖い感じにさせられた事も確かだ。
 いくら、佐々木皓一氏が、アニメの基本は動きであるから動きにこだわりたいという演出方針だといっても、演出方針だけで、これほどは動かないだろう。
 制作スタッフが、画面を動かす事の競い合いに取り憑かれていたと言ってもいいと思う。
 さらに、原始時代から、時代劇、西部劇、宇宙を舞台にしたスペースオペラ……ありとあらゆるパロディをぶち込んだ、場面設定の変化が、この作品を特殊なものにしていた。
 それが、さらに制作スタッフを刺激したのかもしれない。
 登場するキャラクターは同じでも、活躍する世界が毎回のように違うのである。
 もともと番外編は、原作の中でも、たまには使われていたのだが、それを恒例にしたのが、アニメ版『さすがの猿飛』だった。
 僕自身も、前回語ったように、『さすがの猿飛』一座のバラエティショーとして、意識的に毎回のように場面設定の変わる番外編の脚本を重要視した。
 主人公の肉丸とヒロインの魔子のラブコメという、主旋律を軽視したわけではないが、それ以上に、芸達者な演技者たちのバラエティを強調した。
 僕は意識的に脚本の吹っ飛びを求めた。
 ちょうど、その頃やっていた「オレたちひょうきん族」というバラエティ番組のパロディ部分を越えるようなアニメを目指したのだ。
 それは、多分、プロデューサーの片岡氏や岡氏の趣向にも合っていたのだろう。
 脱線ぎりぎりを行く脚本を認めてくれたのか、やりたい放題を許してくれていた。
 当時、映画界をにぎわせていた映画は、ほとんどパロディ化して、『さすがの猿飛』に登場させた。
 角川映画の『幻魔大戦』は「げんまん大戦」という名でパロディ化し、『少年ケニヤ』はサファリパークを舞台にした「少年ケニヤン」という作品になった。
 「スター・ウォーズ」は、2度もエピソード化され、登場するデススターは、トイレの便器の形で、宇宙に浮かんでいた。
 さらに、素材にされた映画は、数知れない。
 年代的には分かる人しか分からない過去の名作映画も、俎上に乗せた。
 「望郷」や「第三の男」のラストシーンが、『さすがの猿飛』のエピソードのラストシーンに使われた事を、当時見ていた子供たちの何人が気がついたか分からないが、脚本を書いている僕達の趣味で、入れ込んだ。
 これなど、分かる人しか分からないだろうが、面白ければ何でもありで、ぶちこんでいた。
 さらに、他の番組とリンクしたエピソードも作られた。「肉丸はじめて物語」という原始時代の話は、他局であるTBSで放映していた『まんがはじめて物語』が文化庁の賞を取った時に、機嫌のよかった、TBSの偉い部署にいてたまたま趣味で『まんがはじめて物語』のナレーションをしていた方に、了解をとって、「文化庁非推薦番組」として、パロディ化した。
 『さすがの猿飛』のレギュラーだった、ニントンという豚の声をやっていた田中真弓さんが、『まんがはじめて物語』のナレーションの癖を真似て、ナレーター役をやった。
 さらに、『さすがの猿飛』の声優陣に『魔法のプリンセス ミンキーモモ』の声優陣がいた事に目をつけ、ミンキーモモが『さすがの猿飛』に登場するエピソードも、制作会社の了解をとって作った。
 そのために、ミンキーモモの声の小山茉美さんのスケジュールを押さえてアフレコをした。
 なぜかこの時は、『さすがの猿飛』のスタッフが遠慮したのか、ミンキーモモの髪が、ピンクではなく黄色になっていたが、別に、ピンクでも構わなかったのである。
 了解は、取ってあったのだから……。
 舞台は、名古屋にした。
 主人公の肉丸の声をやってくれた三ツ矢雄二氏と小山茉美さんが、名古屋出身で、なぜか、その当時、声優に名古屋出身の方が多かったからである。
 脚本はミンキーモモのレギュラー脚本家だった土屋斗紀雄氏が、わざわざ名古屋まで、シナリオ・ハンティングして書いてくれた。
 さらに、やろうとしてできなかった事もある。
 フジテレビのプロデューサーの岡氏が、『うる星やつら』のプロデューサーも兼ねていたから、ある週だけ、番組を入れ替えようとしたのである。
 『さすがの猿飛』も『うる星やつら』も原作は少年サンデーに連載されている。
 つまり、ある回『さすがの猿飛』を見ようとしたしたら『うる星やつら』をやっていて、ゲストで『さすがの猿飛』のメンバーが出てくる。
 その代わり、その週の『うる星やつら』の時間には『さすがの猿飛』をやっていて、ゲストで『うる星やつら』のメンバーが出てくる。
 馬鹿げたいたずらだが、結構本気だった。
 残念ながら、これは小学館から、著作権上の問題があるからと、断られた。
 今考えれば当然だが、その当時は、乗りでやってしまおうという、何でもありの気分があった。
 結局、脚本は、最後までその乗りでつっぱしり、1年、52話の予定が、63話まで続いてしまった。
 その間中、絵は相変わらず動き続けて、結局最後まで動き続けていた。
 僕は、『魔法のプリンセス ミンキーモモ』と『まんがはじめて物語』、さらに『戦国魔神ゴーショーグン』の小説版でばてばてのはずだったが、『さすがの猿飛』で疲れた気は、まるでしなかった。
 いったい『さすがの猿飛』という作品はなんだったのだろうか?
 それは、原作とのストーリーの兼ね合いという視点から、次回に考えてみようと思う。

