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第64回 『さすがの猿飛』終了と、なぜか引っ掛かるもの
『さすがの猿飛』はあえて、番外編や本筋でも、考えられる限りのパロディをぶち込んだ。
だから、その1本、1本のエピソードに、忘れられない思い出がある。
アニメが制作された時代、1980年代前半を知っていないと、理解できないギャグも多いと思う。
そのほとんどが、僕ら脚本を書く人たちが意識的にやったものであり、それを面白がったスタッフが、調子に乗ってくれて暴走してくれた結果が、『さすがの猿飛』という、当時としても他のアニメとは異質なアニメになった。
今、このアニメが初見の人も、充分楽しめるように作ったつもりではあるが、正直なところ、実際に見ていただかないと、その面白さが分からない部分が多いと思う。
現在、全63話のDVDセットと、そのバラ売り、一部のレンタル店で貸し出されている状態では……アニメ専用TV局で放送されたこともあるかも知れないが、僕は見た覚えがない……放映されたリアルタイムに見た人以外には、実際に、このアニメを見た若い方は、限られていると思う。
その多くの人達には、ここで制作の裏話をしても、このアニメを見ていないと、そのおかしさが伝わらないと思うので、これ以上の裏話は止めておくが、制作現場も、アフレコスタジオも、火事場騒ぎを越えたお祭り騒ぎだった事は、確かである。
今思えば、はしゃぎ回っていたといってもいいかもしれない。
63話で、『さすがの猿飛』は最終回をむかえた。
そして、やがてさみしき祭りの後、疲れ切ったスタッフが、死屍累々と横たわっていた。……と言ってはオーバーかもしれないが……ともかく、頑張りすぎたスタッフが、過労で、まるで魚市場のまぐろのように、または、材木置き場の材木のように、倒れていただろう事は、予想にかたくない。
さて、ここで、付録に『さすがの猿飛』の最終回の脚本を掲載しても、読んでくださる方に訳が分からないだろうから、簡単に最終回のあらすじだけにしておく。
アニメと特撮オタクがいきすぎてしまい、オタクの帝王になったような青年が、女の子に無視された事を根に持ち、ついにはキレて「黒い旅団」という悪の組織を作り、日本を征服すべく、皆さんの知っている有名怪獣によく似た実物大怪獣を総動員して、攻撃を仕掛けてくる。
ついに日本滅亡の危機……!
日本政府は、最後の手段として、このアニメの登場人物を集結させ、忍びの者高校とスパイナー高校を統合、秘密兵器、宇宙戦艦「大和」(「だいわ」と読む……けっして「やまと」とは読まないように)に、男だけでなく、女性も乗せて……つまり「男だけの大和」ではなく「男と女の大和」で、特攻作戦を命じる。
スローガンは、「愛のために死ね」である。
かくして、宇宙戦艦「大和」は、宇宙に飛び立ち、「黒い旅団」と対決する。
帰る事のない悲壮な戦闘が続きかけるが、主人公の肉丸が、あることに気がつく。
「愛のために死ね」といわれたって、それぞれの登場人物が愛している人はみんな、大和に乗船しているのである。
これじゃあ、「愛のために死ぬ」より「愛のために生きた方がいいんじゃない?」
それもそうだ……と全員、頷き、なんと宇宙戦艦「大和」は、戦闘から逃げ出してしまうのである。
「ついに出てきたな、待っていたぞ、宇宙戦艦大和!」
手ぐすね引いて大和を待っていた「黒い旅団」の首領は、あまりの成り行きにうろたえて、自分の乗っていた宇宙船の操縦を間違えて自爆してしまう。
帰ってきた登場人物を待つのは、怪獣に破壊されつくした廃虚の東京……。
しかし、「戦後復興は、日本の得意技」と、忍者のからくり仕掛けで、東京は現在の東京にあっという間に元どおりになる。
ラストシーンは、ラッシュアワーの山手線の電車である。
登場人物がみんな電車の中にぎゅうづめに、押し込められている。
そして、みんなを乗せて、電車はどこかへ向って走り去る。
どこかといっても、山手線は環状線である。
どうせ、また戻ってくる。
そんな最終回であった。
こんな、あらすじで分かりますか?
