色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第117回 もう3月なのに……新春番外編『STRONG WORLD ONE PIECE FILM』おぼえがき(後編その3)「SW」本編全シーン色彩設計おぼえがき! その2

昨日、フリーランスになってちょうど1年経ちました。いやあ、早いです(笑)。それでも結構ドキドキの1年でありました。それまでもいろんな作品をこっそり(!)やってきた身ではありますが、やっぱりその辺は大きく違いましたね。
1年前のこの日は、フリーなったと同時に僕のもうひとつのナイショの名前「國音邦生」に別れを告げた日でもあったりします。僕にとってこの名前はひとつのブランドであり、気持ちのよりどころでもあったのです。その名前に別れを告げた、そんな覚悟の日でもありました。
なんだかんだ言って、結構気持ちの張った1年であったのです。
それでもこうして途切れることなくお仕事をいただいてこられてるのは、ホントにありがたいことだと、ひたすら感謝であります。

さてさて。
そんなフリーになった最初の大きな劇場作品のお仕事であった『STRONG WORLD』、本編全シーン色彩設計おぼえがき!」の続きです。

■シーン34 補足です

「特殊効果」という仕事がありまして、主にキャラクターやプロップなどにブラシ効果で質感を加えたり、風や煙などや背景とセル描き部分との馴染ませとか、まあ、いろんなことをやってくれる魔法使いみたいな職種なんですが、この作品も太田直君にお願いしました。彼とは『映画 も〜っと! おジャ魔女どれみ カエル石のヒミツ』以来、ずっと一緒にやってもらってます。
従来の東映作品のスタイルでは、煙などのブラシ作業も特殊効果班が「エイヤッ!」とやってたんですが、今回は撮影さんでお願いできる作業はすべて撮影さんにお願いしまして、手作業でその威力が発揮できるようなところを突っ込んで作り込んでいただきました。
とりわけこのシーン34では、トーンダイヤルに質感処理をお願いしてます。「ナミがメッセージを吹き込み終わって地面においた時、そこに感情があるような映え方を」と僕からお願いしたところ、大事な命がそこに宿ってるようなフンイキに作り込んでくれました。感謝感謝です!

■シーン35 王宮司令室

ここも前半同様、薄暗さに合わせて多少キャラの明るさを抑えています。

■シーン36〜38 王宮外 いろいろ

このあたりから時間は夜に。以降、闘いが終わるまで延々夜のシーンになります。
スカーレット隊長の雄叫びに呼応して動き出すモンスターたちや、強化兵たちも、夜のシーンの色味はあえて明るめに作りました。リアルに考えれば、もっと背景の色味に寄せて暗く落としてフンイキを、となるんですが、そうしていくと画面の持つ年齢感が上がってしまうのです。僕らの目指していたのは少年少女向け、「まんが映画」な画面だったので、できるだけわかりやすくキャラクターやモンスターを見せる、ということを考えての画面です。
ただ、お話の展開上「このカットはど〜ん! と暗い方が」みたいなカットはちゃんと作り込んでいます。
ダフトグリーン伐採のシーン(シーン38)、実は制作スケジュールのかなり切羽詰まった頃にやっと作画も背景も上がってきたシーンです。ダフトグリーンの白い幹の感じがちょっと足りなかったかなあ、と。

■シーン40、42 王宮司令室

ナミの正装、初登場のシーン。……と言うよりも、僕ら的には「こたつ」がミソ(笑)。ここも小日置さんにお願いしたんですが、「こたつの上に盛られてるのは何?」って話に。「果物? でもコレって大きなニンジンに見えますよね?(汗)」「食べてるのがミカンであれば、あとは許す(笑)」と僕。でも、これも特効マジックで見事それらしくなりました(笑)。

■シーン41 シャオの村・火事

このシーンも予告時に先行して作った色に合わせて小日置work。このシーンも、割と最後まで作業がかかったんじゃなかったかな?

■シーン43 シャオの村・焼け跡

焼け跡にフランキーたちが到着。ここで麦わら一味が揃うシーン。
最初、上がってきたこのシーンの美術ボード、王宮の周りなど他の夜のシーンと同じ系列の色味の夜でした。でも、ここはちょっと違う方がいいかな? と思ってたのです。シキにコテンパンにやられて、しかもナミも、という落ち込んでる感、絶望感。そして、ナミのメッセージ聴いて「討ち入り」へと気持ちが高まっていくシーン。で、「ちょっと冷たいような青みの強い月明かりはどうでしょう?」と提案させていただいて、そしてその方向で修正していただきました。
キャラクターに月明かりを感じるような、透明感のある夜色。いいバランスで仕上がりました。
ただひとつ、このシーンで失敗が。それは周囲にたなびく煙の色味。奥行きを感じるように背景に合わせていろいろ細かく色味を作ってみました。ところが、僕の作った色味がどうもちょっと彩度が低すぎたらしく、撮影でボカシ処理をかけて撮ってもらったら、あらら、煙に色味がなくなりすぎてしまい、単なるネズミ色に。青く仕上がってる背景上でのネズミ色、ちょっと赤みを感じるくらいになってしまいました。う〜む。目指してたのはもうちょっと硬い感じの色味だったので残念。
ああ、この手の調整は実際にコンポジットやってる撮影さんと密に詰めて作らないと上手くいかないという反省シーンです。でも、それを差っ引いてもシーンとしてはいい感じに仕上がりました。

■シーン44 王宮の島

海賊船長たちを乗せた島船が王宮島の海に到着するシーンです。3DCGの島船が同じくCGの海に着水するのですが、島船が蹴立てる波は2D作画というハイブリッドです。たぶん、全部CGで作っちゃった方が楽なんですが、でもそれだとフンイキが違うんですね。きっと「別モノ」感なカットになっちゃってたろう、と。作画の波がそこにあることによって、他のシーンとの釣り合いみたいなモノができています。

