色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第111回新春番外編 『Strong World ONE PIECE FILM』おぼえがき(前編)

新年、おめでとうございます!

皆さん、どんなお正月を過ごされましたか?

僕はというと、暮れは26日でサッサと仕事納めにしちゃいまして、何年ぶりかでまったく仕事をしないお正月を堪能いたしました。

実は編集部の方から今年も「お馴染みの方からの年賀状」への参加をお願いされてたんですが、すみません! ぶっちしちゃいました(汗)。っていうか、実は今年、年賀状自体完全に断念しちゃったんでありますよ。

年賀状すら放棄してまったり過ごしたお正月、いやあ、おかげで、ひとまわり大きい人間になれました!(質量的に、ですが……(号泣))

さてさて。

先月公開されました劇場版『Strong World ONE PIECE FILM』、おかげさまで大ヒットいたしました。詳しい数字は判りませんが、まあ、とにかくたくさんのお客さんが劇場に来てくれて、そして観ていただけたということですね。

前にも書きましたが、この大ヒットの最初の出足は入場者プレゼントのコミック「0巻」効果だってことは、僕らスタッフも重々承知していますが、それがきっかけでも、僕らが作って送り出した作品がたくさんの方に観ていただける、なによりそれは嬉しいことであります。

ということで、今回はそんな「『Strong World』おぼえがき」であります。もうね、忘れないうちにどこかに書いておかないと。

*   *   *

昨年の3月の終わり(劇場パンフには4月と書きましたが、どうも3月末だったみたいです)、桜の花の満開の頃、都内某所にある尾田栄一郎先生の仕事場に、監督以下劇場版メインスタッフでおうかがいしました。もちろん、先生とは初対面であります。それなりに緊張です(苦笑)。

というのも、境監督に乞われて参加することになった劇場版『ONE PIECE』なんですが、実は僕、それまで「ONE PIECE」を読んだことがない!!

TVアニメは、いつだったかご飯食べに入った店のTVでかかってたのをチラ見したくらいだし、奥さんと2人で劇場版『CLANNAD』観にいった時に観たワンピ映画の予告編で、チョッパーがトナカイだって初めて知って超ビックリ! だし。この業界にいて、しかも去年まで東映に籍を置きながらにして、この期に及んでこんなにもまったく『ONE PIECE』知らないという、今どき超レアな人物だったのであります、僕は。なので、その原作者ご本人を目の前にして、そりゃあ緊張もしますよね(苦笑)。

で、尾田さん、僕らスタッフを前にこの作品について静かにいろいろ話をされました。『ONE PIECE』を、とりわけ劇場版を取り巻く状況から、劇場版へのご自身の想いとか。そのあとで僕らスタッフと尾田さんが内容的疑問点問題点について意見交換。そのなかで僕も監督から紹介されまして「色」についての話を少し。

「実は僕は『ONE PIECE』という作品にこれまで全く触れずにきているのですが……」まずは正直に切り出しました(笑)。「『色』についてなにか気をつけてほしいと思われている点とか注文とかありますでしょうか?」と僕。

「いや、まったく自由にやってくださって結構です。ただ『ワクワク』です。とにかく『ワクワク』する感じがほしいです」そう尾田さんはおっしゃいました。そこが僕のひとつの出発点になりました。

僕が作品に参加した時点ですでに、尾田さんからのキャクターの原案スケッチは概ね出そろっていて、それをキャラクターデザイン&総作画監督の佐藤さんがアニメーション用に整理・清書していきます。それをスキャンして、さあ、色です。まずはメイン、レギュラーキャラたちの肌、髪、瞳などのベースになる色味から。

前の年に参加した『劇場版 ゲゲゲの鬼太郎 日本爆裂!!』では、「TVシリーズとかけはなれないように」「TVの印象を残しつつ劇場作品的にグレードアップを」というのが基本の方向性だったので、色味のベースはTVシリーズの色味を下敷きにスクリーン映えするように修正していったのですが、先の尾田さんからのお話に加えて、境監督からも「辻田さんの思うようにやってみてください!」とのお話もあったので、とにかくまっさらなところから考えてみることにしてみました。こうなると逆に「ONE PIECE」を知らないことが強みです(笑)。

