第102回 昔々……(62) ぎょぴちゃんとウシさん『きんぎょ注意報!』のこと
先日、注文しておいた神村幸子さんの本「アニメーションの基礎知識大百科」が届きました。仕事の合間とかにパラパラめくって読んで(っていうか、眺めて)みてるんですが、日頃使っててよく知ってる用語やいろんな仕組みも、こうして本にまとめられてるとなんか新鮮。しかも「えっ? そういうことだったの?(汗)」的な事実も判明したり(苦笑)。とにかく、ほんとよくまとめられてまして、素晴らしいです。お薦めです。
で、最近、雑誌を除いてほぼすべての書籍はAmazonで注文しちゃってる僕です。この本もAmazonに注文してて、宅配便で自宅に届けてもらっちゃいました。ただ、このAmazonの宅配の梱包が謎。たとえばこの本は結構シッカリしてる本なので「箱」で送られてきても驚かないんですが、DVD1枚(DVD-BOXとかじゃなくてね)でも「箱」で送ってきたり、でもある時は同じDVD1枚でも簡易的段ボール封筒の梱包で、しかもメール便で郵便受けに入れられてたり。このヘンの梱包&配送の基準ってどうなってるんでしょう?>Amazon
僕としては、DVD1枚や本1冊の時は、簡易包装でどんどんメール便扱いにしてくれてかまわないんですけどね。結構めんどいんですよ、宅配便受け取るの。指定の時間に在宅してなくちゃいけないし。以前、東映アニメーションに在籍してた時はスタジオ宛に送ってもらっちゃってたんだけど、いまはそうも行かないしねえ……。
ま、メール便扱いもさることながら、溜まっていく「箱」が結構プレッシャーな今日この頃であります。
さてさて。
『Coo 遠い海から来たクー』を作ってた1992年〜93年あたり、ちょうど30歳を越えようかという節目でありました。自分の仕事年表を見てみると、1992年は徐々に動き出した『Coo』をやりながら、東映まんがまつり用の劇場作品(『DRAGON BALL Z』とか)とか、東映ビデオのOVA(『フリーマン』とか)とか、いくつかの作品を掛け持ち、並行作業。でも、『Coo』の制作も佳境に入ってきた1993年には、『Coo』に専念していたようです。
さらにそれまでの僕は、劇場用作品やOVA作品を持ちつつも、一方ではTVシリーズのラインも1ライン持ってて、メインのキャラクターたちの色味とメインキャラの色指定書作ったり、作品通しての仕上げまわりの約束事を決めたり、さらにはオープニング、エンディングの色指定、第1話の色指定、なんかもやっておりました。
ですが、さすがにそれも劇場作品とのスケジュールの兼ね合いもあって段々難しくなってきて、『聖闘士星矢』『悪魔くん』『もーれつア太郎』という流れで関わってきたTVシリーズ作品との関わりも1991年1月スタートの『きんぎょ注意報!』が最後になりました。
あれ? そういえば『きんぎょ注意報!』のことって書いてないですね?(汗) じゃ、ちょっと駆け足で……。
『きんぎょ注意報!』は、猫部ねこの原作の同名まんがのアニメ化作品で、1991年1月からANB系で放送されました。関東では毎週土曜日夜7時からの放映でした。キャラクターデザインは入好さとる氏、美術デザインは椋尾篁氏、シリーズディレクターは佐藤順一氏というメインスタッフ。
ちなみにこのスタッフルームには、前の作品「もーれつア太郎」で演出デビューした幾原邦彦をはじめ、演出助手には五十嵐卓哉、宇田鋼之介という顔ぶれが揃っておりました。今から思えば超豪華な布陣です(笑)。
たぶん前にも書きましたが、この頃はTVシリーズを担当させてもらえても、ホント「立ち上げ」だけの参加しかさせてもらえず、よって僕は、メインキャラクターの色設計といくつかの画面処理、画面効果の下地作り、オープニングとエンディング、そして第1話だけ本編の色指定を担当させてもらってます。
もうね、この方式、正直この頃からずいぶんストレスでありました。だってやっぱり本編の作業に関わりたいですよ。確かに「立ち上げ」でしっかりした地盤を作るのは重要だし、それを任されているっていう気持ちはありましたが、TVシリーズってヤツは、回を重ねて積み上げていって段々おもしろさが育ってゆくもの。なので、本当におもしろくなってきてからは全然関われていないんですね。それはやっぱりストレスです(ゴニョゴニョ……まあ、最近でも同様な扱いの参戦ってのは続いてて、超ストレスなんですがね……ゴニョゴニョ)。
で、この『きんぎょ注意報!』は特にストレスだったんですね。だって、もう最初っからおもしろかったんですから!
