色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第174回 『輪るピングドラム』色彩設計おぼえがき その1

あけましておめでとうございます。昨年はメチャクチャ原稿落としまして申し訳ありませんでした。それもこれも『輪るピングドラム』のためでありました。そうそう『輪るピングドラム』ですよ! みなさん見てくださってましたか?
本放送は終わってしまいましたが、Blu-rayとDVDはまだまだこれから! ということで……

さてさて。
いよいよ今日から始めます! 『輪るピングドラム』色彩設計おぼえがき。密かに待っていらっしゃった方もきっといるはず! ……と思いたい。とにかく始めます。

第1話 運命のベルが鳴る 絵コンテ:幾原邦彦 演出:中村章子 色指定:辻田邦夫

まずは第1話。とにかく第1話は重要です。「こんなのをやる!」という、まず最初の提示をしっかりやらないといけません。お話、演出、作画もですが、全部ひっくるめて「画面の基本」を見せる。これが第1話の最大の重要ポイントになります。『輪るピングドラム』の場合、「画面の基本」を高倉家の居間のシーン、台所のシーンと考えました。

そもそも最初に上がってきた美術ボードが、1話冒頭のベッドと、高倉家の居間、そして台所でありました。ベッドも重要なキーになる場面なのですが、どっちかというとイメージ的に見せていきたい場所であります。やはり芝居の中心になるのは高倉家の日常の芝居。ここをシッカリと決め込んで作り上げて、見てる人たちの頭にこのビジュアルのバランスを焼きつけておくことが重要。
なので、『輪るピングドラム』のメインのキャラクターたちの色味は、この居間のBGボードの上で決め込んでいきました。
幾原監督からのオーダーは「ハッキリとした感じ」というもの。僕のイメージも同じ方向で、狙いすぎて曖昧になったり、彩度を低くして汚く見えたりしないように、と考えていたのでした。そして届けられた美術ボードの鮮やかさとすばらしい手描きの密度感。「よしっ!」とイイ感じに意気込んで色を作りはじめました。
冠葉、晶馬の髪の色、赤と青、の方向性は監督からのモノでした。一応「双子」ということになっていたので、瞳の色を揃えて同じにすることで「双子」っぽさを作ってみました。でも実はこの時点で「兄弟」「兄妹」ではあっても「実のところは……」ということだったので、イイ感じでミスリードなビジュアル、色味になればいいかな? と考えていました。
陽毬については、最初僕はもっと黒髪風とか濃茶とかの髪に病弱な肌の白さを考えていたのですが、監督から「もっとはかない感じとか……」という話になって、髪は薄く、さらには髪の主線を明るく薄い茶色へと修正を加えていきました。明るくはかない感じの肌、髪、白を基調にしたブラウスに鮮やかな水色のスカート。この水色、もう少し渋めでもいいかと考えていたのですが、これも監督から「ギリギリまで」鮮やかさを要求されてあのバランスに。水色系はともすればHDの画面では激しく発色してしまいがちなので、ずいぶん神経使う色味なのであります。そしてブーツ。
このブーツがまた一苦労。ムートンな感じのブーツのイメージは最初から不動であったんですが、ブーツの色に対して基本の主線の色味ではやはり輪郭線が強くなりすぎてしまって「美しくない」バランスになってしまいました。なので結果、ブーツについても主線の色を明るくすることにしちゃったのでした。髪(眉)に加えてブーツの主線も色トレス。これ、彩色作業では結構手間がかかっちゃうんですよ。確かに大変にはなっちゃうんですが、このいいバランスは譲れないところ。なので決断して、この色トレスで行くことにしました。

