色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第160回 昔々……99 1995年その18 劇場版セーラームーン、今度はSuperS(汗)な9月

3月11日に発生した大地震とそれに伴う大津波で東日本、とりわけ東北地方が大打撃を受けております。
被災された皆さんのことを想うと胸が苦しいです。心からお見舞い申し上げます。そして命を落とされた方々には心からご冥福をお祈りします。
幸い僕は大きな被害も受けることなく東京で元気でおりますが、一緒に仕事をしている仲間、友人達のご実家が被災された地域にあり、安否確認できるまでみんな大変だったようです。幸い、僕の知り合いのご家族は皆さん無事だったようであります。ひとまず安心です。

さて、僕らです。
大きな被害を受けなかった僕らは、僕らにできること、僕らがいつもやっていることを粛々と続けていくことが肝心なのかと思います。可能な限りいつもどおりに活動して行くことが肝心だと考えます。お金使って買い物したり、ご飯も必要に応じて外食することも重要。ただし買い占めはダメ! 節電しつつ普通に暮らすこと。
そして、僕らはアニメ作りますよ! 普通にアニメを作り続けます。それがまず僕らにできることです。そうして作り上げたものが、必ずや近い将来、被災された方々に届き、その心を癒せる助けになると信じます。

さてさて。
TVシリーズ『ご近所物語』がまあまあ順調に滑り出した1995年の秋、またまた時計をまき戻します。ちょうど『ご近所物語』の放送が始まった頃、僕はまたあらたな劇場用作品のキャラクターの色を作っておりました。僕自身今年3タイトル目の劇場版のお仕事は劇場版『美少女戦士 セーラームーンSuperS セーラー9戦士集結! ブラック・ドリーム・ホールの奇跡』。『セーラームーン』劇場版、3年連続の登場であります。12月公開のお正月アニメです。
監督:芝田浩樹、脚本:榎戸洋司、キャラクターデザイン&作画監督:香川久、美術監修:窪田忠雄、美術監督:田尻健一。監督の芝田さんをはじめ、ほぼ前作の劇場版『美少女戦士セーラームーンS』のスタッフで固め、加えて脚本に榎戸さんが参加しています。ちなみに今回は『スペシャルプレゼント 亜美ちゃんの初恋 美少女戦士セーラームーンSuperS 外伝』と『あずき ちゃん』との3本立て公開でありました。『亜美ちゃんの初恋』は監督:五十嵐卓也、作画監督:下笠美穂で東映動画制作の短編。『あずきちゃん』はマッドハウスの制作でありました。
ある日ちびうさはお菓子屋さんのショーウィンドウを覗き込んでる不思議な少年ペルルと出会う。仲良くなる2人。一方、夜な夜な子供達がどこかへ連れ去られるという事件が発生。笛の音で子供達を誘拐していたのはペルルの兄ププラン達。彼らを使って子供達を集めていたのはバディヤーヌは、子供達の夢の力を吸収してブラックホールを作り上げようとしていたのだ。子供達と一緒に連れ去られてしまったちびうさを救うため、ペルルとセーラー戦士達はバディヤーヌのキャッスルへと乗り込んでいく……というお話。

劇場版『DRAGON BALL Z』のシリーズでもそうでしたが、劇場作品も回を重ねていくとだんだん「コツ」というか、そんな感じのものが自分の中に備わってくる、そんな感覚がありまして、劇場作品3本目ということもあって、気持ち的にはすこ〜し余裕で臨んでいた作品です。ゲストのキャラクター達は毎回はじめから作り上げていくのですが、レギュラーのキャラクターは基本変わらないので、そういう意味でもいくぶん余裕。色指定は前作のものをそのまま使えて……って、あれ?
あ〜、なんとまたセーラームーンのデザイン変わってるし(汗)。今度はちびうさまでセーラー戦士になっててしかもネコまで増えてるし(汗汗)、他の3人の戦士まで出てきて(大汗)……なんとまあセーラー戦士9人の大所帯! キャラ多すぎです。しかもタイトル長すぎるし! いやはや。「でも、この大所帯、TVでは普通に出てるんだよなあ、たぶん」。
『DRAGON BALL Z』同様、僕はTVシリーズの『セーラームーン』には関わってないので、劇場版のお仕事を担当するたびに新たに直面する新たな数々の設定とか、新たな数々のキャラクターとか、中でもバージョンアップして飾りが増えていくセーラームーンのデザインは、実はちょっと面倒でした(苦笑)。
それにしてもひとつの画面に9戦士は多いです。でも、そう考えると『プリキュア オールスターズ』なんてもう、どんなに大変なんだろうか? と……(汗)。

ゲストのキャラクターについては、今回も原作者の武内直子先生から色つき原案をいただきました。でもそのままでは線が多すぎてアニメーション向きではなかったので、キャラクターデザインの香川さんが線を整理してリライト。そのキャラクター設定に武内先生からの色をのせていきました。で、結局バディヤーヌはほぼ先生の原案のとおりになりましたが、ペルル他のキャラ達は僕らで手を入れさせていただきました。
先生からのペルルとププランのキャラクターのデザインは薄いベールのような素材の服を着ていて、いかにも妖精な感じでよかったのですが、実は半透明に透ける感じを忠実に再現するのが難しいのでした。透けさせる部分を撮影で半分の露出で撮ったりとか、手段は一応考えてはみたのですが、それを一旦やり始めちゃうととんでもない作業量になってしまうし、時間的に余裕がないし、絶対リテイクは増えちゃうし……ってことで却下(苦笑)。結局明るめな色で普通に塗りつぶし、作画は透けてるように描いておくということに落ち着きました。そのぶん、確か、髪の毛にメッシュな塗り分けを足しました。これは武内先生からのデザインにはなかったような気が。僕らアニメスタッフで足した記憶があります。

というわけで、今作もかなり大変なことになっていく感じで……(笑)。それでもお話のまとまりがよくて、3作品で実はイチバンのお気に入りの筋立てでありました。自分自身、一所懸命頑張った「前作」だったのですが、ここだけの話、やはりどこか満足いってなかったというか、あんまり気に入ってなかったというか、そんな想いもあったので、そのぶん今作に対する自分なりの「期待」みたいなものもあったのだと思います。
なんだかんだ言って、やっぱり気持ちの部分っていうのは大きいですね、アニメーションの作品作りは。

第161回へつづく

(11.03.22)