色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第34回 昔々……(25) 『聖闘士星矢』その12 そして15年「聖闘士星矢ハーデス十二宮編」始動

2週に渡って放映されました『金田一少年の事件簿SP』ご覧いただけましたでしょうか? その本放映のウラで、行って参りました、アニメスタイル『モノノ怪』イベント。

『モノノ怪』はTVで見てただけなんですが、監督の中村くんとはちょっとした友達だし、メインスタッフの何人かは『墓場』のスタッフでもあるし、なんと言っても色彩設計の永井さんも壇上に引っ張り上げられると聞いて、「これはひとつ応援に行かねば!」と、『モノノ怪』の色指定を担当された佐久間さんを引き連れて行ってきたのでした。こういうイベントの場に色彩設計や色指定が出るってなかなかないことなのですよ。だから“応援”(笑)。

仕事でスタジオを出るのが遅れまして、会場到着が8時頃。 会場は大入り満員で大盛況、壇上には、司会の小黒さんと中村監督以下メインのスタッフがずらり! 永井さんも向かって右端にちゃんといらっしゃいました。

イベントの方は、もうなんと言っても中村監督がしゃべるしゃべる(爆)。そもそもこの人、しゃべくりは昔から絶品なのですよ(笑)。今日も絶妙なトークで盛り上げます(笑)。

それにしても、『モノノ怪』スタッフ、ホントにいいチームワーク。修羅場を乗り切っていいものを残してきたスタッフの余裕っていうか、貫禄っていうか、それぞれのスタッフのお話に深みと自信が満ちていて、とってもいいイベントでありました。

さあ、『墓場』もがんばるぞ!(笑)

さてさて。

『聖闘士星矢』のお話の続き。

「やるよ『星矢』。『ハーデス十二宮編』決まったよ」と、製作部のエライ人。「えっ?ウソッ!」と僕。思わず出た言葉はコレでした。

時に西暦2002年初夏。確かに前年くらいから、な〜んとなくウワサはあったのだけれども、まさかホントに実現するとは。ある意味今さら『星矢』とは。

とか言いつつも、やはり気分はもの凄く盛り上がって、「やる! やりたい! 絶対やらせて!」と大きな声を上げ、激しく手を振り回してアピールして参加させていただいたのでした(笑)。

いや、正直言って、最初はちょっと臆してたんですよ。続編といいつつ、終わってから15年。時間が経ちすぎてるし、果たして誰が監督なのか? 荒木さんは描くのか? あのころのスピリットがないんなら、『星矢』というパッケージではあっても、まったくもって違ったモノになりはしないか? と。そんな不安から、最初はちょっと静観しようかな? とか思ってたのです。それくらい、僕にとって『星矢』は大事な存在ではあったのですね。

でも、そんな不安はあっけなく解消。荒木さんが描き、山内さんがチーフ・ディレクター。他にも続々あの頃のスタッフが集まっていました。キャストの方々も往年の面々で行くということ。「来たッ!」これはもう、絶対参加させてもらわなきゃ! と(笑)。

僕としては、これはもうあの劇場版『真紅の少年伝説』のリベンジだ。と、そんな気持ちがあったのも事実。

新しい風も入ってきました。「TV放映見てて、真似して遊んでましたよ!」とは、山内監督の愛弟子の演出・長峯くんのお言葉(笑)。ああ、15年だものなあ、と、思わず遠い目(苦笑)。美術には、スタジオMAOの飯島さんが参加。そして何より新しいのは、川瀬さんを中心にした東映アニメーションのCG課チームが参加したことです。

フィルム&セル画だったあの頃から15年、今や彩色〜撮影はデジタル処理の時代です。今回の『星矢』、十二宮の背景のほとんどをCG背景で組もうということになっていました。CGで十二宮のモデルを組んで場面に応じて切り出すことで、通常の画面はもとより、いままでやれなかった3D的なカメラワークも使えるのでは、と考えたのです。加えて、星矢たち聖闘士が繰り出す数々のワザも、CGを駆使してより立体的に見せられるのでは、と考えました。

さて、いよいよ荒木さんの描いた設定が上がってきました。今回の敵は冥界のサープリス(冥闘士)と冥衣を着て復活した黄金聖闘士たち。まずはその色を考えねばなりません。今回はスポンサーの玩具メーカーの縛りがないので、「まずは自由に考えてみてくれ」と監督。なので、原作にあるカラーを参考にしつつ、基本は黒〜グレー〜紫でアニメーション版星矢的ボリューム感を狙って決め込んでいきました。

