色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第157回 昔々……95 1995年その15 制作快調? の8月、そして迎えた本放送の9月

僕も参加させていただいたTVシリーズ『墓場鬼太郎』のBlu-ray Boxが2月23日に発売になります。昨年暮れにこのBox用のジャケットの画を地岡監督デザイン案、山室作画監督の作画、そして僕の色彩作業で作りまして、それをジャケットのデザイナーさんが頑張ってまとめてくださいました。これがね、なかなかのよいできあがり! 皆さんも手にひとたび手に取ったらもうきっと欲しくなっちゃう! そんなジャケットであります。ということで、皆さん、すでにDVD-BOXをお持ちの方も是非、どうぞヨロシクお願いいたします! ……宣伝、宣伝(笑)。
その『墓場鬼太郎』のジャケット作業の際にいろいろうかがったお話だと、旧作の特にTVシリーズ作品のBlu-ray化ってなかなか難しい、というお話。というのも、HD規格で最初からBlu-rayで発売することを念頭に置いて制作されている最近のTV作品はともかく、昔のTV規格で制作されている映像をBlu-rayにするためには、映像自体の規格をBlu-ray用にリマスターの処理をかける必要があって、その手間が結構たいへんなのと、そのための費用が結構かかる、ということ。それがネックになっていて、なかなか旧作がBlu-rayにならない、ということなのです。結局その費用分を価格に上乗せすることになるので販売価格はどうしてもある程度高くなっちゃうし、実際そうやって作って発売したところでそんなには売れない、超赤字、という現実。そうなれば、相当人気のあった作品で出せば必ずある程度の数が売れると分かっていなければ、そうそうBlu-rayBoxは出せないということなのでした。
僕なんかのシロウト考えだと、例えば、画質自体はDVDで出した時のそのまんまで、それなら1枚のBlu-rayにたくさん入るからシリーズ全部を2〜3枚くらいに収録でいいぢゃん! とか思うんですけど、どうもそれもそんなに簡単な話じゃないらしい(苦笑)。う〜む、難しいですね。
旧作はともかく、最近地デジ放送されているTVアニメを僕も自宅のBlu-rayで結構録って観てるんですが、こうして録って自分でBlu-rayに保存しちゃったら、正直発売される製品版Blu-ray Boxとか買わないでいいものなあ、とか思っちゃいますしね。
う〜む、難しいなあ……。
それでも、それでも、『墓場鬼太郎』Blu-rayBox、是非ともお買い上げヨロシクです!

さてさて。 季節は夏。『ご近所物語』はいよいよ約ひと月後の本放送スタートへ向けて一気に加速でありました。番宣ポスター、番宣スチールも無事納品。本編の制作はすでに第1話の編集作業も終わり、2話、3話ともほぼ順調でありました。毎週放送のTV作品は、毎週1本は完成・納品となるわけで、そのためには毎週必ず編集・アフレコがあって、さらには毎週追い込みがあって、毎週打ち合わせがあってと、とにかく曜日単位で忙しい日々が続いていくのでありました。それがTV作品なのであります(笑)。

主役のミカコ役の声優さんに、主題歌を歌ってくれている歌手の宍戸留美さんが決定しました。実は主役の役者さんがなかなか決まらない中、主題歌を唄う宍戸さんが、声といいまとってるフンイキといいミカコにぴったりだったようなのです。ところが宍戸さん、声優のお仕事、ほぼ初めてだったらしいのです。声優やったことのない人を主役に据えて果たして大丈夫なのか? と、連日、関さんと梅澤さんは唸りまくりつつ相談していたのを見かけておりました。そして第1話の編集の前日夜、大泉の東映動画のスタジオ3階の試写室。僕らスタッフがラッシュチェックで集まったその試写室に小柄な若い美人の女性が1人、最前列の席で画面を食い入るように見つめていました。びっくり! なんと宍戸留美さん、その人なのでありました。 そうなのです。関さんと梅澤さん、声優経験のなかった宍戸さんのために、編集前に大泉スタジオに宍戸さんを呼んで、その週のアフレコ分の映像を先に見てもらって、さらにそこで猛特訓を敢行することにしたようなのでありました。その特訓はなんと毎週続き、1クールくらいは続いたのでしょうか? 僕と宍戸さん、あまりというかほとんど会話を交わすことはなかったのですが、同じ試写室で一緒に主役の声優さんとラッシュフィルムを見るなんてことは当然初めての体験です。演出さんや記録さんとは違い、僕らのようなスタジオのスタッフは声優さんとの接点がないもので、この毎週一度のこの十数分間は、なんとも心ときめく体験だったのでした。

その宍戸さんが唄うOP(オープニング)とED(エンディング)。1話の制作とほぼ並行しての作業でありましたこのOPも、「やっぱりコンピュータでの画像処理入れて!」との関プロデューサーからのオーダーがあり、しっかり1カット(正確には2カットにまたがって)、CGで作ったシャボン玉を合成したカットを入れた絵コンテが上がっていました。一応「縛り」としては、番組本編中にも登場させる「アイテム」、まあ、要するに番組タイアップで売るオモチャなのですが、それをシッカリOPに登場させることになっていて、そのあたりのフィーチャー具合がまあちょっとあったぐらいで、あとは作画〜仕上げ自体はそれほど大変なカットもなく、どっちかっていえば割と楽勝だったのですけれども、やはり問題はCGのシャボン玉のカットでありました。
矢沢あい先生のマンガによく登場してる緑色の恐竜(?)のスドウザウルスがシャボン玉を吹くと、そのシャボン玉でワイプしてカットが変わり、大きなシャボン玉の上に背中合わせでミカコとツトム、という流れ。そのカットにもそのまま画面下から上へと、2人の姿が映り込んだいくつものシャボン玉が上っていきます。それらのシャボン玉がCGなわけですね。作画と仕上げはそれぞれスドウザウルスとミカコ&ツトムを作るだけで、あとはその当時デジタル関係の機材とかを管理担当してくれていた社内部署にお任せしちゃったのですが、これが大変だったらしい(笑)。当時のマシンでのCGのムービーの計算処理です。セッティングしてスタートさせて、で、終了予想時刻が翌日夕方、みたいな重さ。それで夜じゅうコンピューターに作業させておいて、朝出社してチェックしたら、計算途中でコンピュータがハングアップして止まってて、で、また最初からやり直しとか(苦笑)。結局このカットの処理に3日くらいかかってしまったらしいのでした。ちなみに今なら1時間もかからない程度の作業だったりするんですけどね。なんせ、15年も昔のお話です(笑)。

そうそう、苦労して作り上げた例の番宣スチールも、OP後半でタイアップ・アイテムの「なんとかプリント」(←名前忘れた(汗))の素材として登場させました。ぱっこんぱっこんとプリントされる絵柄に登場。これもカラーコピー機でプリントしたものを使用です。カット自体は普通のアニメの撮影台で撮ってるカットだったので、作画のレイアウトに合わせてサイズとパースをMacで調整してプリントして、そいつを直撮りでした。

そんないろんな苦労の末、いよいよ『ご近所物語』の本放送がスタートしました。1995年9月10日日曜日、朝8時30分。こののち『明日のナージャ』まで延々8年半もの長きに渡って続いていく、僕の「日曜朝8時半枠の人生」がこの日に始まったのでありました。

第158回へつづく

(11.02.22)