色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第186回 『輪るピングドラム』色彩設計おぼえがき その13

今年は何年かぶりで東映アニメーションさんでお仕事しています。ほぼ毎日、大泉のスタジオに通っているのですが、机を置かせてもらっているのは3階。3階までは階段で上ります。ところが、なんかおかしい。やたらとその昇りが疲れるのです。なんでだ?
で、いろいろ確認してみたんですが、ああ! 階段の段数が多いのです!
というのもこのスタジオ、各階の天井がやたらと高い。どのくらい高いかというと、作ろうと思えば各階に余裕でロフトが作れるほど。そんなワケなので3階建ての建物でありながら実は実質の高さは4階建てなのです!
普通、マンションとかの各階の間の階段の段数は13段ほど。なので3階建てならば26段。ところが大泉スタジオではそれが各階22段ずつ。3階まで上がると40段を越えて、それって普通の建物の4階に相当するわけです。
ああ、これかあ! つまり、3階のつもりで上がっている階段で、実は4階建て相当の移動のエネルギー消費を強いられてるわけ。うう〜む、恐るべし東映アニメーション大泉スタジオ!

さてさて。

第11話 「ようやく君は気がついたのさ」 絵コンテ/幾原邦彦・金子伸吾・山郫みつえ 演出/山郫みつえ 色指定/大塚奈津子

日記を奪われたことに端を発し、だんだんと関係がぎくしゃくしていく晶馬と苹果。そして「プロジェクトM」再開を決めた苹果は、再び謎の蛙のチカラを借りて多蕗を幻惑する。が、多蕗暴走! そして失敗。そこへ帰宅したゆりにも格の違いを見せつけられる。負けて帰宅したところに待っていたのは陽毬と晶馬。そのやるせない気持ちは晶馬にぶつけられるのだが……。そんな11話。

まさかのカエル回ふたたび、であります(笑)。今回のカエル、ビジュアルからもお分かりのとおりメスであります(笑)。ヒメホマレガエル。色のデザインは前回7話のタマホマレガエルのキャラにリボンと口紅つけて、多少塗り分けと色を変えてできあがり。なかなかの省力化っぷり。本編も、理科室のカット割り、というかカット自体、前回使用したカットのいくつかをそのまま使うことで、見てくれてた人は「ああ、またカエルだ!(笑)」と分かってくれるので、余分なカットを積むことなくシンプルに見せてます。こういうふうに上手く過去話数のカット使い回すコトは、この『輪るピングドラム』では結構意図的にやっていて、作業の省力化にもつながり、とっても有効でありました。
カエルといえば、理科室での苹果のノートPCの蛙のWEBサイトの画面、あれはすべて特殊効果・グラフィックデザイン担当の山田可奈子さんの仕事です。こちらで用意した作画素材はカエルの画像とノートPCの作画だけ。それとコンテの芝居を元にあのPC画面作ってくれちゃったのです。いやあ、できあがってきた画面見てビックリでありました! 山田さんは他にも、このあとの話数から登場のICUのモニター画面や1号のエロ本の作り込みなどのデザイン周りの作業をお願いしてます。あ、料理のカットの特殊効果も、ほとんど山田さんです。
そして今回も夜の寝室(笑)。前回7話の失敗を踏まえて若干明るめに設計しています。ただし、あらかじめ美術ボード上で作り込んだシーン設計も実際のカットのレイアウトや作画の影のアングルや面積の違いで、だいぶ見え方が変わるのも事実。でもそれを上手く調整してくれているのが色指定さんです。その直後の寝室のドアを外から閉めてカエル多蕗を閉じ込めたあたり、緊張感とコミカルな表現の色の扱いも色指定さんが上手く作り込んでくれてます。

実はこの11話、僕のかなりのお気に入りな1本です。
「色彩設計」はお話の「色の設計図」を書く仕事である、と僕は思ってて、その設計図を片手に実際の作画に対面して画面を作ってくれるのが「色指定」だと考えます。なので、設計図どおりであればそれはそれでEvenな感じですが、それ以上に画面がイイ感じになっていくのはすべて色指定さんの力量次第。それがシックリとイイ感じに組み上がってる、そんな一本なのであります。
色指定さん自身、担当する話数に自分なりのプランを持って臨んでる方の仕事は素晴らしいです。
僕が出す「設計図」を理解して、その上で実際の作画とのバランスを調整してくれたり、時には「こんなのはどうでしょう?」と提案してくれたり、いずれも実際の作画に相対しているのは色指定さんなので、そういうふうにいろいろ考えてくれるのは嬉しいし助かります。今回メインで色指定をお願いしている大塚さん、秋元さんのお2人もそんな色指定さんです。目指すところは結局同じ「少しでもよいものにするには」というコトなのですから。

さて、帰って来た苹果と陽毬・晶馬が出会うマンション前の夜のシーンまでは、今までの『輪るピングドラム』の色遣いでありましたが、ラスト直前どど〜ん! と。そう、僕らの通称「95電車」です。あの地下鉄のビジュアルは美術の秋山氏。みんなで集まって僕のモニターでチェックだったんですが、監督はじめ僕らみんな「お〜〜〜ッ!」と声が上がりました(笑)。なんか「来たねえ!」って感じのビジュアルに心持ち興奮しちゃいました(笑)。ただ監督だけは我に戻って「大丈夫? これ(汗)」と(笑)。
ともあれショッキングなビジュアルは僕らの想像の上を行ってましたから、これに乗せて色を作るのは楽しかったです。ここで晴れて主線の色を変えていく方法を解禁。11話では95電車内、プリンセスの主線を赤系にしてます。一方、苹果と晶馬、ペンギンたちは今までどおりの黒系のまま。ここでは、プリンセスと苹果たちの立ち位置の差別化を図りたかったので、プリンセスだけ変えました。また、全体の色変えのベースは「95」の数字の赤みとリンクさせて作ってあります。こういう閉ざされた空間で特殊な色味を考える時、その空間で使われている一番目を牽く色を取り入れるのは、いつも僕が使う手です。これ、割とおさまりよく仕上がります。

とにかく「何が一体始まるんだ!?」という緊張感溢れる引きで、この11話は終わります。

第187回へつづく

(12.07.03)