色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第179回 『輪るピングドラム』色彩設計おぼえがき その6

今月あちこちで『輪るピングドラム』とか『聖闘士星矢』とかの取材を受けまして、インタビューなんてのを何回か。いやあ、基本しゃべりたがりな体質なようで、ついつい一所懸命サービス精神旺盛にしゃべり倒してしまってます。いやはや(笑)。
まだ若い頃はかっこつけて渋く、自分のキャラを見せたいみたいに考えてたりもしてたんですが、最近はそんなことも思いもせず(笑)。もうね、皆さんが喜んでくれるなら、できることは何でもしますよ的なスタンスです(笑)。
ま、このコラムもそんな感じになってますね(笑)
忙しさに押されて結構ズルズル遅れがちではありますが、がんばってガシガシ書いていこうと思ってます。

さてさて。

第4話 舞い落ちる姫君 絵コンテ・演出/金子伸吾 色指定/辻田邦夫

ストーカーを続ける苹果、今日は多蕗に誘われて公園に野鳥観察に出かけることに。それについていく晶馬。ところがスカンクの出現やらカラスに弁当を食い荒らされるやらで、日記に書かれているような展開に持ち込めずいらだつ苹果。これがピングドラム? と、そんな日記を盗み見る晶馬。そして現れた時籠ゆり。ゆりが多蕗の婚約者であると知らされ傷心の苹果は最終手段で池に。溺れた苹果を助けたのは晶馬であったが、望みどおり多蕗とキスできたと思っている苹果であった。一方、赤坂見附駅では九宝阿佐美がエスカレーターから何者かに突き落とされていた。そんな4話。

『輪るピングドラム』での制作の打ち合わせの大まかな流れはこんな感じでありました。まずシナリオがあがって絵コンテの作業IN。絵コンテ担当者と幾原監督とのマンツーマンの「コンテ合宿」を経て絵コンテが完成。絵コンテ完成後、間を空けずにすぐさま「演出打ち合わせ」。ここでは幾原監督を中心にその話の担当演出、チーフ演出の中村章子さん、助監督の山崎みつえさん、そして僕とで(必要に応じて撮影監督や作画監督も参加)、シーンひとつひとつについて、どんな画面にするのか、あるいは絵コンテはこのような芝居にしたが果たしてコレで大丈夫なのか? というところまで、手法などについての確認をしていきます。毎回ここで活発な意見交換があって、ほぼこの打ち合わせで毎話の方針が決まっていきます。で、この打ち合わせでどのシーンは美術ボードの発注が必要かが決まり、優先でレイアウトを上げてもらうカットを決定していき、時にはキャラクターなどの追加設定も発注になります。
この「演出打ち合わせ」を経てそれぞれ原画さんとの作画打ちあわせ。そして優先レイアウトが上がったところで「美術ボード打ち合わせ」。美術の秋山さん中村千恵子さんと、話数担当の演出さん、山崎さん、章子さん、そして僕。ここで美術ボードの発注をします。合わせて先の話数の美術設定の打ち合わせも。そして約1週後に「美術打ちあわせ」。実際のお話の個々のシーン、カットの美術についての打ち合わせです。話数担当の演出さん、山崎さん、章子さん、美術監督のお2人に担当の美術の方、そして僕とその話担当の色指定さん。
美術ボードが上がってきたところで監督以下みんなでチェック。OKになったボードに僕がキャラクターを乗せてシーンごとの色彩の設計を組んで、担当演出、山崎さん、章子さんにOKもらったら僕が色指定香盤表を書き、それをもとに色指定さんと「色指定打ち合わせ」。そしてそのあとで「撮影打ちあわせ」。撮影監督さん(7話以降は3Dさん特殊効果さんも参加)と話数担当の演出さん、山崎さん、章子さん、そして僕が参加です。
こうしてひととおりの打ち合わせを積んで、ラッシュが上がり、編集、アフレコ……と続いていきます。
僕はこんな感じで絵コンテ完成から撮影打ちあわせまでの広範囲にわたって打ち合わせに参加。かなり積極的に意見を言わせていただいて画面作りに関わらせていただきました。他の色彩設計さんがどのようにお仕事されているのか、実はあんまりよく知らないのですが、だいたいにおいて今回の僕の守備範囲は「画面全般」でありました。できるだけ最初の工程から参加することで全般をさらに見渡せて、僕の持ってるアイデアもたくさん反映させてもらっていったのであります。

