色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第136回 昔々……80 怒濤の年1995へ。ふたたび劇場版『DRAGON BALL Z』から

子供の頃、夏の宵、自分の家の庭で家族とする花火が大好きでした。僕の子供の頃は、花火って近くの商店街でばら売りしてたんですよね。今ではいろんな種類の花火がひとパックにまとめられたのがスーパーやおもちゃ屋さんで売られてますが、当時は、あれは何屋さんだったんだろう? 夏になると、商店の前に花火出して売ってました。しゅわーっと炎が出るヤツ、バチバチバチと弾けるように光るヤツ。猫の額くらいの小さな庭でやる花火ですから、打ち上げるヤツみたいなそんな大がかりなものは選ばず、極めてこぢんまりとした手持ちの花火を、それでもワクワクしながら選んで母に買ってもらったものでした。
たまに、軒下とかに吊して火を点けるものも買ってもらったり。その光の滝がキレイでね。その光に照らされたアサガオの花や池の水面がいまでも思い出の中に残っております。
この年になっても毎年のように、あの頃のような花火がしたいなあ、と思うのですが、なかなかそうもいきません。第一、いい歳したオヤジがひとり花火やってる姿は、傍目にやはりちょっと……な世界(笑)。
それでも、線香花火くらいなら、とか思うのですが、何年か前に一度、何かのおりにやった線香花火が、昔のそれとは比べものにならないくらいショボくてね、がっかりした記憶があります。
どこかで、昔僕らがやったような、手元のすぐのところまで火薬の入った、シッカリした線香花火ってないですかねえ。ちゃんと探せば、まだ売ってるんでしょうかねえ? そんな昔ながらの線香花火。
とか思いつつ、気がつけば蝉の声が遠のき、夜にはコオロギたちの秋の声が聞こえるようになりました。日中はまだまだ暑いとはいえ、朝晩はだいぶしのぎやすくなってきた今日この頃です。
ああ、今年の夏も終わりですね。そう思うと寂しいなあ。

さてさて。
劇場版『美少女戦士セーラームーンS』とOVA『魔滅の舟師』で1994年は終了しました。いつもの流れだと、劇場用作品が1本終わるとしばらく仕事が途切れて、ちょっとまとめて休めたりしてたのですが、劇場版『セーラームーンS』が11月半ばで完成して、そのまま年内納品の『魔滅の舟師』の作業が続いていたので、ひさびさに1994年は年末ギリギリまで仕事でありました。
で、その『魔滅の舟師』が絶賛作業中の12月はじめ、次の仕事もスタートしました。翌年3月公開の「春休み東映アニメフェア」の1本、劇場版『DRAGON BALL Z 復活のフュージョン!! 悟空とベジータ』であります。監督/山内重保、脚本/小山高生、作画監督/山室直儀、美術設定/窪田忠雄、美術監督/徳重賢。
 『DRAGON BALL Z』の劇場作品はこれが5本目でありました。前作ではさすがに『DRAGON BALL Z』に飽きが来ちゃっててモチベーション保つのが大変だったのですが(苦笑)、間に『セーラームーンS』とかが入ったのがよかったのかな? 「よし! がんばるのだ!」という、前向きやる気な僕でありました(監督が山内さんだったのが、実は何より大きかったのだと思います(笑))。
今回のお話は、閻魔界が舞台。人々の魂の邪念の塊が青年赤鬼と合体してジャネンバという怪物になり、死者を次々と生き返らせて、世の中を大混乱に陥れる。で、それを悟空と、ジャネンバによって生き返ったベジータが、力を合わせてジャネンバと闘う、というお話。

山内監督の絵コンテ作業は、確か年明けまでかかっちゃってたと思うのですが、設定関係の作業は12月はじめにはドンドンすすんでおりました。まずはTVシリーズの方の『DRAGON BALL Z』のお話の進み具合と設定の確認。
劇場版の『DRAGON BALL Z』は、放映が進行しているTVシリーズの時間の流れ合間のエピソードだったりしています。ですので、TVで登場・活躍したキャラたちが、その流れで劇場版でも登場してきます。例えば、悟飯のグレートサイヤマンやミスター・サタン、18号やビーデルなんかもそうですね。そもそも僕がTVシリーズの放映をほとんど見てなかったりっていうのがいけないんですが(苦笑)、みんななんか知らないうちに登場してて、劇場版の作業に入る前にはいつも「これって、誰?」というやりとりをTVのスタッフとやっておりました。
それと、TVシリーズとのすり合わせで大事なのがもうひとつ。子供キャラの成長です。悟飯はもうだいぶ前に大きくなっちゃいましたが、その弟の悟天やベジータの息子のトランクス。実は設定上、微妙に身長とか伸びてたり。髪型変わったクリリンなんてのも(笑)。そんな感じで、まずはTVシリーズの設定のチェックは欠かせません。あ、それから死んじゃってるキャラ! 悟空やパイクーハンは死んじゃってるので、頭に「輪っか」がつく、とか(笑)。
TVシリーズで登場してるキャラクターは、当然TV用に描かれたキャラクター設定があるのですが、実は劇場版用に毎回新たに描き直されていたりします。TVの方は確か中鶴さんがキャラクター・デザインを描かれていましたが、劇場版ではここ何作も山室さんが作画監督を担当しています。やはり山室さんの作画はTVのそれとはだいぶ違っていて、特に「影」の作画のボリューム感がTVのものとは違っていたのです。
キャラクターの色は、その影のボリュームによって随分印象が変わってします。同じ色指定で塗られていても、影やハイライトの面積比や入り方でまるで違う色に見えてしまうこともあるのです。あるいは、その影のつけ方によっては、色指定から大きく変えた方がよりよく見えることもしばしばありました。ましてや、スーパーサイヤ人のような特殊な作画ではなおさらです。
なので、僕からもお願いして、可能な限りTVシリーズのキャラクターも、設定を山室さんにリライトしていただきました。今回の『復活のフュージョン!! 悟空とベジータ』では、悟空、パイクーハン、閻魔大王、界王さま達、などなど。悟飯、ビーデルや悟天、トランクスは、前作、前々作で山室さんがリライトされてるものを使用です。で、当然、色も劇場版用にボリューム足してます。

そして、劇場版のオリジナル・キャラクターたちです。
劇場版の敵キャラは、原作者の鳥山氏からおおざっぱな(!)ラフ画が届いて、それをお話に沿うようにアニメ用に整理していくのですが、今回は山内監督のアイデアを山室さんがデザインした、そのまんまの設定画で鳥山氏がOKをくれたと記憶しています。で、そのデザインに、僕が色を作っていきます。
ジャネンバのデザインは2体。ひとつ目は前半の無邪気なこどものような、ぽわ〜んとした丸っこいジャネンバ。一見コミカルなフンイキ漂うデザインで、実際そんなに強く見えない感じを狙って、全体にクリーム色の柔らかい色味にまとめました。
ふたつ目のジャネンバは後半登場の邪悪そのまんまなメッチャ強いイメージ。目元も鋭く、シャープなフォルムのいかにも強敵! なデザインです。と、なれば、やはり強い赤とムラサキか。いろいろ試してみて、やっぱり赤とムラサキに落ち着きました。
集英社のチェックも通り、ポスター、そして予告編、と作業が進んだところで1994年が終わりです。そしていよいよ1995年、平成7年であります。
その年明け、文字通り日本列島を揺るがす大変なコトが起きたのでありました。

第137回へつづく

(10.09.14)