色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第38回 昔々……(28) 『色指定』のクレジットをめぐる長い闘いの事 その2

先週から放映が始まりました『墓場鬼太郎』、ご覧いただけましたか?

放送終了直後、さっそくWeb上での感想を見てまわってきました(2ch含む(笑))。やっぱり率直な感想ってのは、見終わっての第一声だと思うんですね。時間が経って、他の人の感想とか目にしちゃうと、往々にして自分のなかで修正・整理されちゃったりする傾向があるんですよ、人間って。なので午前3時くらいまで、検索かけてクリックしっぱなしでした(笑)。

概ね予想どおり賛否両論の受け取られ方で、ある意味ちょっと安心。いろんな意味で話題になって、いろんな人が観てくれるといいなあと思います。おかげさまで初回4.8%という好視聴率だったようで嬉しい限り。それでも僕らは、変わる事なく中心をブレさせずにシリーズを通していけばいい、そう思います。

ところで、実はTV局側の内容チェックってのが絵コンテ段階でありまして、放送上マズイ表現についてチェックが入りました。

#1で言えば、カエルの目玉がぬちゃーって糸引くのはNG(←音は入ってますが)、赤子の鬼太郎を投げ飛ばす(突き飛ばす)手を画面に入れるのはNG、当然墓石に目をぶつけるのなんてNG、鬼太郎の父の包帯の下から病変見せるのはNG、当然鮮血が飛び散るのもNG、などなど。原作にある血液銀行云々のくだりも、同じく原作にある鬼太郎がすぱすぱタバコ吸うというくだりも、やはり現代のいろんな状況に照らして設定から外してあるのでした。

皆さんの感想の中で「表現が温い」とのご指摘もありましたが、そういう事情もあったのです。あくまでもTV放映作品として作ってる『墓場鬼太郎』なのですから。

全国放送でないのがつくづく残念なのですが、今週から関西・東海地方のみなさまにもご覧いただけるようです。ひとつよろしくお願いいたします(^_^)。

さてさて。

「色指定」のクレジットのお話の続きです。

なんとかエンディングに「色指定」のクレジットを作ってもらおう、そう思うには思ったのですが、さてどうしたらいいのか分かりません。いったい誰にお願いすればいいのか、当時の僕はまるで分かっていませんでした。で、とりあえず直属の上司である仕上課の課長のもとへ行きました。

「あのお、TVシリーズのエンディングに『色指定』のクレジットを作っていただきたいのですが……」と僕。

「ん? ああいうのは決まり事だからダメ」と課長。

「え? 何でなんですか? 決まり事って誰が決めてるんですか?」

スイッチ入っちゃった僕は課長相手にどばあ! っと一方的に持論を展開。若気の至りです(苦笑)。

「そういうのはね……」一瞬ひるんだ課長でしたが、それでも僕をなだめつつ、いかにそれが容易ではないかを説明してくれたのでした。それでも納得がいかない僕でしたが、「一応、今後の話として考えるから」と課長に言われ、それ以上どうにもできず退散しました。

それは『聖闘士星矢』を担当してた頃の話。結局その話はそのままうやむやになり、その後10年間、TVシリーズのエンディングに「色指定」のクレジットがつく事はありませんでした(苦笑)。

その頃の僕は、仕事の中心がTVから劇場用作品やビデオ作品へと次第にシフトして行きました。そこで考えたのが「毎週放映のTVシリーズは無理かもだけど、単独1本の劇場用作品とかだったら何とかなるのではないか?」。あきらめの悪い僕です(苦笑)。

TVシリーズと違って劇場版のエンディングクレジットには「検査」というクレジット項目がちゃんと以前からあって、僕も『劇場版 ゲゲゲの鬼太郎 妖怪大戦争』と『劇場版 聖闘士星矢 神々の熱き戦い』で「検査」で名前を載せてもらっていました。なので、その「検査」に「色指定」をひっつけてクレジットしてもらえないかなあ、と考えたわけです。実際「検査」の仕事内容は「色指定」と「仕上検査」なわけで、じゃあそれを明確にしてもらうって事で「色指定検査」と表記してもらおうと、そう押していけばなんとかなるんじゃないのか? と。そういう作戦を立てました(笑)。

で、今度はいろいろと手を尽くし……と言っても政治力があるわけもなく、でも事あるごとにいろんな人にその趣旨を話しつつ、関係者に根回しっていうか理解を深めてもらいつつ、もう少しねばり強くがんばったのですね。結果、なんと『劇場版 聖闘士星矢 真紅の少年伝説』のエンディングに「色指定検査」のクレジットで名前を載せてもらえたのでした。

これはかなりの感動でありました。とりわけ『劇場版 聖闘士星矢 真紅の少年伝説』は色へのこだわりと思い入れの強い作品だったので、エンディングに「色指定検査 辻田邦夫」と出たときは「じ〜ん」と熱くなりました。大昔からの作品全部を調べたわけじゃないのですが、たぶんこれが東映作品で「色指定」というクレジットが載った最初だったんじゃないか? と思います(違ってたらゴメンナサイ)。

一度、前例というか形ができれば、それはそのまま受け継がれて行きます。この後しばらくの間、劇場用作品のエンディングには「色指定検査」とクレジットされるのが定着したのでした。

■第39回へ続く

(08.01.15)