で、4話。
「あの『パトレイバー』の短編『ミニパト』だっけ? でやってたパタパタしてるヤツ。あんなのを」と演出の金子氏。演出打ち合わせでの話です。割り箸に裏表絵を描いた紙貼って、それを舞台下で人が手で持って動かしてるパタパタ人形劇みたいなあんなヤツ。それを本編中、苹果の妄想シーンでやろうというわけです。すでに絵コンテはそんな感じに上がってます。まあ当然、割り箸はナシですが、作画はいわゆる「原撮」(原画だけを撮影するもの)みたいなもので、キャラの周りに白フチをつけて「紙に描いてる感」を出して、それを撮影でパタパタくるくると動画を使わず動かします。背景の上にドロップシャドウの影を落としてチープな舞台っぽさを出そうということになりました。これ、作画と彩色はラクだろうけど、とにかく撮影が大変っぽい。なので、確かこの時の演出打ち合わせには4話の撮影の大山さんも参加してもらって意見聞いた気が。一瞬ひるんだ大山さんでしたが「まあやってみます!」。
これでかなりフンイキはできそうだったんですが、問題は背景。美術をどうしようか? というコトに。通常の背景空間となにかフンイキが違ってた方がいいのではないか? 人形劇風、舞台風に見せるにはと、そこで美術さんと相談です。背景の描き方を舞台の描き割り風な感じを意識して作っていただいて、さらに背景に紙っぽいテクスチャーをのせてもらいました。これで通常の背景空間との差別化ができました。でもまだもうひとつ何か欲しい、ってことで、妄想シーン全体に「額縁」をつけることに。これは章子さんがデザインして描いてくれて僕が塗って決め込みました。
こうして、白フチ付きのパタパタ作画+描き割り風背景美術+ドロップシャドウつき撮影処理と動き+額縁で「苹果妄想シーン」の世界はでき上がりました。ただひとつ問題が。この妄想シーン、最初は地下鉄の車内から始まるのです。この地下鉄、すべて3Dで組み上げていて、そのためあまり自由が効きそうもなかったのです。かといって、妄想シーン分の地下鉄をすべて背景描きにしてしまうとちょっと違いすぎるのではないかと。あくまでも地下鉄は3Dのキチッとした感じがよい、と、幾原監督。じゃあ、とりあえず、車内の色を3DBG(3Dモデリングで組んだ背景のことを僕らは便宜上こう呼んでます)の輪郭線も含めて色を変えてしまおうか? と考えて、ピンクな輪郭線とピンクトーンな感じに全体に色を変えてみたのですが、ううむ、どうにもイマイチ。あんまり変わったように見えないのですね。で、美術さんに相談したところ、車内の壁、床に花柄テクスチャーを施したサンプルを作ってきてくれたのです。「おお! いいかも!」と一同即OK。撮影さんに確認したところ「なんとかできそう」とのことであの「花柄妄想地下鉄」ができ上がったのでありました。

ただ、それがあとあとやっかいなことに。実はその花柄地下鉄、撮影時のレンダリングにメチャメチャ時間がかかってしまったのです。これはある程度は想像してたんですが、僕らの想像を遥かに超えて時間がかかっちゃいまして、よって原板のスケジュールを延ばさなければならない事態に。でも幸いまだ放送開始前の5月だったのでなんとかなったワケでしたが、僕らの間では、密かに「地下鉄は要注意!」というコトに。これが後半の大変なときじゃなくってホントよかった、と、今にして思いますね(笑)。ま、地下鉄はともかく、このパタパタ演出、その後もさらにパワーアップして登場してくるとは、この時はまだ思ってもみませんでした(笑)。

それにしてもあの「KIGA」模様のスカンク。なんで「KIGA」模様?これは僕も理由が不明(笑)。かなり謎な存在でしたが、「キヨシくん」という名前はアニメーターの長谷川眞也氏の飼い猫の名前だそうであります(笑)。

第180回へつづく

(12.02.23)