だいたいの色味のバランスが決まっていったところで「辻田くん、ちょっと相談が……」と幾原監督。「瞳の感じをね、もうちょっと星野さんっぽくできないかなあ」と。今回キャラクターの原案をお願いしているが星野リリィさんなのですが、星野さんの描かれるカラーのイラストのフンイキを本編のビジュアルに乗せられないか、という相談です。星野さんの描かれる瞳は黒目がちでいて深くにじんだ美しさ、色っぽさがあるのです。僕もそれは意識してはいたのですが、西位さんのアニメ用のキャラ作画のディティールだけだとなかなか上手くいきません。かと言って作画自体をこれ以上に複雑にして細かい塗り分けやハイライトを足していったところで、キャラクターの作画がぶれると痛い結果になりそうなのでした。
で、どうするか。最初に決めたモノより若干締めて濃いめにして、その上でさらにもうひと処理。瞳の瞳孔部分の色を使って、上方向へと段々濃くなるように瞳にグラデーションのブラシを追加。これを撮影さんにお願いして乗せてもらうことにしました。折衷案としてこんな感じでまとめたのでありました。メインのキャラクターには一律この処理を足してもらうことに。当然カットによってはさらに工夫が重なります。
だいたいこんな感じでキャラクターが決め込まれていきました。

そうそうペンギン(笑)。もうね、ペンギンはやはりあの色ですね(笑)。一応黒っぽい色のものも作ってはみたのですが、やはりイマイチ。その昔サントリーのCM展開で「ペンギン’sバー」ってのがあって、そのペンギンたちがこんな青だったんですね。その色のイメージがどうやら僕や幾原監督にもすり込まれちゃってるようなのであります(笑)。ちなみにその最初試しに作ってみた黒っぽいペンギンの色は、後にエスメラルダに受け継がれます。

そんなこんなで第1話、本編のお話。
先にも書きましたが、「こんなのをやる!」という「画面の基本」を提示する回です。今後2クール(全24話)に渡って展開していくお話の、重要なビジュアルを最初の回で印象づけられればと考えました。ですので、1話は基本「ノーマル」な色味のシーンを多めに配していくこと。また今後ずっと登場していく重要なシーン(特殊彩色シーン)をポイントポイントでシッカリ見せる。この2点がまず重要でした。
よって基本の「高倉家居間」をはじめ、地下鉄車内、水族館、お土産ショップなどは「ノーマル色」でシッカリ見せてます。一方、病院の診察室のブルーっぽいシーンや陽毬が息をひきとるシーン、そして霊安室の強い夕景のシーンなども、シッカリと印象強く残るように色味を作ってあります。とにかく、画面のテンポ、メリハリです。時間帯による明度変化や陰りは1話ではできるだけやらないつもりでしたが、さすがに雨のシーンは背景に合わせて明度の調整をかけてます。
僕のシリーズ通しての設計のプランとしては、前半1クールは割と画面が自然に見えるような色彩設計を積んでいって、中盤、お話が大きく動き始めてから、あれこれとトリッキーな色使いを配していこうと考えていました。なんせ2クール。まずはお話がスムーズに見てくれる人の中に入っていくような画面バランスを作ることが肝心でした。
まあ、とにかく第1話はドキドキです。とにかく楽しい。これからどんな風にしていこうか? とか、ああ、こういう風な作画になるのか! とか、色指定の打ち込みも彩色上がりの検査作業も楽しくて仕方ありません。そうそう、1話の小ネタとしては、2号に届けられた定期入れ、あれの色は僕が実際に使ってる定期入れです(笑)。あの定期入れとSuica定期で三鷹のブレインズベースさんまで通っておりました(笑)。自分で色指定やると、こういうお楽しみもできて楽しいですね。自己満足ですが(笑)。
それにしてもなあ、まさかあの2人の少年がなあ……(苦笑)。あれはその場の勢いで決めちゃった色でして、最初からわかってたらもうちょっと慎重に決め込んだのに(苦笑)。

記録によればこの1話の美術打ち合わせは、一昨年(2010年)の11月末にやってます。放映開始が翌年の夏ですから、まあ半年前。でも実はこの時点では、絵コンテ完成していなかったんですな。あ、いや、一応できてたのか? いずれにしても、一部、打ち合わせができませんでした。そう、それはあのBANKシーン、プリンセス・オブ・クリスタルの登場するあのシーンでありました。

第175回へつづく

(12.01.10)