色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第147回 昔々……86 1995年その6 どことなく重い4月、そして5月

毎年、師走のイチバンの気がかり、というか苦痛は、実は年賀状なのであります。
正直言って、年賀状、もう勘弁! とか思うんですよ。だって、年末進行とかのまっただ中でデザインとか考えないとならないわけで、それがもうたいへんなんであります。「だったらもういいジャン! やめちゃえば?」とか言われたりもするし、実際僕も「やめちゃおうかねえ?」とか思うんですが、それでもね、一応長男なので、親戚には出しておかなきゃってのもあるし、また年賀状のやりとりだけで繋がってる古い知り合い友人ってのもいるんですよね。それに、ここWEBアニメスタイルさんからも、毎年恒例年賀状企画のお話も来るし(笑)。
「だったらさ、できあいのデザインのとか買ってきて出せばいいジャン」とか言われますが、ねえ、それもなんか味気ないような。あ、いや、大して立派なのを書ける、もしくは描けるワケじゃないんですけどね。どんなにダメダメでも自分で作ったデザインがいい、というひねくれ者です。
そんなわけで、なかなかね、たいへんなんですよ(苦笑)。
でね、実は来年、なんと私、年男だってことが判明! なんとまあ、とうとう4回廻っちゃいましたよ、干支(汗)。いやはや。「ならばひとつ、ここは頑張って凄いのを!」……と、ほら、また、もうこれが無理なわけです、ええ。
そんな年賀状スパイラルに陥ってる12月の僕なのであります。

さてさて。
謎の「2泊3日ソウル拉致&接待攻め旅行」から帰ってきたらいきなりのサリン事件、そして続いて起こった國松警察庁長官狙撃事件と、世の中が重たい空気に包まれていた1995年の春であります。このふたつの大きな事件でなんとも落ち着かない気分で4月に入りました。
「しばらくは暇かな?」とか思っていたら、ちゃんと次の劇場作品のシナリオが待っていてくれました。脚本/小山高生、美術設定/窪田忠雄、美術監督/東潤一、作画監督/山室直儀、監修/山内重保、監督/橋本光夫。劇場版『DRAGON BALL Z 龍拳爆発!!悟空がやらねば誰がやる』。僕自身、6作目の劇場版『DRAGON BALL Z』であります。

ある日、グレートサイヤマン(悟飯とビーデル)の前に謎の老人が現れ、オルゴールに封印された勇者を解放してくれと頼み込む。神龍を呼び出して解いた封印により現れた勇者タピオン。トランクスはタピオンを兄のように慕うのだが、タピオンは表情を険しく、トランクスを突き放す。実はタピオンの身体には魔獣ヒルデガーンが封じ込められていて、タピオンの復活とともにヒルデガーンもまた封印を解かれ復活してしまったのだ。そしてヒルデガーンと悟空たちの死闘が始まるのだった。……という、お話。

劇場版『DRAGON BALL Z』はたいていの場合、ストーリー自体には原作者の鳥山明氏はほとんど関わっていなかったようなのですが、劇中に登場するゲストのキャラクターの原案については、お願いすれば描いてもらえておりました。で、今回、鳥山氏から送られてきた勇者タピオンのキャラクターの原案のラフ画を見て僕らスタッフは一斉に同じ台詞を。「これってさ、大丈夫なのかな?(汗)」実は送られてきたラフ画、ついこのひと月ほど前に発売されたスーパーファミコン用ゲームソフト「クロノトリガー」のキーキャラクター・クロノにそっくりだったからなのです。
この「クロノトリガー」、鳥山氏がキャラクターデザインを担当したゲームでして、発売前からかなり評判になっていたゲームだったのでした。「たぶんさあ、いま鳥山さんに描いてもらうと、だいたいみんなこっちの方向に似ちゃうんじゃないのかなあ?」と僕ら。それでも鳥山氏にダメ出しできるわけもなく、山室さんと監督の橋本くんが協議して、細部を少しずついじってキャラクターにしたのです。そして次いでそれは僕のところへ。色の決め込みをするのです。

さて、どうするか。
線画のレベルで似ちゃってるものを色でどこまで変えられるのか。いまの僕ならばもっといろいろ考えて、何か方策を立てたのかも知れませんが、この時はどうにも僕自身「クロノ」に引っ張られちゃってたのですね。この「クロノ」の色、すごくよかったんですよ。その時の僕のツボに見事はまってた配色だったのです。そして何より、お話の中でのこのタピオンの位置づけと、その配色バランスが妙に合っちゃっていたのです。色で印象を変えるのなら、「クロノ」の配色の真逆をやって、そこから調整していけばよかったんだけど、お話の内容的に明るい色味のタピオンはあり得なかったし、何より、僕も橋本くんも山室さんも、みんな何となく赤い髪を想像しちゃっていたのです。で、髪赤くして、渋めの青系の服着せたら……細かいパーツをどう変えようとも、そりゃもう「クロノ」になっちゃうんですよね。
「流石にこれはマズイだろう!」とプロデューサーの森下さん。まあ、そうですよね。そのとおり。わかってはいるんですよ。どうしましょう? ということに。でもまあ、仕方ないねえ、みたいな方向になっていき、確か当初つけていたバンダナを外してスキンヘッドな部分を見せ、髪を赤からオレンジ足して朱色っぽく修正、服の形をさらにいじって、服に使っていた色を長いスカーフに置き直し、服自体は明るめの茶に変更。これで少しは「別物」感が出せたのでした。

さて、タピオンはなんとか落としどころ見つけたのですが、実はヒルデガーンも。ヒルデガーン、最初は上半身と下半身で登場なのですが、そのときはまだよかったんですが、合体して完全体になると、やっぱりセルとかに似てきちゃたのですね。でもまあこれは、おんなじ『DRAGON BALL Z』の中での似てる似てないなので、「ほら、そんなに長く画面にいるわけじゃないから(笑)」ということでなんとかクリア。
でもまあ、正直、『DRAGON BALL Z』という作品としては、もういっぱいいっぱい。キャラクターデザインもお話も、とにかくネタ切れだったんですね。ここまで延々と続いてきたTV、そして劇場版のシリーズ、かつての魅力はもうだいぶ怪しくなってきていました。
そしてそんな中、とうとうこの日がやってくることに。週刊少年ジャンプ誌上での『DRAGON BALL』の連載の終了が決まったのでありました。

第148回へつづく

(10.12.07)