色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第141回 『四畳半神話大系』色彩設計おぼえがき 第2巻

あるTVシリーズの準備のため、今月から初めてのスタジオに通い始めております。すでに機材もセッティングが終わり、作業が本格化するのを待ってるところ。
毎度そうなんですが、いつも気になるのは机の高さ、椅子の高さであります。僕はあまり姿勢がよくなくって、特に座って作業してるときかなり猫背になりがちなんです。これはねえ、よくないんですよ、特に腰に。なので、意識して机の天板をかなり高めに設定し、椅子の座面を低くして、否応なしに背中が伸びるようなバランスにしております。
ところがここのスタジオの椅子がよろしくない(苦笑)。かなりくたびれちゃってる椅子ばかりなもので、監督とか作画監督とかは自腹で椅子買って持ち込んでます。で、僕も正直思案中。それが決まらないと机の高さも決められないのですよ。一応、机の高さ調整用に、机の脚の下に敷き込める角材は準備済み。
さあどうするか? 当面はスタジオにある椅子で様子見かな? なので今日、とりあえずスタジオ行くとき座布団買っていくことにします(笑)。

さてさて。
今週も「『四畳半神話大系』色彩設計おぼえがき」。DVD&Blu-ray第2巻分の3話〜5話です。

■第3話 サイクリング同好会「ソレイユ」

絵コンテ・演出・作画監督:牧原亮太郎、作画監督:浅野直之、色指定:大塚奈津子
スケジュール的に3話は、2話とほぼ並行作業な感じだったと思います。4話は1話がほぼ形になってからの実作業だったのですが、2話とこの3話作ってるときはまだ1話も作業中。ビジュアルがどうなっていくのか結構探りながら、って感じに進んでいきました。

3話は「私」の妄想が2話よりも多くなっています。過去回想、現在、そして妄想。大きく分けて、自転車を盗まれてそれまでの顛末を語る前半パートが過去回想、後半、打ちひしがれて帰宅して、そして「しまなみ杯」からは現在の時間軸です。そして妄想。
2話でも書きましたが、過去回想はそうと分かるように主線の色をセピア調な茶色系にしているのですが、妄想シーンも主線の色をいろいろ変えてみています。そしてさらに「私」以外のキャラたちをカラフルなモノトーンにすることで差別化しています。いろいろ探ってる感じは実はそんなところに残ってて、まだちょっと遠慮しちゃってるような雰囲気が見えます。これがシリーズ後半にはもっとハッキリと差をつけることができてるんですが、でもまだ3話では、ちょっと思いっきりが足りなかったかなあ? と。

それでもかなり上手くいっているのは、モブのシルエット処理。自転車レースのその他の選手たち、観客、自転車屋の自転車やパーツたち。この話でモブキャラのシルエット処理の法則をほぼ固めることができました。あ、「モブキャラ」っていうのは、通行人だとか、店のお客さんだとか、まあそんな、その他大勢のキャラたちのことです。
前にも書きましたが、主人公の「私」がブツブツ言ってるのを、僕らは「私」の割と近いところから観てる、っていうのが基本のスタンスと僕は考えてます。なので、いま「私」が直接関わっていない人(あるいは物)は、「私」自身に興味がないので思いっきりシルエット処理にして、「私」が話してる相手であったり、手に取ったりしてる人(あるいは物)には色をつける。こうすることによって、「私」と関係してるものたちが、色つきになりてハッキリしてくる、と。これが以降の大原則になっていきます。
例えば、自転車屋でのシーン。まわりに置かれてたり壁に掛けられたりしてる自転車やパーツは単色シルエット。でも「私」が手にしてるパーツは色つき。また、たとえば回想の明石さんの優勝会見シーン。「私」と明石さんは色つき、取材陣と取り巻く観客は単色シルエット。と、こんな感じです。

3話の色指定は大塚奈津子さん。来春公開予定の某劇場作品の作業の中、参戦していただきました。結構思いっきりのよい色指定をしてくれて、シルエットの色味はほぼ大塚さん任せでした。その感覚はこのあと第6話でもいかんなく発揮されていくのです。

3話でひとつ、まあ失敗ではないんでけど、ちょっと後悔してるシーンがあって、それは蹴上げでのレースの「私」と明石さんのシーン。桜が見事なインクラインでのシーンです。ここ、湯浅監督は1話や2話で使った、糺の森での夕景シーンのようにしたかったらしいのですが、それだと確か、時刻的にどうか? とかいろいろ不都合があって、結局昼間のシーンになったのですね。ただ「特別なシーンに」ということで、主線をピンクにしてピンクームラサキを感じる色に仕上げました。でも、あらためて見ると、ああ、もっと思い切って色つけてしまえばよかったなあ、と。その反省というか、教訓から、4話以降で何度か登場していく「私」と明石さんの、髪もピンクにしたピンク系彩色、1話の夕景色のピンク色版になっていったのでありました。

■第4話 弟子求ム

絵コンテ・演出:横山彰利、作画監督:伊東伸高、色指定:鈴木寿子
4話の演出は横山さん。2話に続いての4話、しかもかなりの物量話数。なかなか時間も厳しく大変でありました(笑)。色指定は鈴木寿子さん。同時期にオンエアだった「迷い猫オーバーラン」の色彩設計さんだったんですが、ほんと忙しい中を無理言ってお願いしてしまいました。

