色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第116回 もう3月なのに……新春番外編『STRONG WORLD ONE PIECE FILM』おぼえがき(後編その2)「SW」本編全シーン色彩設計おぼえがき! その1

あ〜〜〜〜っ! 3月(号泣)。あまりに多忙で原稿落としまくっていたら、なんと2月が終わってしまいました。ごめんなさい>関係各位 その多忙の原因はいろいろな作品がぶつかってまして、まさに寝る間もないくらい。この場を借りて宣伝しまくりたいんですが、残念、まだちょっと話せないものも……。で、そんななかで大々的にオープンになってるのが『四畳半神話大系』であります。公式サイトではPVも公開始まりました。放送日もようやく決定。こちらも乞うご期待です!

■シーン1 海軍本部

「ねぇ、ガープって誰?」と僕。「なんかルフィのおじいさんらしいですよ」と小日置さん。「なんで海賊のお祖父ちゃんが海軍なのさ?」「さあ」……とまあ、こんな会話からスタートした1シーンの設計作業(笑)。このシーンは予告編でも先行使用したシーンなんでありますが、あくまでも予告編での色は「仮」の色。本編用にはあらためて作り直しました。
とにかく印象的に「真っ赤」っていうのが掴みとしての狙いで、オレンジ色ではなくピンクを感じるくらいの赤でまとめてあります。で、CGの島船はド〜ンと黒っぽく重厚感を、と。このシーンは予告カットを手直しした色味を小日置さんに渡して「んじゃ、ヨロシク!」って感じにお願いしました(笑)。

■シーン2 夏島ジャングル

ルフィ登場。ジャングルでのモンスターとの闘いのこのシーンは、夏っぽくコントラストを強めに設計してあります。
ジャングル内での土煙、ワザと多少明るめに作ってあります。すごくリアルに考えると、ジャングルですからもっと湿った感じになって、土煙自体ももっと地面に近い色になるんではないかと。で、その考え方で最初試してみたら、モンスターに馴染んでしまって、なんかイマイチ、フンイキが作画と合わない。撮影処理的にもダブらさない(透けさせない)、という方針だったので、じゃ、むしろ乾いた地面の土煙色の方がいいかな? と。なので、土煙の色味は、その後に続く広場でのテログマとの闘いの土煙と同じ、乾いた色になってます。
僕はこの3シーンが実は本編で一番好きです。「なんだ? なんだ? なんだ? 何が始まるんだ?」っていう感じが溢れてていいです。

■シーン3〜5 秋島の廃墟

脇さんから上がってきた美術ボードを見た時「うっ!(汗)」となるほど紅葉が鮮やかで光ってて、ひょっとしたらこれ、多少発色を抑えてもらわないとまずいんじゃないのか? と思ったくらいでした。でも、いざ撮影すると実におさまりがよくて、しかもメリハリが効いてて、本編導入部でのいいポイントになってました。ああやっぱりすごいなあ、計算されてるなあ、と。
で、このシーンは基本的にはいわゆる「ノーマル」な色指定で彩色してあります。前のシーンと、だいたいこのあたりの美術とのバランスで、本編の基本のノーマルの色味のバランスを決めました。
ちなみにワラワラ出てくる軍隊アリ、あれはほぼCGです。作画のカットはホンのちょっと。2Dの設定に僕が色をつけて渡して、それを基にモデリングとカラーリングされてます。

■シーン6 オープニング

「カラーチャートっぽい画面に」という監督からのオーダー。打ち合わせはそれだけで、あとは僕の方で好きに作らせていただいたのが、あのオープニングです。1カット処理です。超分厚い原画の束を「えいやっ!」っていう瞬発力で色指定。塗り上がってきてから、画面の流れ見ながら、これまた「えいやっ!」って感じで塗り替えたり、修正したり。色指定に1時間ちょっと。塗り上がりの修正と決め込み塗り替え作業に5時間ちょっと。撮影はCG部でお願いしました。で、一発勝負的に出してOK!
って言うか、このオープニング、原板ギリギリで時間がなくって、ジックリとやってる余裕がなかった、っていうのが実情でした。結果的にはそれがよかったような気がします。こういう画面もこういう作業もでき上がりも、僕的にかなりのお気に入りです。

