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第72回 『戦国魔神ゴーショーグン 時の異邦人』から『魔法のプリンセス ミンキーモモ 夢の中の輪舞』まで……
『戦国魔神ゴーショーグン 時の異邦人』は、音楽面でも工夫がなされていた。
全体の音楽は、TV版と同じ、あかのたちお氏だが、主題曲と挿入歌は、脚本「時の異邦人」からインスパイアされた、色々な方達の作詞、作曲から、オーディションのような形で選ばれた曲だった。
桑名晴子さんの歌う歌は、この作品にぴったりした曲だが、エンディングに流れるはずの歌が、クライマックスの戦闘シーンに流れ、エンディングのタイトルロールには歌なしの曲が流れるなど、当時としてはかなりひねった音づけをされていた。
音響監督の松浦典良氏と監督の湯山邦彦氏の考えだと思うが、この歌の入れ方は、この作品の制作時には、かなり斬新だったと思う。
しかも、挿入歌「真夜中のメリーゴーランド」などというロマンチックな歌は、主人公達が、敵の本拠地に殴り込みに行く時の道行きに使われた。
まるで、東映の仁侠映画の道行きに、ロマンティックな歌がついてしまったような、奇妙な違和感が気持ちよかった。
だが、この作品の映画館を使った発表試写会は、うまくいったとは言えなかった。
作画が間に合わなくて、まともに動いている画ができていたのは三分の二ぐらいだったのだ。
線画をそのまま残して上映すれば、まだどんな作品か分かっただろうが、誰の考えかは知らないが、未完成の部分を、スティール写真で埋めてしまったのだ。
ヒロイン、レミーの心象風景を中心にして、いくつもの時間が平行してひとつのドラマが描かれるという複雑な構成の作品だったから、その変わり目が、スティール写真のために、判別がつきづらくなっていて、何が何だか分からない映画になっていた。
いくら試写会でも、完成品を見せてほしいから、試写会を中止してほしいと僕は言ったが、試写の映画館が決定され、雑誌に発表されてしまった時点では、当然そんな事は無理で、未完成品のまま上映された。
おそらく、この試写会を観た人ほとんどが、『戦国魔神ゴーショーグン 時の異邦人』がどんな映画か、理解できなかったと思う。
その後、何ヶ所かのリテーク個所を残しながらも、劇場で上映された時には、全ての絵が入っていて、初めて『戦国魔神ゴーショーグン 時の異邦人』の全貌が分かることになるのだが、試写会時点では何が何だか分からない失敗作のように思った方が、多かったと思う。
だから、この作品は、試写会だけ観た人と、劇場で観た人とでは、随分、評判の違う作品になってしまった。
僕自身も、劇場で三回ほど観てみたが、試写会版と劇場公開版での観客の反応は、随分違っていた。
試写会版では、ちんぷんかんぷんな顔をして出ていった人が多かったが、劇場公開版では拍手さえ起こったのである。
観客に子供は少なく、若い人がほとんどだったが、充分内容を理解して、感動さえしてくれている人が多かった。
もしも、劇場公開版が試写会でも公開されていたら、今以上に評価は高かっただろうと、残念でならない。
今でも、アニメ作品では、未完成のまま公開してしまうという場合があるという。
スケジュールの遅れや製作現場の頑張りは分かるのだが、それを計算した製作管理がなされない事が、多すぎるのだ。
だから、僕はいろいろな劇場版のアニメを観る時は、首をひねるような個所があると、今も、未完成品を上映しているんじゃないかと疑って、できるだけビデオ版やDVD版で見直す癖がついてしまった。
未完成品を見せる事……当時はそれが普通のように行われていたにせよ、少なくとも『戦国魔神ゴーショーグン 時の異邦人』は内容が内容だけに、それがかなり響いた。
『戦国魔神ゴーショーグン 時の異邦人』劇場上映版はビデオになり、レンタルもされている。
試写会だけでご覧になって公開版を見ていない方がいらっしゃったら、是非、見直してほしい作品だが、いかんせん1985年の作品である。
覚えていらっしゃる方がいるかどうかは、分からない。
脚本を書いた僕としては、今でも充分見ごたえのある90分の作品だと自負している。
なお、小説版『戦国魔神ゴーショーグン 時の異邦人』も出て、こちらは、天野喜孝氏が挿し絵を描いてくれて、ショッキングな表紙とともに、映画版とは違う雰囲気を醸し出してくれている。
さて、『戦国魔神ゴーショーグン 時の異邦人』から数ヶ月して、今度は『魔法のプリンセス ミンキーモモ 夢の中の輪舞(ロンド)』というOVA……これも劇場公開が予定されていた……の脚本の仕事がきた。
TV版を作ってくれた、大野実氏など昔のメンバーからの企画だった。