この話は基本が現在の時間軸、そこに時折、過去回想が入り込んでくる、といった構成。
とにかく場面が多く、よって色替えも細かく多く、さらには小道具やその場こっきりのモノたち、よくわからない妄想描写(笑)もワラワラ出てくるという画面。同じ四畳半の部屋でも、樋口師匠の部屋はとにかくゴチャゴチャしてて、ただでさえ美術も大変だったんですが、これがまた夜だったり、昼だったり、夕方だったり、はたまたイメージだったりと、あらゆる色変えが存在するという。しかもレイアウト兼用で作画カットも兼用の嵐。いくつもの色変えにまたがっての兼用カットで、色指定さん泣かせの話数でありました(←実は後の話数にいくほどもっと大変になっていくんですが……)
大きく分けたシーンごとの色味は僕の方で用意するんですが、シーン、というよりカット単位で、作画次第なものが多く、とりあえずは打ち合わせをもとに色指定さんに色をつけてもらったものを僕の方でチェック&必要に応じて修正させていただく、というやりとりが、たぶんシリーズ中最多だったのでは? と思います。京都の銘品がたくさん出てきたのもこの話ですね。ゴキブリキューブもこの回で、その後もう一度ゴキブリが出てきた10話も鈴木さんに当たっちゃいました。偶然です(笑)。

鴨川デルタの夕景シーン。樋口師匠が唄ってるとデルタが持ち上がってそのままノーチラス号になっちゃうイメージシーンも、作画が上がってとりあえず色をつけてもらってから横山さんと僕とで決め込みして、そして色指定さんに戻して、と、そんなやりとりで作り込みました。
クライマックスの「対決」シーンはこれまた大変で、歴代の代理人たちが両者の肩の上に見えるというカット。これがまた仕上げ的に大変でして、鈴木さんに文字どおりセルデータに1枚1枚手を入れてもらって、なんとか完成したのでした。
ちなみに、師匠のハンモック。実は作画になってまして、網目部分は背景でも使っている千代紙素材を貼り込んで撮影でいい感じにしてもらってます。で、この貼り込みは僕がすべてやってます。なんでだったかそういう流れになり、作画にあわせて素材を変形させてチマチマと。これがね、意外と楽しい(笑)。で、結局このあとこれはみんな僕の作業になりました(笑)。

あ、そうそう、3話の項で書いた「私」と明石さんのピンク系彩色、幻の束子をさがして放浪していた「私」と明石さんが錦町市場で出会ったシーンで登場してます。

■第5話 ソフトボールサークル「ほんわか」

絵コンテ:浜崎博嗣、演出:高橋知也、作画監督:石浜真史、色指定:秋元由紀
前半戦の締めは、この怪しげな「ほんわか」です。「ほんわか」本部から逃げ出してからが現在、それまではすべて回想過去という時間軸。 この5話もかなりの曲者話数で、4話同様、かなりの場面で色指定さんに色をつけてもらったものを僕の方でチェック、というやりとりでした。色指定は秋元さん、2投目。

5話では「ほんわか」のメンバーがたくさん出てくるのですが、イメージシーンや多少奥行き感とかでやった以外は、基本「ほんわか」はシルエット化していません。みんな黄色い「ほんわか」Tシャツやワッペンでくくってあったので、1人1人はむしろ色味が多少あった方がいいかな? と考えました。そして、あんまり個性がないように作画も色味も組み立てたので、むしろシルエットにしない方が「個性のないひとかたまりのヤバい感じ」が出るかなあ? と。そのぶん、一般人とかは徹底してシルエットに。
小日向さんは監督から「黄色着てます」ということだったので、ワンピースは黄色。「黒髪の乙女」なので黒髪。で、他の人たちと差別化するために、肌や顔は輪郭線が出ないようにすべて同じ白にしてあります。目鼻を描かないという設定だったので、これまたいい感じの存在感になりました。

この小日向さんも含めて、前半の過去回想は美術も彩色も全体に明るく柔らかくほんわりとした画面にまとめているのですが、「私」が「ほんわか」本部に着いてからは、「私」の猜疑心、危険信号に沿うように徐々に濃い色遣いへとなだれ込んでいきます。真っ白な工場でノズルから出る黒、緑、青の原色がいい感じ。この辺はドンドン秋元さんにやってもらっちゃいました。
ピンクの煙漂う「洗脳シーン」。「ポンッ!」と弾けていく人々の色は美術ボード打ち合わせの時にすでに僕にイメージがあって、実際のカットで作ったサンプルを演出の高橋さんにOKいただいたあと、「じゃ、こんな感じにヨロシク」と秋元さんにまとめていただきました。
完成までの少し前に、台詞と音が入った状態で、監督以下みんなで通して見るんですが、いやあ、ほんわか会長の演説は圧巻で、見ててちょっと鳥肌。
ラスト、窓から現れる「10話の『私』」。4話の「10万円」もそうですが、「観てくれる人たちはどう反応するんだろう?」という感じで、作ってる方は「ニヤリ」でありました(笑)。

いまDVDで映像を見返しながら書いてますが、冒頭と後半の真っ暗な森のシーンは映像チェック用のモニターでもステキに暗くて「これ大丈夫? TVで見えないんじゃない?」と心配してました。結局これギリギリ大丈夫だったのかな? V編時に多少明るく調整したんでしたっけ? ちょっと不明。
すでにこの5話あたりからスケジュール的にかな〜りキツくなってきてました。でも、あとで考えれば、まだまだこのあたりは余裕だったのかも……。

第142回へつづく

(10.10.19)