第183回 『輪るピングドラム』色彩設計おぼえがき その10
お待たせしました! 再開します!
さてさて。
第8話 君の恋が嘘でも僕は
絵コンテ/中村章子 演出/福島利規 色指定/大塚奈津子
多蕗のアパートへの夜這いが空振りに終わり、引っ越したあとの空き部屋で呆然とする苹果。さらには父の再婚プロポーズを目撃してしまう。打ちひしがれた想いは多蕗へと向けられ、引越祝いのケーキを携えて多蕗とゆりの新居へと向かう。そのケーキに仕込まれていた睡眠薬で多蕗を眠らせた苹果は逆に多蕗を襲おうとする。そんな8話。
8話では再びあのパタパタアニメ(っていうのか?(笑))が登場。今度はウエスタン風であります。前回4話とは撮影さんが替わってるのでどうかな? とか思いましたが、いやいやさすが! 今回は画面を西部劇映画風にしてありまして、画面内にシネスコ風のフレーム設定しました。そもそもの画面のアスペクト比が16:9なので、それよりもやや上下を切る感じの画面のおさまりは結構気持ちよかったです。そして映画画面内のロゴ関係は越阪部さんの作であります。
多蕗とゆりの新居である赤坂見附の高級マンション、「女優っていったいどんなとこに住むんだろう?」って話になって、なんだかんだ妄想を膨らませていきまして、あんな感じの天井の高いだだっ広い空間に(笑)。内装と家具(ソファ)に赤と黒を使っていったら、「ドンファン(「ピンドラ」でお世話になってる音響スタジオ)みたいだ(笑)」と。僕は行ったことがなかったので「ふ〜ん」とか思ってましたが、その直後ust番組「こっそりピングドラム」に呼んでいただきまして(収録場所がそのドンファンの中の一室でした)、「あ〜、なるほど!」と。「あ! ひょっとして、音響がこのスタジオに決まったのはそのせい?」という疑念が生まれるほど(笑)の幾原監督好みの赤と黒の配色の内装でありました。
「晶馬がピカピカの床をツーッと滑る芝居がやりたい」ということで、当初室内ではスリッパはナシ、ということになりかけたのですが、「こういうお宅では普通スリッパ履くよねえ?」とか「引っ越してすぐってことで履いてなくってもいいんじゃないか?」とか、演打ちで話題に。結局やはり「スリッパはアリ」で、多蕗と苹果にはスリッパ。晶馬だけスリッパなしになりました(笑)。
8話のひとつの課題は「見せない」ということ。冒頭の全裸の苹果に始まり、後半の多蕗を襲うシーン、あんまり露骨に裸を見せたくない、という考えがありました。確かに深夜アニメではあるし、まあある程度は見せちゃってもTV局からどうこうといわれることもないのは分かっていましたが、それでも何となく裸をダイレクトに見せちゃうのは抵抗があったのでした。で、可能な限り見せない、と。作画自体は極力普通に描いてもらって、いずれにしても夜のシーンだったので、それを色で夜色〜シルエットっぽくしていきました。
ただ、完成して放送された画面を見て、こちらが想定していた以上に放送画面では暗くなってしまっていて、まあ、明るさ的にはギリギリ見える感じ? う〜む、落としすぎたか……。ちょっと残念なバランスの画面に仕上がってしまいました。キャラ自体もう少し明るめに設計してあっても、画面的にはなんとか「見せない」感じにできたのではないか? いろいろ反省です。
さて、8話での僕的にイチバンの見どころは非常階段での苹果と晶馬の会話のシーン、そしてそれに続くラスト、日記が強奪されて晶馬が轢かれてしまうまでの一連のシーンです。
ここは作画(影つけ、表情)と、美術(シットリとした雨のフンイキ)、撮影(雨と少し煙った感じ)、そして色がいい感じにマッチして、会話の内容の不安な感じ、緊張感、そして苹果と晶馬の生い立ちの「影」を上手く表現できたなあと。そして、迫り来るヘッドライトに照らし出された苹果と晶馬のアップの色味は色指定の大塚さんの仕事。8話の衝撃的ラストに見事な色を作ってくれました。
ちなみに「2号忘れてたよ! どうしよう?」ってことで、一応一緒に車に吹っ飛ばされた、ということに(笑)。
第184回へつづく
(12.06.12)