色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第177回 『輪るピングドラム』色彩設計おぼえがき その4

いよいよ春に向けて各社いろんな作品が動いておりまして、こんな僕も4月スタートの作品にいくつか声をかけていただけました。で、その1本が先日発表になりました。『聖闘士星矢Ω』。もうね、オリジナルの新作TVシリーズであります。
実は去年「星矢やる」というウワサが流れてきた時にはまるで他人事であったんですが、なんと僕にお話が来まして、正直ビックリでありました。それでも、もしリメイク作品だったらお断りしようかと考えてたんですが、新しいお話、しかもオリジナルということ。それならばお手伝いしたい、と考えたのでありました。
それにしても、みんな新しいスタッフ! なんと最初のシリーズからのスタッフは僕1人になってしまいました!(笑)
で、大変です(笑)。なんといっても4月オンエア! ああ、時間があ……。
でも、とにかく頑張ります! よろしくお願いいたします!

さてさて。

第2話 危険な生存戦略 絵コンテ・演出/山郫みつえ 色指定/大塚奈津子
第3話 そして華麗に私を食べて… 絵コンテ・演出/柴田勝紀 色指定/秋元由紀

プリクリさま降臨で「ピングドラム」の手がかりとなる荻野目苹果を追うことになる高倉兄妹。ペンギンたちを遠隔操作し苹果の尾行、身辺調査を進めていくが、苹果がなんと高倉兄妹の担任教師・多蕗と接触。しかもあろう事か多蕗の住むアパートの部屋の床下へ。なんと苹果は多蕗のストーカーであったことが判明する。そんな2話。
苹果の留守をねらって荻野目家に潜入した高倉兄弟。そこへ予定外に早く帰宅する苹果。毎月20日はカレーの日、とカレーを作って多蕗の部屋を訪れる苹果だったが、なんとそこには美しい女性がカレーを作って多蕗の帰りを待っていた。自分のカレーに鍋ごとすり替えた苹果だったが、帰り道、不運な事故で頭から鍋いっぱいのカレーをかぶるという惨事に。そして帰宅した高倉兄弟の前に陽毬に助けられた苹果が食卓を囲んでいるのであった。そんな3話。

時間をグッと戻して時は2011年2月。本来の予定よりだいぶ遅れつつ2話の作業INです。記録によれば2話の美術打ちあわせは2月の初旬でありました。当初の目論見では放送開始時点で8本の「貯金」を作って……と言うことでしたが、実際にはその半分の4本でありました。
2話3話はまだまだ物語の最初の設定を並行して作り込んでいる時期でもありました。
まずは学生服。本編中、冠葉・晶馬は学生服でいることが多いのですが、その学生服のデザインは決定に至るまでが、なかなか紆余曲折でありました。
胸のエンブレムとかは星野さんのキャラ原案からあったのですが、当初のデザインでは襟の赤いラインの塗り分けはなく、割と普通なシルエットのブレザーでありました。ブレザー自体の作画上の影つけも同時に探っていて、普通にノーマル/影の作画にするのか、あるいはハイライト/ノーマルにするのか。ブレザー自体の色味がやはり黒っぽいモノになるので、作画で影をつけてもそれほど効果はないんじゃないのか? ということになり、ハイライト作画あり影ナシというコトになっていきます。そして本編作業に入ってさらに変更。当初赤ラインにもハイライトの塗り分けをつけたんですが「なんかうるさいよね」ってコトになって、2話の本編作業中に変更になりました。

ブレザーの色を決め込む時に結構やっかいだったのがキャラクターの主線(輪郭線)の色の問題。『輪るピングドラム』では、基本の主線色はRGB:33.33.36という色データで作業しておりました。おおむね黒、というか濃いグレーですね。ちなみに、彩色時の黒(BL)はRGB:8.8.8に設定してあります。逆に白目の色はRGB:240.240.240です。実はその昔、東映時代に東映作品の主線色をRGB:33.24.32のチャコールグレイに定めたのは僕なのですが(現在もそのまま使われてますね。『プリキュア』とかもそのハズです)、当初『輪るピングドラム』もその主線色で行こうかと考えてたんです。ところが、冠葉の髪との相性はいいけど、青い晶馬の髪とはイマイチだったり、陽毬や苹果の肌のバランスに対して強すぎたり、といろいろ気になり出しまして、考えた末に33.33.36に設定してみたのです。
この主線色、実はこの手のアニメの主線色としては若干明るい部類です。他の作品を見てると、3.3.3とかあったりしてビックリですが……。なので面積比的に白っぽく浮いて見えがちだったりしています。が、あえてこの濃度で断行したのは、やはり肌とのなじみ具合でありました。そして、ブレザーの塗り色との相性。埋もれすぎず主張しすぎず、いいバランスになったと思います。もちろん背景美術とのマッチングも重要であります。この問題も非常にいいおさまり具合になったかと思います。