   つづく


●昨日の私(近況報告というより誰でもできる脚本家)

 どうやったら、アニメ脚本家になれるか……。
 ともかく、なんでもいいから、いくつもある脚本コンクールに応募して、次席か、佳作ぐらいには入っておこう。
 入選作になる必要はない。
 そのほとんどが、実写用のシナリオのはずだが、それは、あなたにとっては、もうそれほど難しいことではないはずである。
 ともかく、自分に箔を付けておくのだ。
 そして、鉄は早いうちに打てではないが、できるだけ早く自分のやりたいアニメを作っている制作会社に連絡して、「今年の何の賞を取った者ですが、実は、わたしが書きたいのは、お宅でやっているようなアニメなんです……」という。
 それはメールでもいいだろう。
 そして、今、その制作会社でやっている作品のエピソードのシナリオを書いてみたので、読んでみてくれないかと聞くのである。
 もちろん、そのシナリオは書いておかなければならない。
 当然だが、年齢と性別も明記しておく事……。
 その時に、シリーズ構成か、文芸担当かメインライターの名前は聞いておこう。
 担当のプロデューサーの名前も聞いておこう。
 もしかしたら、今、ライターは間に合っているから、という返事が来るかもしれないが、実は、脚本家はどこでも不足しているのである。
 若くて、自社が作っているようなアニメが書ける脚本家は、欲しいのである。
 断られても、一応読むだけでも読んでほしいと、シリーズ構成か文芸担当、メインライター、ないしはプロデューサーに、そのシナリオを送ってみるのである。
 それを何社かやってみる。
 勿論そのシナリオが使われる事はないだろうが、次の作品のシナリオの時には、相手の記憶には残っているはずである。
 まして、あなたは、今年の「何とかシナリオ賞」の次席か佳作に入っている人である。
 あなたの自社向けのシナリオを読んでくれない人は、よっぽど怠慢である。
 そのシナリオが面白ければ、次の機会に、頭にあなたの名前がよぎるはずである。
 下手な鉄砲も数打てば当たる。どんどんやってみるといい。
 実写用のシナリオの賞は多いが、アニメのシナリオ賞はほとんどない。
 受賞者も、気持ちは実写に向いている人が多い。
 アニメを書こうという人は、珍しい。
 僕が、何かのアニメのシリーズ構成やプロデューサーだったら、あなたを必ずチェックするはずである。
 だまされたと思ってやってみるといい。

   つづく
 


■第63回へ続く

(06.08.16)

 
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