生き返った黄金聖闘士たちがまとう冥衣と、そもそもの冥闘士であるラダマンティスたちの冥衣との間に色味で差をつけて区別しつつ、両者を併せた冥衣全体、冥闘士全体としてのまとまりを作らなければなりません。なので共通項として、塗り分けの中で「必ず使う色」を1色設定して色を組み立て、加えて冥闘士たちの白目の色に、生者である星矢たちとの差別化のため、少し浅い緑を加えてみました。

そして車田先生のチェック。結果的に原作とは少し違ってしまったので、内心ドキドキだったのですが、特にクレームもなくOKをいただけました。さあ、これで本編スタートです。

実を言うと、最初に色を置いてみたキャラたちは、思いっきり彩度を下げて、かなり渋めに作ってみたのです。少しオトナ、というか、いわゆる「東映っぽくない」色味展開を模索してみたのです。ところが、やっぱり違うのです。「『星矢』っぽい何か」になってしまって、どうにも「にせもの」臭くなってしまった(苦笑)。加えて今回、全編、夜なのです。最初に作った渋めのヤツを背景に乗せてみたら、まぁそれは見事なほど背景と同化しちゃったのですね(笑)。ああ、これはダメだ、と。

なので、基本の色はあえて「東映っぽく」というか、『星矢』っぽく色味を作っていくことにしたのです。

でも、まあ、ここだけの話、今見返してみると、雑魚の冥闘士なんかはもうちょい色味抑えた方がよかったなあ、と(苦笑)。それは今の僕だからそう思えるのであって、あの時はそれでも結構いろいろ悩んで決め込んだのです。あれがあの時のベスト、とは言わないまでもベターであったと。だからそれはそれでいいんだと思います。

そのぶん、本編中ではかなり細かく「色替え」をしていきました。設定した「ノーマル」の色味から、明度と彩度を少し落として青みを加えた「夜色」を作り、コレが全編の彩色が基本となりました。オーラを出したり、「ペガサス流星拳」などのワザを繰り出す時には、「ノーマル」の影部分を少し強くした「オーラ色」。あとは話数ごと場面ごとに数限りなく「特殊彩色」を積んでいきました。

そして、1本1本作っていく中で毎回が勉強になっていきます。後半の話数にいくにしたがって、少しずつスキルも上がっていくし、いろいろ試したいことも増えていきました。それを各話の演出さんと相談しつつ試していく。かつての最初のTVシリーズの頃のように、いろいろ考えるのが楽しくて仕方ない自分がいました(笑)。

聖闘士たちの繰り出すワザは、ほとんどがCGエフェクトを加えた処理になりました。CGセクションとの共同作業で画面を作る。これまでいろいろな作品をやってきた僕でしたが、ここまでいろいろやりとりしながら一緒に画面作っていったのは初めての体験でした。この点でもいっぱい勉強になりました。CGに対してもたくさん意見を出させてもらって、みんなで研究しながら画面を作っていったのです。

しかしながら、やはり難しかったのが、2Dであるところのセル+背景の画面に3Dを融合させていくということ。『星矢』という作品はバリバリ2Dの作画の世界なのですね。2Dで描く立体と3Dのまんま立体の画面とは、なかなか相容れないものだったりするのです。それでも回を追うごとにだんだんとツボがわかってきて、CGのエフェクトをどう使うか、どう見せるか、演出も作画もだんだん上手くなっていきました。いやあ、やっぱり、まずは絵コンテでどれだけ芝居を作り込めるか、というところですね。そしてそれをアニメーターがどう描き上げて、さらにそれを演出がどうコントロールしていくか。やはりそこが基本ですね。

そうやって作り込んでいったエフェクトですが、ひとつ、やはりどうしてもうまくいかなかったものがありました。それは「ペガサス流星拳」。ダイナミックに奥から手前へ加速してくる迫力が、どうしてもCGだけでは緩くなってしまったのです。何度もリテイクしてトライしたのですがやっぱりダメ。それで、「ペガサス流星拳」は、昔ながらの作画・TP+ブラシとなったのでした。

■第35回へ続く

(07.11.20)