■シーン7 シキの王宮 温室のプール

オープニングからそのまま画面は室内プールへ。ここも「ノーマル」な色指定。あらためてシキ一味の登場シーンです。登場のダンスはコンテをもとに先に動きを3Dのダミーモデルで作って尺分のコマ出ししたものをプリントアウト。それを下敷きに、キャラクターの作画(原画)を乗せて、動画→仕上……という流れの2Dで作業しました。これがかなり厄介で、動きの動画自体はいいんだけど、顔の中割が壊滅的(苦笑)。カットによっては2度ほど作画を直してます(でも直しきれなかったのはナイショ)。

■シーン8〜15 サニー号甲板〜島船艦橋、嵐到来

なんでナミが王宮に連れてこられたか? っていう回想のシーンですね。
3Dのサニー号は、TVシリーズ用に作ってあったものを、劇場用に色味と質感を修正しました。色味は僕が修正案を出し、そのデータに特殊効果の太田君が質感レタッチのサンプルを載せ、それをもとにCG部スタッフが本編に反映させてくれました。ちなみに島船は、美術設定の佐藤正浩さんが描いた設定をもとにCGモデルをおこして、脇さんが美術デザインとして描いた島船と併せて美術さんで用意したテクスチャーを使って、CGモデルを完成させてます。
サニー号甲板のキャラクターは、最初、影の濃さを強くして、もっとコントラストをつけようかと思ったのですが、色見本を作ってみたら、なんかちょっと汚く見えちゃったのでやめました。ナミの白いタンクトップの胸の影がどうもキレイにいかなかったのです。チョッパーも表情が険しくなっちゃったし(笑)、ナミ主役だし(笑)。なのでここも基本は「ノーマル」な色指定。嵐のシーンと扉しめた島船艦橋は全体に彩度明度を落としてます。
島船艦橋内の船員たち(海賊)も小日置さんに作ってもらってます。その中に1人「シキの部下A」っていう設定のキャラがいたのですが、コイツがタレントのワッキーに似てて結構目をひいちゃって、あ〜だったらいっそのこともっと色も似せさせちゃえばよかったかなあ、と。

■シーン16 シキの王宮 温室のプール

ビリー登場。ビリーの色、実はこれ、TVシリーズの色彩設計の堀田君の色です。僕がこの作品に参加する前に、ゲーム用か何かのために先に色を出さなくてはならなかったらしくて、シキとかこのビリーの色味を堀田君が出してくれてたのでした。シキたちは僕の方で作り替えちゃったのですが、ビリーは尾田さんもこれがいいとのことだったので、このまま使わせてもらいました。
プールシーンのナミの髪、濡れた感じを作画で表現してはいるんですが、なにかもうひと工夫できないか、ということで、特殊効果でハイライト部分にツヤっぽい加工を加えてます。それとナミの瞳には極力ハイライトのブラシ加工をいれてもらいました。これも特殊効果の太田君。手作業です。ナミの芯の強さを瞳で表現できないかと考えて、量は多かったんですがお願いしました。ナミ、主役だし(笑)。

■シーン17〜23 春島〜住民島、シャオの家

モンスターたち、いやあ楽しいです。カウボール(桜の木の枝からバビューンと飛んでくるヤツ)とトラマタがお気に入り。トラマタ、実はこっそり年賀状に使えないかな? とか一瞬思いましたがそりゃやっぱマズイのでしませんでした(笑)。
冬ゾーンのモンスターたちの戦闘のあたり、上がってきた背景の雪が、思いの外うす茶色でありました。彩度を殺したシーンということだったので、それはそれでOKなんですが、ちょっと問題が。背景ではうす茶色であってもちゃんと雪に見えるのですが、これに色を合わせて作画(セル)の雪を作っちゃうと、セルの方はどうにも土にしか見えなくなっちゃうのです(苦笑)。なので、セル描きの雪や雪煙はあえて背景と色を合わせないで白い雪にしちゃいました。
シャオのばあちゃんの病気の「アザ」、後半のナミのアザも含めてすべて特殊効果の手作業です。下地部分を別セルで作っておいて、それを加工してもらってます。

