色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第175回 『輪るピングドラム』色彩設計おぼえがき その2

九州に来ております。とある新作の取材、ロケハンです。長崎、熊本、そして今日は鹿児島です。そんなわけで、この原稿、なんと鹿児島駅前の某所でコーヒーおかわりしながら仕上げております。
東京人の僕には九州っていうとなんか南国なイメージがあるのですが、沖縄と違って九州は、実は緯度的には東京とそんなに変わってないんですよね。で、まあ、普通に寒いわけです。なんと阿蘇で僕らいきなり雪に見舞われてしまいました(笑)。
もうね、一面の銀世界! もはや、絵面は北海道です(笑)。
そんな感じで昨日まではちょっと残念な天気だったのですが、今朝は鹿児島、スッキリ晴れていい天気の予感。さあ今日も一日、頑張って取材であります。

さてさて。
BANKシーン「クリスタルワールド」が実際に作業INしたのは年が明けてからになりました。
まず時間がかかったのは陽毬の女王様姿、通称「プリンセス・オブ・クリスタル」の衣装でありました。キャラクターの原案自体は星野リリィさんからいただいていて、例の「ペンギン帽」などは早い時期にOK出して作画も進んでいたワケなのですが、問題はこの「女王様」姿の色でした。
あの「ペンギン帽」をかぶっての立ち姿。やはり黒ベース、そしてハッキリとした赤を使うというイメージは幾原監督と僕の共通のイメージであったのですが、その線でいざ着彩してみると、あれ? 何かに似ています(汗)。

「ああ、ドロンジョさま!(爆)」

そこから延々悩みスパイラルに(笑)。スーツ、スカートにハイライトの作画を足したり、マフラーの色、塗り分けを工夫してみたり。でもやはり黒と赤をベースにしている時点でどうしてもそのイメージは残ります。で、結局「ま、いいか」と(笑)。
袖やスカートの前から後ろにかけてのフリルっぽいデザインをすべて色トレス仕上げにしてフワッとしたボリューム感を足して、なんとかまとめ切りました。
BANKシーンは通常の作画カットと3Dのハイブリッド。「プリンセス」などキャラクターが登場して芝居する部分は作画になるのですが、テディベアが入ってる「かご」やいくつかのカットのテディベア(白い方)は3DCGです。テディベアは中村章子さんが、「ロケット」や「えんぴつけずり」「かご」のデザインは柴田勝紀くんが担当。作画で起こしたデザインに僕が色を考えて(テディベアは白黒共に基本の色味案は章子さん)着色。それをもとに3Dの造形と動きを町田政彌氏が担当してくれました。そのデモに僕がさらなる色味の修正を加えて行きました。
監督からは「黒っぽい空間を抜けて、その先テディベアとプリンセス出てきてから空間は白っぽい空間」というイメージの打ち合わせだけがあって、じゃあ、というコトでとりあえず具体的な色は僕の方で見本作って出していきます。

改札口を抜け、宇宙空間(?)を突き進んでいって見えてくる、現場での通称「陽毬の星」。この中から発進して行くロケットは、暗い空間を疾走していくので白っぽくしようと考えていました。なんとなくアポロ宇宙船なイメージに。
「陽毬の星」、回転する枠は作画、中心の光芒は美術さんからの素材です。手前に向けて飛んでくる星は動きのあたりのみを作画で作ってます。
暗い空間を突き破って真っ白な空間に突入してからの「えんぴつけずり」や「かご」はハッキリとしたピンクで行こうと考えました。ピンク+金属的ギミックのパーツは金色、それにあわせてエメラルドグリーンをガラスに配してます。で、そのなかから白いテディベアがドーン! バーン! と飛び出してくるイメージ。
まずはこの「えんぴつけずり」「かご」あたりの3Dが先行して形になりました。ついで他のカット、全体の作業になっていきます。
テディベアが登場してからあと、プリンセスも「掛け合い」の相手になるキャラクター(#1では冠葉&晶馬)たちも、その色味はしっかり見せたいと考えていました。ですので基本「ノーマル」の色指定そのままで行ければとは考えていたのですが、バックの空間の決め込みが遅れていたのでなかなか最後までどうするか迷っていたりしました。
バックの空間は、越阪部さんが作ってくれた「ギア」状のものや「モノグラムアイコン」「路線図」などを使ってイメージ無限の空間を作ることになっていましたが、その組み上げは撮影さんにお願いすることになっていました。そしてできあがって空間を最終的に僕が色彩の調整、決め込みをすることになっていたので、まあ撮影さん待ちではあったのです。

BANKシーン、オープニングとエンディングを除いた第1話がほぼ完成したのが5月はじめ。BANKシーンは作画も遅れていて、本格的な作業は5月、6月になっていきます。BANKシーンの撮影はグラフィニカさんにお願いすることになりまして、最初の撮影打ち合わせが行われたのが、なんと放送1ヶ月前という綱渡りでありました。監督、章子さん、山崎さん、そして僕でグラフィニカさんにうかがって打ち合わせ。なんとかイメージを伝えようと、監督が立ち上がって身振り手振りを交えつつ、かなりの長い時間かけての打ち合わせでありました。
打ち合わせから数日で追加の3D関係のパーツがグラフィニカさんの3Dチームから上がり始めました。テディベアの股間から股間への「階段」とか。粗体で上がってきたものに僕の方で色をつけて3Dチームに戻しました。これももちろんピンクベース。作画で作業してたロケットなども彩色が上がり、まとめて撮影さんに渡していきます。こんな感じで素材を撮影入れしていきまして、あとは撮影上がりを待つわけです。
最初の打ち合わせから2週間後、BANKシーンの通してのラッシュが上がり再びグラフィニカさんへ。そして見せていただいたラッシュの上がりに、監督をはじめ僕ら一同まったくもって度肝を抜かされたのでありました! すばらしい! 僕らが思い描いていた何倍ものスケールでBANKシーンは組み上げられ、作り込まれ、煌びやかで美しい映像に仕上がっておりました。
動きのあたりをダミー素材で渡してあった部分には七色の星の光と残像が施され、ロケットが突き進む空間には美術素材の雪氷の結晶。そしてクリスタルの空間には越阪部さん作のアイコンや路線図が美しく動いておりました。もはや僕が色調の補正をする余地もないすばらしい画面です。グラフィニカさんのチーム力、そして撮影監督の荻原猛夫氏の感性の炸裂でありました。
いくつかの点のみ追加指示や手直しをお願いし、さらに数日後再チェック。その帰りがけエレベーターの中での幾原監督、「いやあ、これはイケるかも。当たるかもしれない(笑)」と一瞬嬉しそうな笑顔を見せたのが印象的でありました。

しかしながらまだまだ僕らには大きな難題が。そう、オープニングとエンディングの問題が残っていたのです。

第176回へつづく

(12.01.17)