いままで『ミンキーモモ』でやりたかったが長さの関係でやれなかった、ピーターパン・シンドローム……子供が大人になりたがらない現象……をテーマにして、それまでTV版で出てきた印象深いゲストを総出演させて、バラエティショーのように見せる作品だった。
90分近い作品だったが、こちらも1週間かからず書き上げた。
『魔法のプリンセス ミンキーモモ』の空モモが終了してから、2年近く経っていたが、こちらは勿論監督は湯山邦彦氏で、手慣れた人達が集まってきており、特に作画の渡辺ひろし氏達が暴走に近い乗りで、僕としては楽しい作品になった。
ピーターパンやスーパーマンなどではお約束の、空中散歩もやれたし、本当にやりたい放題で、特に、ミンキーモモが玩具の戦闘機に乗り、南の島のホテルを爆破するシーンは、圧巻だった。
アフレコスタジオは懐かしくもあり、爆笑のウズだった。
音響監督も、TV版と同じ藤山房延氏だった。
この作品は、今でも、ビデオやLDを見ながら笑っていられる。
この作品で唯一残念なのは、主題歌を歌った志賀真理子さんが、数年後外国で交通事故に遭い、亡くなられた事だ。
劇場公開時には、『魔法の天使クリィミーマミ ロング・グッドバイ』と同時公開されたが、それには、おまけとして、『魔法の天使 クリィミーマミ VS 魔法のプリンセス ミンキーモモ 劇場の大決戦』という2分30秒の短編がついていたが、これには全く関わっていない。
ただ、「よくやるよ」と笑って見ていただけだ。
『魔法のプリンセス ミンキーモモ 夢の中の輪舞』も、小説版が、渡辺ひろし氏の挿し絵が入って文庫で出ていた。
とにかく、1985年あたりは、直球勝負に近い『戦国魔神ゴーショーグン 時の異邦人』と変化球の『魔法のプリンセス ミンキーモモ 夢の中の輪舞』で、アニメ脚本にしろ小説にしろ、お腹いっぱいの状態の1年だった。
自分の気持ちは、アニメ脚本から離れているつもりでも、実際は、後で考えるとかなりアニメを書いてはいたのだった。
なお、『戦国魔神ゴーショーグン 時の異邦人』と『魔法のプリンセス ミンキーモモ 夢の中の輪舞』は、ベータのビデオ版も発売されていた。
2本ともそんな時代の頃の話である。
つづく
●昨日の私(近況報告というより誰でもできる脚本家)
月にレギュラー1本という暇だらけのあなたにとっては、業界との付き合いも大事だが、もっと大事なのは、違う業種の友達を持つという事だ。
あなたは、一応シナリオライターである。
普通の世界では、珍しい業種に入る。
あなたに関心を持つ人も多いはずである。
そのぶん、あなたに近寄ってくる人も多いはずである。
そういう普通の人達を大事にして、付き合う事である。
一般の、普通の生活をしている人も、細かく観察すれば、ひとりひとりのドラマを持っているはずである。
人はみんな同じように見えて、実は、それぞれ違うのである。
そのニュアンスを、感じとれるようになれれば、それをモデルにして、色々な人が描けるようになる。
できるだけ、あなたが今の現状でできるアルバイトを探そう。
少しお金に余裕があるなら、色々な趣味のサークルに参加しよう。
同年代だけでなく、子供や大人まで、幅広く付き合うようにしよう。
業界やアニメ関係の仲間だけでは、世界が狭くなるだけである。
自分の持っている友達や知り合いの数だけ、あなたには、手持ちのキャラクターがいると思っていい。
これから、色々なアニメを書く時に、それを引き出しにするのである。
ものを書く事が好きなあなたなら、本も好きだろう。
本はたっぷり読んでおこう。
図書館を、自分の住まいのように使いこなそう。
小説はいらない。
それは、すでに作家によって完成された世界だからだ。
一般知識を解説した新書の類いは、必ず目だけは通しておこう。
自分に興味のなさそうな世界の本ほど、読んでおこう。
思いも寄らないところで、役に立ってくれる事がある。
暇な時にこそ、自分の世界を広げておく事が大切だろうと思う。
そうしておけば、万が一、あなたがシナリオライターをあきらめた時にも、少しはつぶしが利くというものである。
1、2本のレギュラーでシナリオライターをあきらめた人は多い。
そんな時、アニメ脚本の世界しか知らないと、困るのはあなただ。
シナリオをやめても、食べて行けるだけの、世間に通用する実力を身に付けるのは、実は、1本レギュラー程度の暇な時しかないのである。
そして、その実力が、脚本家としての実力も、高める事になるのである。
多分、きっと……。
つづく
■第73回へ続く
(06.10.25)
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編集・著作:
スタジオ雄
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