■シーン25〜26、30 港に集まった海賊たち〜王宮司令室

海賊船長たちの色味と合わせ、司令室の海賊たち航海士たちも、この辺はすべて小日置さんワーク。
司令室内は背景の明るさに合わせてキャラクターの明るさも抑えてあります。薄暗い場所であっても、バランスで自然に見えるようなそんな明るさです。
村を徘徊するでんでん虫をはじめ、島船艦橋、司令室等で出てくるでんでん虫も小日置さんワークです。僕が作るとどうもリアル系になっちゃって、なので、まんがチックな感じを狙ってもらいました。アンバランス感がいいフンイキになってます。

■シーン24、27 王宮プール〜メルヴィルの海〜カルデラ湖の島

ナミとビリーの脱出とルフィとの再会。ナミの水着、実は僕がちょっと失敗しまして。というのも、この水着、白と黒の縦ストライプ柄なんですが、彩色用設定作った時に、全身画像と寄り画像とでブラ紐が白のものと黒のものが混在しちゃってたのですね。で、塗り上がりがバラバラに(泣)。気づかずに撮影に入れちゃって、たくさんリテイク出してしまいました。ちなみに、ナイショですが、直りきってないカットがあったりします(苦笑)。
ルフィが焼いて食べてるサソリの身ですが、カニの焼いたヤツが参考です(笑)。ちなみに僕はあんまり好きじゃありません>カニ

■シーン28、29 荒野、シャオの村

この辺もみんな基本は「ノーマル」な色指定。

■シーン31、33 荒野の酒場

酒場の中は、背景にあわせて全体に明るさを抑えて照明の赤み(っていうか黄オレンジ)を足してあります。で、海賊たちのモブや料理は小日置さんワーク。加えて特殊効果で美味しそうな質感を。
海賊北島登場。いやあ、北島! 宣伝ってこともあって、いきなり参加が決まった北島選手。僕もいきなりキャラを渡されて「えいっ!」っと勢いで作っちゃいましたが、あとから考えれば、いろいろ微妙だったなあ、と。設定的に魚人族ってことだったんだけど、実は本編中には北島以外に魚人族が出てなくって、もうちょっとモブの中に魚人系海賊を入れればよかったなあ、とか。
それと皆藤愛子ちゃんのシャオ姉エバー。これもいきなり「そうなったから!」って伝えられまして……(汗)。こっちはそういうつもりじゃなかったので、早く知ってたら、もっといろいろ可愛くするアイデアあったんですがね(あっ)。

■シーン32 シャオの家

ナミがシャオ一家の会話聴いちゃって動揺するシーン。当初の予定では、部屋の中のキャラをもうちょっと暗くして夕景っぽいフンイキ作るつもりだったんですが、直前の室外のシーンがそれほど西日じゃなかったので、作画の影面積が多めなのに依存して、ノーマルっぽくまとめてあります。で、撮影でいろいろフンイキ足してもらってます。

■シーン34 シャオの村、夕焼けの闘い

前半戦のクライマックスです。このシーン、色味の括り的にはふたつに分かれます。シキとの大バトル時のオレンジ夕景の「夕景色B」、そしてナミが屈するくだりの「残照色」。
戦闘シーンの「夕景色B」は、予告編でもチラッと出てますが、本編用に作りかえました。予告時は、キャラクターの色味のボリュームが、かっこいい背景に圧倒されちゃってたので、短く速いアクションの積み上げでは、キャラクターが見づらい——っていうか印象が弱くなっちゃいそうだったのです。で、より押し出しを強く作り直したのでした。結果、いいバランスになった! と自画自賛(笑)。
シキの大技「獅子おどし地巻き」(←こんな字だっけ?)は全部CGです。なかなか本番のCG映像が上がらなくて、ちょっと不安だったのですが(笑)、さすがにいい感じのボリューム感! ちょっと「ハムナプトラ」ですね(笑)。
で、後半「残照色」。日没後のやるせない感じのヴィジュアルイメージって、以前テント背負って登山してた頃の自分のリアルな体験から、僕の中に「こういうの!」ってのがありまして。で、ああなりました。これも僕のお気に入りのシーンです。

さあ、シキに屈したナミの運命はいかに!? そしてルフィたちは!?
ということで、もう一回続きます。

第117回へつづく

(10.03.02)