色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第185回 『輪るピングドラム』色彩設計おぼえがき その12

最近、ようやく(ようやく!)体重を気にかけるようになりまして、毎朝ちゃんと体重計に乗るようにしています。この文章を書いてる今朝は81.2キロ。ここに来て若干増えました。先日の中華料理の宴のせいか、プラス1キロ。そういえば先月、1週間に3日焼肉だったときも一気に2〜3キロ増えてビックリでしたが(笑)。でもまあなんとか80キロまで押さえ込んでます。
ちなみに、僕の身長をベースに算出した標準体重の目安で行くと、あと10キロは減量が必要です(笑)。
僕らの仕事は長時間座りっぱなしが多いので、ちょっと油断してるとすぐに体重が増えちゃうんですよ。外食が多いのも原因のひとつ。最近はスタジオでの食事の中心をパン食+牛乳にシフト。出来るだけ脂っこいモノは避けるようにコントロール。これでだいぶ落ち着いてます。目指せ! 夢の70キロ台!
でもねえ、ストレス溜まってくると、無性に脂っこいモノが食べたくなるんですよねえ(苦笑)。

さてさて。

第10話 「だって好きだから」 絵コンテ・演出・作画監督/後藤圭二 色指定/秋元由紀

自動車事故で病院に運び込まれた晶馬が何者かに拉致され、身柄と引き替えに苹果の手元に残った半分の日記を要求される。ニセの日記を手に犯人と対峙した冠葉は、犯人を追って病院内の謎の空間に脚を踏み入れる。一方苹果は犯人にホンモノの日記を要求され、結局手放してしまう。そんな10話。

第10話は後藤圭二氏が絵コンテ、演出、原画、そして作画監督を1人で担当した1本であります。スタッフルームの一番奥の席でコツコツと1人で描き上げた1本です。
このあとの物語の大事な舞台のひとつとなっていく「東鴎総合病院」、この話から登場ですが、第9話の武内宣之氏がデザイン担当しております。冠葉がさまよい込んでいく内部の謎な空間のビジュアルとかはすべて武内氏担当でした。外観のモチーフはパリにあるポンピドゥー・センターという実在の建物。それを参考にして上手く特異なフンイキにアレンジして作り上げています。
実は「輪るピングドラム」では、至るところで実在の建物のデザインを参考にさせてもらっております。美術設定の打ち合わせでは幾度となく分厚い世界の建築デザインの写真集や、アール・デコの写真集が引っ張り出され、そのページをめくりながらとか、ネットで検索した画像を見ながらとか。意外な場面で意外な建築物が参考になってたり。なので毎話、美術さんから背景が上がってくるのが楽しみでありました。
ちなみに背景の上がりのチェックはほぼ全話、担当演出とチーフ演出の中村さんと僕とでさせてもらっておりました。演出打ちで重要ポイントとなっていた部分のチェックはもちろん幾原監督、山崎助監督も同席。スタジオ内では僕の作業用モニターが画面の明るさと色味の基準になっていて、深夜僕の机、モニターを囲んでのチェックでありました。もちろん、美術ボードのチェックも同様。その時には美術さんも交えて、僕の机周りで画面見ながら、ああだこうだと打ち合わせになります。
背景の上がりのタイミングが深夜0時前後になると終電車に間に合わないこともしばしば。とりわけシリーズの後半ではかなりの確率で終電車を逃し朝まで仕事、という流れでありました(笑)。
で、そんな東鴎総合病院ですが、この10話では「外観の全体像はまだ見せないでおく」ということになりまして、絵コンテ上で工夫して建物の上部とか病室の外観とか駐車場とか部分的にのみ見せています。
そして「全体像はまだみせないで」おいたキャラクターが1人登場。駐車場で日記を拾って去って行く人影、そう、連雀さんもこの回初登場でありました。ですがまだシルエット。実はこの人影、この話の制作の中盤までは「夏芽家の老執事」ってことで男性だったのです。それが急遽16話で「連雀さん」の登場が決まり、急遽デザインを起こすことに。となれば「この時の人物は連雀だよね、きっと」ということで、2カットを連雀さんに描き変えたのでありました。ただし、この時はまだ連雀さんの色は決まっていなくて、日記を拾う手のアップのカットは、まあ夕景だし、なんとなくフンイキで(笑)。

さて、この10話の色彩設計ですが、やはり基本は美術の空間合わせ、時制合わせでまとめていきました。来るべき「物語の転換点」の11話、12話まではいろいろじっくりとガマン。……だったのですが、屋上のシーンで切り替わった謎の空間な病院内、ある意味現実なんだけどどこか非現実なイメージ。あの不思議な空間ではやはり視覚的に何か考えないとどうにもおさまりがつきません。で、いろいろ試してみた結果、自分的には「物語の転換点」以降用に取っておいた「イメージ的に主線の色を変える」という手を使っちゃってます。今回はそのシーンの背景に使われていた青のフンイキを拾って主線を青系に。屋上で冠葉が気がついたところから、階段を下りて地下の手術室(?)の前に至るまでのシーンで使っています。
手術室内の暗闇の暗視ゴーグルな視界は、もうね、この手のシーンでは定番の映画『羊たちの沈黙』が参考です。僕自身、もうこれが何回目? ってくらい、いろんな作品でやってます(笑)。このシーン、緑色の色変えは撮影のフィルターワークではなく、美術+彩色でちゃんと緑に作っておくことが肝心です。というのも、ノーマルに作った画面に上から緑のフィルターかけちゃうと、背景にキャラが埋もれて見えにくくなっちゃうのです。ホンモノの暗視ゴーグルだと画面はそんな風に見えるモノなのかもしれないけど、このシーンではキャラクター(冠葉)の表情や芝居がちゃんと見えないといけないので、背景の緑の色調に対してキャラクターの彩色は色相を少しずらして若干黄色な色味を加えています。で、その上から撮影でノイズなどを足してもらってあの画面はできあがってます。
そんな暗闇の芝居でのまたしてもビミョウな失敗。冠葉×真砂子のキスシーン、寄りサイズのカットでは問題なかったのですが、そのあとの引きサイズのカット、画面奥の手前の冠葉×真砂子が暗いBGに馴染みすぎてしまって、手前のエスメラルダ×1号のキスシーンばかり画面で目立ってしまいました(笑)。う〜む、暗いシーンはやはり塩梅が難しいです。

第186回へつづく

(12.06.26)