そうそう、制服の話。ズボンを赤くする、というのはかなり最初の段階から幾原監督が案として出してきてて、その方向は問題なかったんですが、幾原監督、そのズボンの赤の彩度をやたらと高くしたがって、最終的には「それはやり過ぎ!」ってことで僕がストップかけて現在のバランスに落ち着きました。
ズボンと言えば、冠葉・晶馬の私服のカラーデザインの話ですが、冠葉の私服のズボンは何となくカラージーンズなイメージだったのですよ。で、その色を作ってるその日、幾原監督がスタジオに履いてきたのがまさにあの冠葉の私服のズボンの色。「いただきっ!」ってことでそのまま使わせていただきました(笑)。色味チェックの時、ネタばらししたんですが、監督はまんざらでもなかったご様子(笑)。なので、冠葉のズボン=監督の私服なのであります。
苹果のセーラー服は難しかった記憶があります。正直、どんな色持ってきても、絶対どこかで誰かがやってるんですよね。きっと何かに似てしまう、そんな宿命がセーラー服にはあります。で、苹果のあの緑ですが、あれは決め込みで行き詰まってた時に、幾原監督だったか西位さんだったかが「緑は?」とヒントくれて、それであんな感じにまとまったのでありました。最初は水色とか試していたんですよ。でもあの明るい緑は大ヒット。なんとも青リンゴな感じで、彼女の印象を決定づけるいい色になりました。
2話での苹果のクラスメートの2人は、セーラー服が決まった時点で即イメージできあがりました。雪菜ははじめから僕の中で顔グロ系と決めてあって、実際にみんなに見てもらったら大絶賛でありました。ただ、登場シーンが少なかったのがつくづく残念(笑)。

さて2話。そして3話。
両方の話数共に、別段特殊なコトはせずに、努めて普通に、芝居上の時間経過、背景にあわせたシーンごとの色彩設計を丁寧にやっていく、という回でありました。1話の時にも書きましたが、シリーズ通しての設計のプランとしては、中盤、お話が大きく動くまでは、できる限り画面が自然に見えるようなに色彩設計を積んでいくと決めていたので、割と淡々と作った印象です。とりわけ、1話のあのインパクトを受けての2話は、とかくなにかやりたくなっちゃうんだけど、あえてジックリと「普通」に作り上げる、まとめあげるコトが重要と考えておりました。もっともお話自体は、あのテンションですから最初からおもしろかったワケですし。ですので、基本、それぞれのシーンでの美術にあわせた特殊彩色を丁寧に積んでいきました。シーン単位はもとより、場面によってはカットごとに微妙に変えたりとかやっておりました。僕自身はそんなに細かいとは思ってなかったんですがね……。
3話のクライマックスはやはりあの夕景とカレー(笑)。あの濃ゆいオレンジ色の夕景は「北斗の拳」な感じで! というオーダーがあって、なので美術も色彩もまんまあんな感じ狙っていきました。ただ、あのテンションで陽毬側は無理があるので(笑)、その切り替えをどんなふうにできるのかがポイントでした。

第2話の色指定担当は大塚奈津子さん。僕の前作『四畳半神話大系』に引き続き、今作も色指定で参加していただきました。ちなみに3話は秋元由紀さん。彼女も同じく『四畳半神話大系』に続いての参加です。もうね、僕には最高の布陣です。そこに僕が加わっての原則色指定3人体制で『輪るピングドラム』は進めていく予定でありました。これが今作の「色チーム」であります。グロス制作回が2回入ったため最終的には色指定さんはあと2人増えましたが、あくまでもこの少数精鋭チームで回していきました。
「可能な限り、少ないスタッフでキッチリ廻していく」ということは、実はTVシリーズ、特に連続ものでは重要な点になります。
少ないメンバーの利点は、まず内容の説明が楽(笑)。毎回新しい色指定さんだと、その都度作品内容の説明から処理や禁止事項の説明やらそれだけでたいへんで、しかも結構ヌケ落ちがあったりしちゃうのです。ついで自分の担当する話数が多くなり、内容に集中できる。今回も自分の担当話数以外の分の絵コンテもみんな目を通してもらって、内容の流れを熟知していただきました。これが2本に1本とかがずっと続いちゃうと、これまた昨今のTV作品の短期決戦スケジュールでは疲弊しちゃったりなんですが。こうして集中して参加してもらえると、それぞれの中にも次の話数への課題みたいなものを持ってもらえて、僕が考えてる以上にいろんな事を考えて色を作ってくれて、そういう点でもよい方法だと思います。
そしてなんと言っても、僕のやり方を熟知してくれているということ(笑)。これ重要で、特にこういうクセのある作品の時には、僕の傾向とか分かってくれてるメンバーがとってもありがたいのです。

さて、そんな2話、3話。午前中に始まった3話の美術打ち合わせが終わって、遅めの昼食をとっていた時に、それは起こったのでありました。東日本大震災。3月11日でありました。 その日から僕らの現場も大きく影響を受けていくことになっていったのでありました。

第178回へつづく

(12.02.08)