色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第114回新春番外編 『STRONG WORLD ONE PIECE FILM』おぼえがき(やはり中編その2)

先だっての日曜日夕刻、ISS(国際宇宙ステーション)を見ました。……見ましたといっても、その軌跡、日本上空を通過する姿を眺めたのであります。あ、もちろん地上から(笑)。

日没後のまだ残照の残る北西の空に現れた明るい光は、すーっと音もなく大空を進み、馭者座の一等星カペラの脇を通過し、次いでオリオン座のベテルギウスの脇も通って南東の地平線へと消えていきました。その間約数分のショーでしたが、すっごく堪能! いいもの観ました!

ねえ、あの光の中には人が乗ってるんですよ!

僕の幼少の頃、アポロが月に行って、人類が月面に立ちました。アポロの月着陸の衛星放送を(たしか)未明に起き出して両親と観た僕です。僕らが子供だった頃の未来、21世紀には、衛星軌道上には大きな宇宙ステーションがあって、月へ火星へと宇宙旅行ができる、とそんな世の中のハズでした(笑)。

ちょっと(だいぶ?)遅れてはいるけれど、確実に人類は地球から外へと出て行くための準備を進めているんだなあ、と。もういい歳したおじさんになっちゃった僕ですが、もし、スゲエ遠い「もし」ですが(苦笑)、もし宇宙へ出られるチャンスが巡ってきたりしたら、きっと迷わずトライするだろうなあ。

軌道上からの地球の姿、今ではWebでいくらでもその映像、画像が見られますが、やっぱり自分の目で、その場所から観てみたいです。そして振り返って、今度は漆黒の宇宙空間を眺めてみたい。

「無限に広がる大宇宙〜」なのか、「遠く時の輪の接するところ〜」なのか。ああ、気分は松本零士です(笑)。

ちなみに「ISSはいつ見えるのか?」の情報は、こちらを参照。

さてさて。

「来ったよ〜。おつかれさまでっす! 小日置でっす!」

元気よく登場した小日置(こびき)さんは、主に東映作品で活躍中の色指定さんです。『キャシャーンSins』でも色指定で参加してくれました。今回は色指定ではなく、「色彩設計補」として僕の手伝いをお願いしたのでした。無理を言って(いやホント、かなりの無理を言って)参加していただきました。この日から映画の完成まで、大泉スタジオの僕の部屋に詰めてもらうことに。

90分以上の尺の劇場作品では、色彩設計は原則として設計作業、色指定は別の人が担当する、というのがだいたい普通のやり方のようです。僕が「別名義」で東京ムービーで色彩設計として参加した劇場版『真救世主伝説 北斗の拳』3部作でも、それぞれ3〜4人の色指定さんに参加してもらっておりました。

しかし東映アニメーションの劇場作品の場合は、原則的に色彩設計担当者が設計と色指定をすべて1人で担当します。それは遠く古の昔からの東映の伝統的手法なのでありますね。以前は僕もそういうやり方で闘っておりました。一昨年の『劇場版 ゲゲゲの鬼太郎 日本爆裂!!』もこの方式でありました。

ですが、充分なスケジュールがあった昔ならともかく、これだけスケジュールが切迫した昨今の状況では、それはなかなか難しいやり方です。キッチリすべてに目を通して細かいところまで詰めていこうとすると、このやり方では不可能です。それは『劇場版 ゲゲゲの鬼太郎 日本爆裂!!』であらためて思い知らされたのでした(それでも『プリキュア』とかは今もこのやり方でされてたりしてますが……)。

でも、同時に僕自身「色彩設計も色指定も全部自分でやりきりたい」という欲求も。

これは色彩設計さんならどなたでもそう思ってるんじゃないかと思うんですが、キャラクター作って、シーン設計して……となれば、やはりナマの作画に自分で指定して、塗り上がってきた色を背景に乗せて再調整したくなるもの。

そしてそれは監督の希望でもありました。細かいところまで目を配って、キッチリと厚みのある画面に仕上げたい、と。なので色指定も上がりのチェックも全部やってほしいと。でも、ひとりでキッチリとやりきるためには、やはり時間が足りません。

なので今回、どうしても僕の補佐をしてくれる人が欲しかったのです。で、小日置さん。小日置さんとは幾多の修羅場を一緒にくぐり抜けてきた仲。なので、お互いにお互いのやり方がよくわかっている同志。僕が一番信頼してる色指定さんの1人であります。

作業分担的には、僕がまず本編全体の色彩設計をやり、色指定も全部僕が1人でやる。その上で小日置さんには、僕がやり始めちゃうと時間がかかり過ぎちゃうような、ちょっと手間のかかる作業などのいろいろをお願いする事になりました。

そのひとつがモブシーンの整理でありました。

この作品、メチャクチャ海賊たちが出てきます。その海賊たちの色味は、全般的に小日置さんに作っていただくことに。いくつものカットをまたいで登場する海賊たちの色指定データの作成と実際のカットでの色合わせ。加えて、酒場での酒、食べ物たち、ひしめく幾多の海賊船たちなどなど、次々に「大変なカット」を担当していただくことになりました。これで僕は肉体的にも精神的にもずいぶんと楽に。

ところで僕の作業の進捗状況はというと……。

メインのキャラクターたちの残りのコスチュームの色は、尾田さんとのやりとりを何度か繰り返し、ほぼひととおり決定稿となっていました。あの「討ち入り」の服は、先の特報(予告編より前に作って、映像で劇場やWebで流れていた、あのズラッと並んだ黒スーツのヤツ)時にほぼでき上がっていたので、多少の修正で決定稿に。

そしてキャラクターといえば、この作品の目玉のひとつ、尾田ワールド的モンスターたちでありました。さすがにこれは尾田さんに色原案を、というわけにはいきません。僕が片っ端から色見本を作って、先のメインのキャラクターたちの時のようにプリントしたものを尾田さんに送ってチェックへ。これも何度も数週間かけてやりとりを重ねて、モンスターによっては完成間近までかかって色を決め込んでいきました。

そんな基本のキャラ設定作業と並行して、本編用の色彩設計作業にも入っていきました。美術の脇さんとの美術打ち合わせの際、主立ったシーンの美術ボードを発注してあって、その美術ボードに合わせて、そのシーンのキャラクターの色味を決定していきます。

予告編の制作段階で、冒頭の海軍の夕景シーン、「夏島」「秋島」「春島」「住民島冬エリア」、そしてルフィたちVSシキの本編第34シーンの日没間際の戦闘シーンに、ナミの決意のシーンの色彩設計は、ほぼ終わっていましたので、それらは本編用の微調整のみ。でもこれらはまだ、本編約110分のほんの一部。美術ボードの上がりを待って、ひとつまたひとつとシーンの決め込みを積んでいきます。

本編カットの原画も次々に僕のところへまわってきます。順次色指定して動画作業〜彩色作業へ。総カット数は約1400超。これをすべて色指定して、すべて塗り上がりをチェックしなければなりません。

ところが、そこはやっぱりアニメーションの制作のこと。少しずつ順調に(!)作業は遅れはじめてきていました。いや、少しずつ、どころか、実は大変大幅に遅れ込んできています。イスカンダル星に向かう宇宙戦艦ヤマトの旅路のごとく、本来は中間地点バラン星をとっくに超えていなければいけないこの時期に、まだ銀河系からさえ脱出できていない、というそういう状況。

時はすでに9月。少々マズイ事態になりつつありました。

■第115回へ続く

(10.01.27)