これが、アニメを見ると、何となく分かるはずである。
そして、こんな調子で、『さすがの猿飛』はTVアニメとしては膨大な枚数をついやして、動きまくって、63回続いたのである。
アニメの珍品としても、今見て損はないと思う。
馬鹿馬鹿しさは、今でも充分鑑賞に堪えると思う。
ラブ・コメとしても、大人の恋愛部分も含めて、結構いけているはずである。
興味のある方は、チャンスをねらって、是非見ていただきたいと思う。
まるで、僕が自画自賛しているようだが、それだけのつもりはない。
このアニメを作ったスタッフの苦労に報いるためにも、1度は、アニメファンに見てもらいたい作品なのである。
僕の乏しいアニメ鑑賞体験ではあるが、『さすがの猿飛』から20年以上経った今でも、このアニメほど、理屈ぬきではちゃめちゃなアニメを見た覚えがない。
理屈がついて目茶苦茶なアニメは色々あったような気がするが、『さすがの猿飛』は、ある意味アニメの黄金期と言われる1980年代を代表するアニメのひとつだったと思う。
ただ、僕としては、このアニメを見ながら、少しだけ、魚の小骨がのどの奥にひっかかったような気になった点があった。
『さすがの猿飛』が始まる数ヶ月前の事だ。
ドイツ人で、学校教師を職業にしているある男から言われた言葉が、ひっかかっていたのである。
この話は、ドイツに住んでいる、このコラムでも書いた事のある、昔のガールフレンドが少しからんだ話なのだが、ドイツで別れたつもりの、そのガールフレンドが、数年後、突然東京に現れ、電話をかけてきたのである。
僕と別れた後からだか前からだか知らないが、ドイツ人の男性とつきあっていたんだそうで、いよいよ結婚話になった時、なんとなくユウウツになって、逃げるように日本に帰ってきたのだという。
年齢は30歳を間近にして、人生を見直したいと考えたのだろう。
それにしても、やりかたが派手である。
以前、日本にいた時、僕の前から姿を消したのと少し似ている。
あっという間に家具や身の回りのものを全部処分して、ドイツ人の男性の前から、いきなり姿を消したらしい。
さぞや、そのドイツ人はびっくりしたであろう。
僕もびっくりした。
この女性の行動は、はた目から見ると、「いきなり」が多いのである。
彼女が日本に戻ってきたころ、僕にも女性のつきあいはあったが、特定の人はいなかったし、もともと嫌いではなかった女性である。
しばらくの間、つきあいを再開することになった。
しかし、彼女はヨーロッパに単身で長く住みすぎていたためか、日本人の感覚になじめず、いらいらしているようだった。
何しろ、日本で僕と再会した時は、日本語の単語がすぐに出てこず、英語やドイツ語と日本語がまぜこぜになっていた。
感覚がヨーロッパナイズしているから、なんとなく人付き合いや考え方がべとついた感じの日本人が、彼女をいらつかせたらしい。
たとえば、僕と彼女の共通の友達の家に、夕方、招待されたことがある。
「夕食は適当にとりますから、なんのお構いもしないでください」と僕らは言った。
それでも、僕は、一応お土産としてイチゴを買った。
彼女はけげんそうな顔をした。
私達は招待されたのである。
なぜお土産が必要なのか、分からないというのだ。
招待してくれた友達は結婚していて、夫婦ともども、精いっぱいの待遇をしてくれた。
寿司や刺身、日本料理をてんこ盛りにして準備してくれた。あまりに多くて、随分残してしまった。
それでも、和気あいあいと時間が過ぎて行った。
10年ぶりぐらいの再会だったのである。
楽しい時間が過ぎた。
だが、帰りの道で彼女はぼそりといった。
「どうして日本人は、こうなんだろう。お構いはしないでと言ったのに……。残った料理が無駄じゃない」
彼女は少し怒っていた。
「これじゃ、気楽につきあえなくなってしまう」
彼女は、僕のイチゴのお土産も気にいらなかったらしい。
招待されたのはこちらなのに、なぜいちいちプレゼントが必要なのか……。
「日本人って変……」
さらに、人と話すのに、いちいち喫茶店に入るのも変だと言う。
「人と話すなら、公園でもどこでもいいじゃない……。コーヒーが飲みたいわけでもないのに喫茶店にいくなんて変だわ」
というのである。
これは一例にすぎない。
彼女にとっては、日本人の行動や感覚が、いちいちひっかかるらしいのだ。
一種の帰国子女のようなものだ。
彼女は、日本人としてはヨーロッパに長居しすぎたのだ。
日本の生活は、もう彼女には向いていなさそうだった。
そうこうしているうちに、夏になり、ドイツのボーイフレンドが追っかけて日本にやってきた。
ドイツは夏休みが長い。
