第162回 昔々……101 1995年その20 まさかのさらに劇場作品、そして「ドラゴンクエストVI」降臨の9月
実はいま、我が家にはネコがおります。諸般の事情により奥さんの実家の飼い猫をホームステイってことで滞在させてるんですね。名前を「まお」と言います。年齢約10歳。オス。人間で言うなら、まあ60過ぎくらい? のオジサンであります。
僕自身、犬? ネコ? と問われれば断然ネコ派なのでありますが、いままでネコを飼ったことがなかったのですね。しかもこの「まお」とは数年来ライバル関係というか、奥さんの実家に遊びに行くたびにまったくもって歓迎されずにいつも三角な眼で睨まれて、おまけに「ふう〜〜、シャア〜〜!」と威嚇される始末。
なので最初はどうなることかと思っておりましたが、せっせとエサを用意し、ウンチの処理をし続けた成果か、今では超なかよしに。強い信頼関係で結ばれているのであります。
そんな「まお」、そろそろ奥さんの実家に帰ることになっていて、もうあと1週くらいでお別れです。ああ、なんだろう? この切なさは……。なんかね「まお」が居ない生活が考えられなくなってしまってる僕だったりしてます。何とも、愛し合ってるもの同士が運命に引き裂かれる、みたいな。
ああ、どうしよう……(泣)。(続く)
さてさて。
「辻田くん、いま、ちょ〜っといいかな?」
8月の終わりのある日、課長に小部屋に呼ばれました。大体このパターンは何か怒られるか、あるいは新しいお仕事を申しつけられるか。「仕事的にはちょうど『ご近所物語』のTV放送が始まる直前で、これはまあまあ順調だし、暮れ公開の劇場版『セーラームーン』の新作は先日同じように呼ばれて始まったばかりだし。じゃあ、これは何かお小言なのだろうか? 思い当たる節は……ああ、あるにはあるなあ」とか考えながら、課長の後について小部屋へ。
「ん〜とね、劇場(作品)の話なんだけど」
「はい? 『セーラームーン』の劇場にはもう入ってて、ポスターも作業始まってますけど……」
「その次のヤツ。来年の春。なんかね『DRAGON BALL』やるんだって」
そうなのです。実はこの翌年(1996年)春の公開で『DRAGON BALL』の劇場用作品を作るという話なのです。しかもここ数年作り続けてきていた『DRAGON BALL Z』じゃなくて、『Z』のつかない『DRAGON BALL』の劇場用新作という話。「週刊少年ジャンプ」で原作マンガの連載が終了し、これ以上新しい原作の展開がなくなった今、なんと原点に戻って、原作の一番初め、悟空登場のあたりから原作に沿う形で劇場版を作ろう、ってことらしいのです。タイトルは『DRAGON BALL 最強への道』。
「いや、辻田くん、たくさん抱えてるから誰か別の人を立てようかと思ったんだけど……」
「いや、やります、やります、やらせてください!」
実はこの劇場版の話、夏の初め頃から何となく漏れ聞こえてきていたのです。そして、いつもならばすんなり僕に決まっていく流れのハズだったんですが、なんかちょっとヘンな話になってきていて、僕が仕事持ち過ぎなので誰か別の人に色指定をさせるみたいな話が制作から浮上。そして社内にはやってもらえそうな人がいないから色指定さんを外部から呼ぶ、みたいな話になりそうだったのです。
ちょっとその話、僕は面白くないワケですよ。
確かに僕はTVシリーズ『ご近所物語』の色彩設計も抱えてるし、今は劇場版『美少女戦士 セーラームーンSuperS セーラー9戦士集結! ブラック・ドリーム・ホールの奇跡』(←だからタイトル長すぎ(泣))も絶賛作業中ではあります。でも、そもそも『ご近所物語』については僕が他にも劇場用作品持てるようにってことで各話の担当色指定を外されたわけで、しかも正直言って来春公開の作品だったら、本当に忙しくなるのは『セーラームーンSuperS』が終わった12月以降のハズ。確かに準備段階の制作期間はかぶるけど、それくらいはナンとでもできるという心づもりはあるわけです。そして何より、ここまで劇場版の『DRAGON BALL Z』を支えてきたのは僕だ! という自負というかプライドみたいなものもあるわけで、ならばどんな状況でもやってやるぜ! と思ってたのでありました。
「あ? そう? 持ってくれる? いやあ、監督が山内くんだから、誰か別の人っていっても大変だからさあ、どうしようかって思ってたんだよ。いや、きっと山内くんも辻田くんにってどうせ言ってくるしねえ。そっかそっか、やってくれるか。ああよかった!」
「はい、頑張ります!」
「それでね、まだあるのよ」
「はい?」
「『ご近所物語』もね、同時上映で作ることになったんですよ」
「えええ〜!?」
なんてこった! 聞いてないよ! 劇場版『ご近所物語』、こんなの動いてるなんて実は知らなかったのです。
「これさ、辻田くんには『DRAGON BALL』持ってもらうならムリだから、じゃあキャラの色は作ってよ、キャラだけ。映画本編の色指定は誰かにやってもらうから」
ああ、やられた! 東映動画の慣例として、TV作品の劇場版は基本TVの担当者が色指定を担当する、という流れだったのです。となれば当然僕なわけで、それをわかってて課長はこういう順番で話を持ち出してきてるのです。『DRAGON BALL』の話も当然僕がやりたがるのを分かってたわけで、これはまんまと課長にやられたのでありました(苦笑)。ん? 課長だったのか? なんかもっと制作の上の方でそういうシナリオ作った人がいたんじゃないのかな?
ともあれこうして今年1995年は、劇場作品5タイトル(内1タイトルはキャラクターのみ)、TVシリーズの色彩設計1タイトル、他アルバイトでムック本の表紙の色指定2点、レーザーディスクのジャケット用スチール画の色指定1点、PlayStation用ゲームのオープニングの色指定と検査1タイトル……という、超盛りだくさんな年になったのです。
「あ、それでね、もうひとつ。これもやって」
「え?」
と、課長から渡されたのは数点のラフ画。あ、この画はまさか……。
「ゲームのね『ドラゴンクエストVI』あるでしょ、今度出るヤツ。アレのカレンダー。鳥山明だし、中鶴くんが描いてるから、これ色指定やって。それと……」
「え? それと?」
「それとね、今度出る『ドラゴンクエストVI』の攻略本の画の色指定もあるのでそれもお願いね」
「……!」
なんだかもうどさくさ紛れにいろんなものを僕に押しつけて課長は退室。劇場作品が大変だからとか、『ご近所物語』があるから大変だとか、さんざんそんな話をした挙げ句、え? なに? この仕事は……。
そんなわけで、なんと「ドラゴンクエスト」の仕事まで舞い込んでしまったワケなのであります!
第163回へつづく
(11.04.12)