なので、実はすでにあるTVシリーズやこれまでの劇場版の色指定とかは、あえて参考や下敷きにはしませんでした。かといって「原作モノ」ですから、原作無視してホントにまったく勝手に自由にってワケにもいかないので、3冊出ている尾田さんのカラーイラスト集を購入しまして(←自腹ですよ(笑))、そのカラーを参考に僕なりに手をつけてみることにしたのです。

カラーイラスト集「COLOR WALK」、これがね、いいんですよ! 漫画のキャラクターたちが「色」を持つ事によって生まれてくるワクワクするような立体感、躍動感。

そのカラーイラスト集をパラパラ見ながら思いだしてたのは境監督の言葉。「『透明感』を感じる色味にまとまってるといいなあと思うんです」。ああ、なるほど。境監督が欲しいのはこういうことか、と。水彩タッチのぬけるような色あい、でもしっかりとした存在感。この独特のフンイキをなんとか画面にできないものか? と考えたわけです。

そんなことを考えつつ、メインキャラのベースカラーを組み立てていきました。ルフィたち9人分(そう9人分!)の顔を画面上に並べて、バランスとりながら、こっちを濃くしたりあっちを薄くしたり、微調整繰り返して、あのカラーイラスト集のフンイキを目指します。まずはルフィとナミのバランスをとって、ついで他の面々の色を置いていきます。カラーイラストの透明感を意識していった結果、まずルフィがこれまでのアニメ版よりも肌色が明るくなりました。そのバランスでゾロもロビンもだいぶ明るめな肌色になっていきました。あ、ブルックとチョッパーは結果的にあんまり変わってないです(笑)。

そしてでき上がったメインキャラたちを、ひとまず境監督と助監陣に見てもらいました。ずっとTVシリーズでこのキャラたちに慣れ親しんできた人たちの眼に、この色味のバランスがどう映るのか? その感想がまず気になるところでありました。

「ふむ!」と境監督。「もうちょっとナミの髪の色、濃くできませんか?」と。その他にもみんなの瞳の色味についての注文が少し。「じゃ、とりあえずこれで」ということで、とりあえずベースカラーが決まりました。

ベースカラーが決まったところで、次はルフィたちの今回のコスチュームともう一方のメインキャラ、金獅子のシキたち「敵キャラ」の色味の作成です。「冒険服セット」とか「船上服セット」とか「討ち入りスーツセット」とか、「『シキ』セット」とかというふうに、まとめて作っていきました。なんせルフィたちみんなで9人セットですから、結構大変。

まずは最初、僕が自分なりに考えた色味でまとめ上げた「冒険服」と「船上服」を作りました。それとシキたち。これも同様に監督たちに見てもらって、意見交換。その上でいよいよ尾田さんに見てもらうことに。

とにかく超多忙な尾田さんです。ホントならばスタジオに来ていただいて直接見てもらっていろいろやりとりしたいところなのですが、「これはもう絶対に無理! 無理! 無理!」とのこと。なので、決め込んだキャラの色見本をセットごとに対比表のように1枚に並べて、それをプリントアウトして尾田さんのもとへ送って返事をもらう、ということに。

パソコンのモニターとプリントされた紙とでは、当然発色がまるで違います。なので、モニター画面の見た目に近い色味にプリントされるように、プリント用に画像の色味を修正して、さらにちょっといい紙を使って「尾田さんチェック用プリントセット」を作成して尾田さんのもとへ送ったのです。さあ、果たして尾田先生のチェックバックはどうか?

そして待つこと数日。待ちに待った尾田先生からの返事が戻ってきたのであります。が……。

■第112回へ続く

(10.01.05)