色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第138回 昔々……82 1995年その2 なんちゃってデジタル? な2月

「暑さ寒さも彼岸まで」
……昔の人はよくも言ったもんですなあ! まさにこのお彼岸を境に、一気に「秋」になった日本列島でありますね。台風もちゃんと来たし。僕もとうとう長袖シャツ装着! あ〜、今年は10月まで半袖のつもりだったんですがね(苦笑)。
僕が参加してる『極上! めちゃモテ委員長』、いま作ってるあたりから背景美術が「秋モード」になってます。内心「このままずっと暑かったらどうしよう?(汗)」とか思ってましたが、いやはや、ちょっと安心。作ってる僕らの気分的にも、やっと「秋モード」になれそうです。

さてさて。
3月公開の劇場版『DRAGON BALL Z 復活のフュージョン!! 悟空とベジータ』、編集・アフレコをほぼ原撮で切り抜けて、いよいよ本格的な追い込み突入の2月でありました。
「ジャネンバの瞬間移動をね、デジタルっぽく見せたいんだけども」と山内監督。「えっ? デジタルっぽくって?(汗)」と、山室作監と僕。
実はこの頃から、そろそろグラフィックの世界にパーソナル・コンピュータが入り込みはじめていました。まだ具体的にはアニメ制作には入ってはいませんでしたが、個人のレベルではパソコンが段々気になるモノになってきていたのです。
「アップルコンピュータのね、マッキントッシュっていうのがね……」と山内監督。大泉のスタジオ内で、そのパソコンな気分、Macな気分の真ん中にいたのが実は山内監督でありました。監督の周りにいた面々が、次第にパソコン、Macな気分に「洗脳」「感化」されていったのですね。僕も含めて(笑)。

で、ジャネンバの件。
当然CG使ってってコトではなくて、あくまでも作画で「デジタルっぽく」というオーダー。どういうことかというと、要するにジャネンバの瞬間移動の際、その「消え際」「出現時」の残像? をモザイク状に作画して、「なんちゃってデジタルちっく」っぽい画像にしよう、ということなのでした。なるほど、気分はデジタルちっくです(笑)。そしてモザイク状の部分の断面がワザとパカパカして見えるように、色でも工夫を求められました。
実はこれが結構たいへん。モザイク1個1個の断面をバラバラに塗り分けて、それをセル1枚1枚、連続しないように塗り分けていきます。これがね、なかなかできない。
そもそも彩色って仕事は、色がちゃんと正しく連続して塗られるように、いわゆる「色パカ」にならないように、という注意が求められるのがフツウなワケで、それをあえて「色パカに見えるように」と原画・動画に注意書きしても、なかなかこちらが意図したようには塗り上がってはきませんでした。やっぱりみんな、ちゃんと塗り上がってきちゃう。
結局、ほとんどの「瞬間移動カット」は、仕上検査の時点でリテイク処理。パカパカして見えるようにセルの表側から1枚ごとに塗り替えをしたのでありました。
で、そのカットをラッシュ・フィルムでチェック。「……う〜む(苦笑)」と一同(笑)。でもまあ、おもしろい画面にはなったんではないかなあ、と。
いつもそんな感じで、毎回ちょっとビックリな注文を出してくる山内監督の画面作りは、さらに撮出しでいろんなワザが加わってきます。今回も撮出し時にいろんな素材を追加して撮っておりました。
例えば、ハイコントラストな画面。背景画をコピー機を使って白黒コピー。いろいろ調整してコントラストの高い白黒反転させたコピーを作ります。そのコピーを原板にしてリスマスクの機械にかけて透過光マスクを作成。そのマスクを背景にのせて撮影して、光の効果を足してさらに不思議なハイコン画面を作ってみたり。
そんな風にコピー機使ったり、というコトも考えれば、デジタル? と言えない事もなかったり。ん? 違うか?(笑)

と、こんな感じで楽しく大変な追い込みを乗り切って、なんとか完成にこぎ着けた2月末。そして3月第1週の全国公開。ちなみに同時上映は『SLAM DUNK』と『ママレード・ボーイ』でありました。
お話のクライマックスは、悟空とベジータの合体ワザ「フュージョン」で出現した「ゴジータ」が、みごとジャネンバを倒し、あの世とこの世の秩序を取り戻します。その結果、ジャネンバによって生き返っていたベジータはまた魂だけになってしまいます。僕はこのくだりがなかなか好きで、ベジータの去り際のかっこよさに、ちょっとホロッときちゃったりしてたのでありました。

第139回へつづく

(10.09.28)