■シーン45 王宮司令室

あのジェスチャーのどこがどの内容をあらわしてたんだろう?(笑)

■シーン46 王宮の外・ダフトグリーン植え込み

で、その、インディゴが伝えたのが、ナミを捕まえた、と(笑)。
王宮まわりの屋外の夜のシーン、僕の最初の設計プランでは、4種類くらい微妙に変えた「夜色」を作るつもりだったのです。ひとつはサニー号が突っ込んでくるシーンの月明かりの夜色、ひとつは王宮の建物近くの灯りが近い夜色、ひとつは王宮の屋根の上とかでの夜色、そしてこのダフトグリーン近くでの夜色。
ですが、結局、ぜ〜んぶ同じ「夜色」にしちゃいました。理由はいろいろあるんですが、ひとつには雪。画面に絶えず雪が舞っていて、さらに後半は吹雪に。そうすると、あんまり微妙なことやってもそれほど効果がないんですね。それよりは全部同じに整理しておいた方が作業上の手間が少なくてすみ、そのぶん、手を加えたいところにちゃんと手間をかけられる、という判断もありました。
時間のない中で、作業量とのバランス考えつつ、でもちゃんと画面を成立させることを考えるのも、僕の仕事のひとつと考えてます。
あ、ナミが鉄の槍で捕らえられるシーン、ちょっとだけ「ウテナ」のアンシーを思い出しちゃったのはナイショ(笑)。

■シーン47〜 王宮内 総会会場

とにかくスパーン! とだだっ広くて煌びやかで明るい大広間。そこに海賊の船長たちがずら〜っと。で、小日置さんworkなシーンです(笑)。一応、作画の合わせ用に参考コピーはまわってたのですが、やはりどうしてもそのとおりに上がってこないカットが多く、色味だけでなく細かい部分の直しもセルのデータの上で、チマチマとやってもらっちゃいました。

■シーン52 カルデラ湖畔 サニー号

今回、サニー号は原則3DCGで作っています。で、3Dシーンも当然色味は僕の仕事。このサニー号も、シーンごとに僕の方から背景に合わせて色味サンプルを出して、それに合わせて作業してもらいました。
そのシーン、そのカット用にモデルを組んだものから1枚画像を書き出してもらって、その上に調整レイヤー等で色味の修正を乗せていきます。で、あと、細かいニュアンスは担当の方に「もっとこんな感じで」みたいに口頭で(笑)。

■シーン54 王宮前庭

満月をバックにサニー号が突っ込んでくるシーンです。ここも2D、3Dのハイブリッド。ここを全体にコントラスト強めにしようと思ってて中止しちゃったシーンです。そのかわり、ポイントになるカットでキッチリと印象を作り込めました。

■シーン60〜 総会会場・討ち入り

先に作った特報で、ドドーン!と逆光の中にルフィたちが正装で居並ぶ、というカットがあって、そのヴィジュアルがあまりにカッコよかったので、やっぱり本編でも無理矢理にでもやらなくちゃ! と。
ってことで、討ち入りのシーン、ルフィたちが襖をぶち破って入ってくる直前に暗くしたのは、そのカットの再現のためでありました。もうこの辺は、物理的にどうこうじゃなくって、フンイキ重視、印象重視であります!
ルフィたちの銃器の煙。ぶっ放してる筒先からの爆煙は黒色火薬系の黒い煙にしてありますが、コレ、最初の1発目が一番濃くって、あとは少しずつグレーにしてます。着弾したほうの煙も着弾した最初は黒色系ですが、カットが変わって床から立ち上ってる煙はカットを追って徐々に明るいグレーにしてます。
理由は、ルフィたちも海賊たちも「黒」着ているからです。煙も黒いと画面がうるさくなってしまい、肝心のキャラの芝居が分かりづらくなっちゃうのを避けるためです。

■シーン61〜 王宮まわりいろいろ

ここからあとはひたすら物量! 基本、広間内は「ノーマル」、それ以外の廊下とかは背景に合わせて明るさの調整をしてあります。屋根の上に出ちゃったら夜色に。シーン65以降、モンスターたちが王宮に乱入してきますが、それらも基本は同じであります。
もう、このあたりはひたすら物量(笑)。

■シーン67 王宮外

ナミを助け出し、クスリを手に入れなければ、と相談してるところへシキの攻撃。ここで大技「獅子脅し地巻き」雪ヴァージョン。こんどはCGではなく作画であります。で、そこへルフィ登場。ギア2モード。
実は僕、このギア2だの3だのってのが分からなかったんですよね。で、聞いたんですよ、助監督に。そしたら「身体の中に溜めた力が内側から発光するんです、ピンクに」「ふむふむ」と僕。で、考えたのがあの処理です。
身体が光ること自体は、ハイコントラストな処理にすれば光って見える。その光がピンクであることは、身体の周りにまとわりついてる水蒸気をピンクの照り返しにすればいい。で、身体自体の影部分も、彩度高めなピンク系にまとめれば、全体としてピンクに光って見えるんではないかな? と。で、あとはそれを撮影さんがうまくまとめてくれました。
コレって実は「ドラゴンボール」のスーパーサイヤ人やカメハメ波の応用でありました。十数年前に自分で使ってた手法がここでも役に立ってます(笑)。

……と、ここまで書いたところで、ああ、時間切れ!
ああ、すみません、もう1回だけ続きます。
ダフトに冒されたナミの運命はいかに!?
シキVSルフィの闘いの行方は!?
手に汗握って、乞うご期待!

第118回へつづく

(10.03.12)