でもまあ、そんな僕の想いは届かず、結局いつものどおり「立ち上げ」参戦のみでありました。
さて『きんぎょ注意報!』、キャラ色は原作の表紙やカラーページを参考にしつつ、全体に軽く明るめに作りました。もうね、なんといっても『きんぎょ注意報!』は空飛ぶナゾの金魚「ぎょぴちゃん」と圧倒的存在感の「ウシさん」たちですね(笑)。
ごちゃ! っとキャラクターが集まってるような画面の中で、ウシさんの黒が際立って見えるような、そんなバランスをねらってました。ですので、わぴこのセーラー服も秀一の学ランもそんな感じであおむらさき系の淡めな色に。
「ぎょぴちゃん」の身体のピンク色でいろいろ試行錯誤があって、最終的にPB-1aという絵の具使いまして。でもこの絵の具、一応TVでは御法度な特殊カラーではあったんですね。それでもやっぱりこの色がよくって「なんと言っても主役だから!」ってことで押し通した記憶が(笑)。
この作品、ギャグちっくな表現として、当時としてはかなり斬新なコトをやってました。たとえば通称「トルネード走り」。キャラがギャグ調に走る時、足元をちゃんと描かず、ぐるぐると渦巻き状の作画の省略作画にしました。で、「トルネード」。あ、でも、現場ではそんな呼び方はしてませんでしたね。「ぐるぐる走り」とか、そんな風に呼んでたと思いますよ。
それから、前作『もーれつア太郎』でも確かやってたんですが、主線をマジックペンでえいやっ! と描いたようにやたら太く描く「波ザッパ〜ン!」な表現とか。
で、これ、最初は原画時に描かれた太い線から動画時に輪郭をとって中を塗れるように作画して、仕上げで内側を黒く塗る、ということで太い線を作ってたんですが、確かこれ佐藤さんだったと思うんだけども、年賀状描くのに当時流行してた、プリントゴッコの太ペンを「これ仕上げのトレスマシンで使えるんじゃないか?」と持ってきまして(原理的にはおんなじなんですよね、トレスマシンによるセルへの作画の転写とプリントゴッコの絵柄の版下の作成は)、で、試したら見事使えまして(笑)。で、それ以後この作画処理は、動画時にプリントゴッコの太ペンで描く、というコトになりました(笑)。
さらには、背景のブック素材としてドット柄(水玉模様)のモノを用意して、いわゆる「汗ジト」的な表現カットにキャラの上にかかるように置いてみたり。あ、そう言えば、キャラの後ろ頭にでっかい「汗」を作画してスライドさせる、なんてのも『きんぎょ注意報!』から始めたような気が……。
とにかく、そんな風にいろんな事を試しながら作ってた『きんぎょ注意報!』だったのでした。その『きんぎょ注意報!』も1年で終了。そのあと番組があの『美少女戦士セーラームーン』でありました。
先にも書いたとおり、この『セーラームーン』は、その「立ち上げ」も僕は不参加でありました。ちなみに『セーラームーン』の立ち上げは、当時まだ外注仕上げプロダクションVAPに所属してました板坂さんが担当しました。なんかね、ちょっと悔しくってね(苦笑)、それでもちょっとは気になってたので第1話のスタッフ初号には覗きに行った僕です。で、結構ショック受けたり(笑)。
それから1年半後、そんな『セーラームーン』が『Coo』が終わった僕を待ち受けておりました。幾原邦彦監督作品『劇場版美少女戦士セーラームーンR』であります。
■第103回へ続く
(09.09.29)