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第69回 ほとんど小説家のつもりだった頃
『戦国魔神ゴーショーグン』の小説を書き始めてからしばらくの間、アニメの脚本の仕事は、ほとんどお断りした。
脚本の書き方のところで説明したと思うが、小説と脚本と舞台の台本は、明らかに違う。
小説の書き方に慣れるまで、脚本や台本を書くと頭の中が混乱する恐れがあった。
だから、少しの間、小説に専念しようと思ったのだ。
小説を書き始めた当初、『魔法のプリンセス ミンキーモモ』の続編ともいえる「それからのモモ」(絵 渡辺浩氏)という絵本風の小説を書いた。
これも、小説のつもりで書いたものだ。
気分は、ほとんど小説家である。
調子に乗って、小説家がよくやるという、ホテルにカンヅメされて原稿を書くというのも、気分だけでもその気になろうとして、自費でホテルにこもった事が何度かある。
場所は、新宿西口の高層ホテル群である。
一ヶ所のホテルでは雰囲気がでないし、気分を換える意味で、かたっぱしからホテルのはしごをした。
ヒルトン、センチュリーハイアット、京王プラザ、その他いろいろである。
その当時新宿西口にある、いわゆる高級ホテルはほとんど、泊まるだけは泊まった。
前もって「原稿を書くためのカンヅメ」とフロントに注文しておくと、巨大な机が用意された、ツインだかスイートだか知らないが、いかにも有名作家がものを書くために適した立派な部屋が用意されていた。
だが、折角自発的にカンヅメになったものの、ホテルではほとんど原稿は書けなかった。
「わあ……これがカンヅメだ」
と、妙に感激して、1人しか泊まらないのに、用意されたツインベッドを日替わりで取り換えて寝ては、はしゃいでいた。
もの珍しさもあって、ホテルの内部を探検して、肝心のカンヅメルームには、寝る時以外、ほとんどいなかった。
ホテルのレストランは、みんな踏破。とうとうホテル内部だけではものたりなくなり、昼は西口の電器店街を散策し、夜は新宿ガイドブックを持って食事どころ……といいつつ実は有名飲み屋を、はしごした。
だから、1985年ごろにあった西口の有名料理店は、かなり知っているつもりである。
そんなこんなで、カンヅメの結果は数枚の原稿に終わってしまうのが常だった。
ホテルその他の支出は、小説の編集部が払ってくれるわけではなく、自分から言い出したから、僕の自費である。
ふと気がつくと、いただくはずの原稿料より遥かに大きな額を使ってしまった。
大赤字である。
しかし、小説を書き始める時はぐずぐずして、なかなか小説にとりかかれないのが、僕の性格である。
何かのきっかけが欲しい。
結局、財布と相談して、最初の2泊だけホテルや温泉地の旅館に泊まり、自分のやる気を引き立たせることにした。
もちろん、そんな儀式をやるのだから、宿泊中は何も書かない。
仕事場に帰ってから、一気に書き出すのである。
脚本の場合は、制作する人が大勢いるから、脚本の締め切りを無視できないが、比較的時間の融通が利く小説を書く時は、書き始める前に仕事場を離れて、どこかに泊まるのが習慣になっている。
とはいえ、小説にだって締め切りはある。
小説の担当になっている編集の方は、小説の進み具合が気が気でないのはよく分かったが、比較的、締め切りを辛抱強く我慢してくれた(本当の気持ちは分からないが……)。僕担当の歴代の「アニメージュ」編集部の方達には、こころから感謝している。
そんな頃、変な小説の依頼がきた。
講談社のX文庫というところから『バース』というアニメのノベライズをしてくれというのだ。
『バース』はもともとTV用の連続アニメを目指して企画された作品で、その企画会議には僕も出席した覚えがあったが、その後、音さたがなく、企画が流れたかと思っていた。
ところが、OVAとして復活したというのだ。
OVA初期の作品で、『DALLOS』『バース』『街角のメルヘン』という順に発売されたようだ。『バース』はアニメーターの金田伊功氏の趣味が爆発したというか暴走したというか。絵はやたらと動くが、ストーリーなどなきに等しく、金田伊功ワンマンショーの様相を呈したアニメだった。
最初は、脚本らしきものがあったのだが、ほとんど無視されていて、脚本を書かれた人が、「僕の脚本歴から『バース』を外してくれ」と言ったとか言わなかったとかいう……いわくつきのアニメだった。
ともかくテーマらしきものもない、ストーリーらしきものもない、ただ、登場人物達が、めったやたらと動きまわっているアニメだ。
僕が名指しされたのは、初期の企画時に参加していた事と、そのころ小説を書いていた事からきたらしい。
