第170回 緊急検証! 監督はモテるのか?
猛暑酷暑と言われた日々も遠くなり、だいぶしのぎやすい気温の日々へと落ち着いてきましたね。我が家はお隣が公園なのですが、日の出から夜中まで、あれほど喧しく鳴き続けていたセミたちの声も徐々に少なくなりまして、変わってコオロギたち秋の虫の優しい鳴き声が聞こえてくるようになりました。
ああ、夏が行っちゃいますねえ。
夏になる前の思惑としては、今年は何年かぶりに山歩きを再開して、真夏に木曽駒あたりでテント泊して焼肉食べたいとか、ことしこそは富士山に登るぞ! とか、そんなこんな考えておりましたが、いざ夏になってみると、『輪るピングドラム』の激忙の日々。あまり夏らしいコトをする余裕もなく夏が終わろうとしております。
山の上で焼肉は実現しなかったけど、この夏、僕は充実しておりましたよ。これほど隙間なく大好きな仕事に集中できて、たくさんの仲間と頑張った作品『輪るピングドラム』が大好評のスタートを切れたこと、これが何よりのこの夏の思い出になってます。2011年の、48歳の夏は行っちゃうけど、いつかあとから振り返ったとき、忘れられない夏になってる、そんな気がなりません。
さあ、制作はいよいよ後半2クール目に突入してます。あと3ヶ月、走りますよ!
さてさて。
先日、フジテレビ系の日曜昼の番組に、若手俳優の中尾明慶氏が出てまして、なんとなく見ちゃってたんですが、あれ? この人誰かに似てるなあ? と。「あ! そうだ! 『プリキュア』の大塚くんだ!」そうなんですよ。大塚隆史監督がこの中尾明慶くんによく似てるんですね。まあ、いい男、なワケです。
で、そんなことをtwitterでつぶやいてみていたらですね、当の本人が釣られてきましてね、あ、大塚くんの方ですよ(笑)。で「大塚くんはモテるのか?」から、なぜかいつの間にか話題は「監督はモテるのか?」という話題になっていったわけです。
「え?監督ってモテますよね?」と僕。「え〜?そんなことないですよ」と大塚くん。「僕と長峯さん見てくださいよお」と(笑)。まあ、長峯くんはおいておいて(爆)、でも「監督」って名のつく方はモテるイメージが僕にはあるんだけどなあ。……とか思ってたら、佐藤順一監督からひと言。
「職種とモテ度には何ら関係がないことは、ワタクシの30年にわたる体感調査によって確認されてます!」
うっ! 30年は重い!(笑) でも、佐藤さんとか、充分モテてる気がするんですけどねえ?
「監督」って言葉には、なんていうか、いろんなコトを判断し、みんなを引っぱっていき、なおかつ責任を一新に背負った確固たる存在、なイメージがあるんですよね。なんていうかオーラ感というか、そういう特別な感じが。まあ当然、個人の資質みたいなのも問われるのは確かですが、「監督」という立場に立たれる方には、やはりそれだけの人としての重みっていうか、「ああ、そうだよね!」と周りのみんなが納得する人物な気がします。
まあ実際「監督」って言葉、カッコイイと思いませんか?(笑)
さて、そうして見回してみると、僕らのこのアニメーション業界、ひとつの作品を作る中でも実にたくさんの「監督」さんがいるわけです。
すべての頂点に立つ「監督」に始まって(あ、「総監督」ってのもありますね)、作画監督、美術監督、撮影監督、CG監督あるいはVFX監督、音響監督、音楽監督などなど。それぞれのセクションにそれぞれの「監督」さんがいらっしゃるわけです。そんな中にあって、あれ? 僕らの仕上げの部門には監督と名のつくポジションがないんですよ。「色彩設計」であったり「色指定」「検査」であったりしますが、「監督」ではないんですね。……ああ、たしか以前にどこかの作品で「仕上監督」のクレジットを目にした記憶がありますが、おおむね現在の制作のシステムの中には「仕上監督」のクレジットってないんです。
う〜む、なんでなんでしょうね?
たとえばそれが美術さんであったら、描き上がってきた背景は「美術監督」さんが最終チェックして撮影さんに渡すし、作画もそうですよね? 原画は「作画監督」さんがチェックしてOK出してはじめて動画へ回る。撮影さんも撮り上がったラッシュは「撮影監督」さんがOKだして編集に入るわけだし。つまり、そのセクションのプロダクトの質的なものを管理し監督していく立場にそれぞれの「監督」さんはいるわけです。
僕ら仕上げのセクションは色彩設計→色指定→彩色→仕上検査という流れで構成されてて、たいていの場合、撮影さんに回される彩色データは、最終的には仕上げ検査さんがチェックして撮影さんに渡していきます。
「監督」っていう立場の方はそういうのもすべて束ねて初めて「監督」なのかな? とか。と、考えると「仕上」は流れ作業で進んでいって最終担当者にチェックをお願いするシステムだから「監督」さんがいないのか? あるいは考え方を変えれば仕上検査を担当してくれる方が「監督」に近いのか? そうかもしれないけど、でもそれもなんかちょっと違うような感じもしますね。
では僕ら仕上げのセクションの「質」ってなんなんだろう? と考えます。絶対的に重要なのは、撮影素材としてちゃんと必要なものを満たしている、ということ。サイズだとか色パカなどの間違いがないかなど、彩色データの精密さはもとより、マスク素材がちゃんと揃っているか、とかも当然といえば当然だけど重要なポイントです。これに関しては「彩色」であり「仕上検査」、そしてやはり「色」の問題。この部分についてはやはり「色彩設計」であり「色指定」であると思うのです。その両方で成り立っているのが仕上の「質」でしょうかね。
確かに「色彩設計」は、仕上げの仕事の流れの最初に位置しているし、ある程度仕上げのセクション全般を見渡す立場にはあるんだけど、やはりどこか「監督」という立場とは違ってるような気がするんですよ。ですがそれでも、僕が色彩設計を担当させていただいてる作品においては、できる限り僕が前面に立ってコントロールできるようにさせていただいております。
メインでお願いする色指定さんの人選も僕に任せていただいて、仕上検査は色指定さん本人にお願いするようにしています。ラッシュチェックやリテイク出し、そして最終的なリテイク処理も色指定さんと一緒に対応。こうして少ないメンバーでみんなで一緒にまとまってやっていっていけば、意思の疎通もスムーズになるし、シリーズ通しての作品への認識も共有できる。そうすれば自ずと「質」も守れていけるのだと思うんですね。
そんな作り方ができているなら、とりあえず僕が関わってる作品では「仕上監督」はいらないかな? と思います(笑)。
さて、「監督はモテるのか?」問題。ここで重要な発言が飛び出します。
「キャラデはモテるようですよ!」
なんと監督よりも「キャラクター・デザイン」の方がモテる! ああ、なんかわかるような気が……。となれば、「キャラデもする監督」が最強なのか? そういう方、結構いらっしゃいますよねえ? 僕の知り合い筋では追崎史敏氏あたりでしょうか? 果たしてどうなんでしょうかね? どうなんでしょ? 追崎さん!
……その辺の真相はいずれまた(笑)。
第171回へつづく
(11.08.31)