夏休みをかけて、ドイツに連れ戻すつもりのようだった。
よくやるよ……。彼女は、日本人の男とドイツ人の男を、2人とも地球を半周させて、追いかけさせた事になる。
彼女はドイツに戻るべきか、日本にいるべきか……。
僕とそのボーイフレンドは話し合う事にした。
そのボーイフレンドは、僕の事を彼女から聞いて、よく知っているようだった。
彼は、彼女の元彼に会う事を、ちっとも気にしていないようである。
その後、彼は僕のよい友人になった。
ここいらがヨーロッパ感覚である。
彼は、下手な英語とドイツ語、僕も下手な英語と日本語、よく分からないところは、彼女が日本語とドイツ語で通訳した。
場所は新宿プラザホテルのスカイラウンジだった。
考えてみれば変な3人組だ。
男2人が、女1人の今後をどうするか相談しているのである。
別の女性に聞いたが、そういうシチュエーションは、女性にとっては、最高に気持ちのいい状況だそうである。
まあ、そんな事はどうでもいい。
彼は、僕の仕事も知っていて、日本のアニメを見ていたらしい。
話題が日本のアニメになった途端、彼は言った。
「日本人は、アニメで、子供達をどうするつもりなのか」
「どうするつもりって……」
僕は言葉に詰まった。
彼は、ドイツの子供を教える、教師が職業である。
その後に続く彼の言葉が、今も僕にはひっかかっている。
その内容については、次回に続けようと思う。
つづく
●昨日の私(近況報告というより誰でもできる脚本家)
ここから先は、アニメ会社の誰かに自分の書いたシナリオを読んでもらった人以上の方達にむけて、書くつもりである。
ここまで、このコラムの本編やエピソードに近い事を経験し、ここで書いてきた事をやってみた覚えがあって、それでもアニメ会社にたどり着けなかった人は、質問があれば送ってほしい。
僕に答えられる事なら、何でも答えようと思っている。
さて、あなたの書いたシナリオで、アニメ会社にたどり着いたあなたは、そこで1本書いてみないかと言われ、仮に、なんだかんだとあったとしても採用されたとしよう。
実はそのなんだかんだが、大変なのだが、それについては、別の機会に必ず話すつもりでいるから、取りあえず1本採用された事にしよう。
だが、そこで喜んでもらっては困るのである。
アニメの脚本のギャラは安い。
ビデオやDVDの二次使用料が、後で入って来るかもしれないが、その額は、最初からは期待しないほうがいい。
参加した作品によって、二次使用の収入は様々で、誰もが『DRAGON BALL』や『ポケモン』のようなヒット作に紛れ込めるわけではないからだ。
放送以前から、ヒットしそうな作品は、書きたいと狙っている先輩脚本家が、あれやこれやと人脈を通じて並んで待っているといっていい。
つまり1本書いただけでは、とても生活していけない。
脚本で生活できなければ、自分の職業を脚本家とは呼べないだろう。
呼んでいる人もいるかも知れないが、それは自己満足というものだ。
少なくともレギュラーになって、月1本は必ず書ける状態にしなければならない。
月1本でも、東京のまともな部屋は借りられないし、贅沢はできない。
まして、恋人と結婚など、とてもできないと思っていい。
あなたが男で、恋人がお金持ち……ヒモ的生活ができるなら、あなたは幸運だし、もしあなたが女性で、恋人がサラリーマンの定額所得者なら、だまくらかして結婚するのも、ひとつの手段かもしれない。
脚本家を目指す女性に専業主婦の仕事はとても無理だから、ほとんど離婚が待っている。
他の共働きなら、誰でもやっているではないかと言われるかもしれないが、脚本家志望の女性は、共働き感覚で、脚本は書けない。
決まった時間に仕事をするサラリーマンのような時間の振り分けは難しい。
書きたい時、書ける時、書けない時が、定時に調整できる人ばかりではないからだ。
おまけに、打ち合わせという、家を空けなければならない時間が、いつやってくるとも限らない。
こんな奥さんを抱えたご主人は悲劇である。
ほとんど、結婚生活は破綻する。
脚本家を目指す女性で結婚する人は、ばついち(×1)覚悟で結婚しよう。
自立して食べていけるまでの一時しのぎにはなるだろう。
月、レギュラー1本でも楽ではない事を承知して、この道を目指すべきである。
つづく
■第65回へ続く
(06.08.30)
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編集・著作:
スタジオ雄
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