「好きなように書いてくれていいよ」と言われたが、「バース」のアニメを見て、頭が痛くなった。
好きに書くしか、やりようがないのだ。
本当に、ストーリーらしきものが、ほとんどないのだ。
こうなったら、自分でストーリーを作るしかない。
元になった脚本も読まなかった。
ストーリーを無視された脚本を読んでも、余計な設定やら人物像が、脚本を読む事で、邪魔になると思ったのだ。
そこで、僕が作った小説のストーリーの見せ場が、アニメになるように決めた。
つまり、アニメ『バース』が、小説の予告編かプロモーションビデオに見えるようにした。
予告編やプロモーションアニメが『バース』なら、本来のストーリーが分からなくてもかまわない。
小説を読んで、はじめてストーリーが分かり、テーマが分かるように書いた。
それでも、小説版とアニメ版が、えらくかけ離れている事は確かである。
アニメ版『バース』を、小説版「バース―または子どもの遊び」の、プロモーションビデオのようにしたのは、一応成功したようで、小説版の「バース」で、もう一度新作の『バース』を作ろうという冗談が出たぐらいだった。
僕は、後にも先にも、こんな変わったノベライズを書いた事がない。
小説版「バース」も今は絶版になっているようだが、比べてみる機会があったら、あなたは、奇妙な世界に引き込まれるに違いない。
僕自身も、当時、小説に対するノリのようなものがあったから、この小説を書いたが、今なら、しり込みするかもしれない。
今思えば、小説版「バース」は、アニメ版『バース』のノベライズとは、少し違った異形の兄弟のような気がしている。
ところで、『戦国魔神ゴーショーグン』の評判がさほど悪いものではなかったせいか、劇場にもかけるOVA『戦国魔神ゴーショーグン 時の異邦人』の話が出てきたのも、この頃だった。
『時の異邦人』については、アニメの話を話題にする頃に、改めて紹介しようと思う。
と同時に、「アニメージュ」に月刊連載する小説の話も進行していた。
それが「永遠のフィナーレ」だ。1年の連載が終わってから、続編が文庫で出て、それからほぼ10年の間、まがりなりにもOVAになり、ファミコンのゲームソフトになり、全9巻で完結するような長編になるとは、僕自身、思ってもみなかった。
つづく
●昨日の私(近況報告というより誰でもできる脚本家)
多分、脚本家になりたてのあなたは、どうしても自分の脚本を映像化したいと思うだろう。
無理もない。
だから、プロデューサーやディレクターやその他の関係者の意見を、比較的簡単に引受けて、あなたの脚本を書き直してしまう。
そして脚本が映像化されて満足してしまう、
そこが、「あの脚本は、あの脚本家しか書けないだろうと言われる程度の脚本家」になれない、一歩後退の始まりである。
どんなアニメシリーズにも、あなたの書きたいストーリーやテーマがあるはずである。
それがどんどん書き直しを要求される。
次第に、あなたの書きたいテーマは薄れていく。
それでもいいと、あきらめないでほしい。
書き直しを要求されたら、一応は抵抗してみて、それでも駄目なら、そこは処世術である。
要求どおり、書き直してもいいだろう。
ただし、最初に書いた初稿は、絶対残しておこう。
今は、パソコンの時代である。直しも簡単な作業でできるから、折角書いた初稿に手を加えて、初稿を消してしまうことがある。
しかし、あなたの初稿は、あなたの個性とオリジナリティが、どこかに蓄えられているのである。
それを忘れないために、初稿は絶対に残しておくべきである。
そして、時々、読み直してみよう。
プロの脚本家は、初心を忘れてしまっている時がある。
脚本に手慣れてきた今のあなたには、昔の初稿など、幼稚で下手で不器用で、読み返すには赤面ものかもしれない。
しかし、その初稿に脈打っていたあなたの感性や個性やオリジナリティは、あなたにも思い出せる個所があるはずである。
そこで、今や脚本家として悪達者になったあなたは、昔の個性、感性、オリジナリティを、自分の今書いている脚本にかくし味として、そっと忍び込ませてみよう。
あなたがいつも書いている、悪く言えば無難で平凡なプロ脚本に、少しだけ色がついてくるはずである。
プロデューサーや関係者から「今回の脚本は、どこか妙な味があるね」などと言われたら、それが「あの脚本は、あの脚本家しか書けないだろうと言われる程度の脚本家」になる第一歩である。
ともかく、自分が書いた初稿は、大切にしよう。
つづく
■第70回へ続く
(06.10.04)
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