第49回 昔々……(31) ヴァンパイヤー戦争
初夏です。暑いです。
GWって、そういえば暑かったんだよなあ、とそんなことをぼんやりと思い出してます。ああ、この季節こそビールだよなあ。昼間っから「ぷはあ〜」っとやりたいですなあ(笑)。……ううむ、ダメ社会人決定(泣)。
昨日、4月29日は「昭和の日」(少し前までは「みどりの日」でしたが)。昭和天皇の誕生日ですな。「平成」の世になって、もう今年で20年。この業界にも「平成生まれ」の若者たちが続々入ってきたりしてます。彼らは知ってるのかな? 以前はこの日が「天皇誕生日」だったことを(笑)。
そうそう、先日再販されたので注文しておいたDVDが2本届きました。『幻魔大戦』と『カムイの剣』。りんたろう監督の作品です。かれこれもう20年以上も前の角川書店の劇場用アニメーション作品ですね。いずれも美術が故・椋尾篁氏。もうね、すばらしいです。
そんな昔のアニメですが、とりわけ『幻魔大戦』は僕も彩色として参加してたのですよ(笑)。もちろん名前なんて載ってないですけど。主人公が子鹿助けて匍匐前進するカットとか、クライマックスの炎の竜のカットのいくつかとか塗りました。いやはや、懐かしい(笑)。
で、まあ、そんな話をうかつに若い子たちにするとですね「僕がまだ生まれる前の映画ですよね?」とか返ってきて思わず閉口です(苦笑)。
さてさて。
OVAのお話の続きです。
『ヴァンパイヤー戦争』。笠井潔原作。小説のアニメ化であります。キャラクター原案:北爪宏幸、キャラクターデザイン&作画監督:浜州英喜、美術監督:中村光毅、監督:竹之内和久。ばりばりリアル路線の布陣です。
お話は現代。宇宙からの生命体の因子を血液に持つ少女キキを巡るフランス諜報部とアメリカCIA、そしてキキと同じ血を引くヴァンパイヤーたちの戦い。そんな地球規模の陰謀の中でキキを守り通そうと闘う元テロリストの九鬼鴻三郎。そんなお話。
この作品も僕、もともと原作のファンでありました。「こういうお話、アニメ化できないのかなあ」、漠然とそんなこと思っていたところへのこのアニメ化のお話です。いやあ、ビックリ!
それまでの東映ビデオのOVA作品はマンガ原作のものばかりだったのですが、この『ヴァンパイヤー戦争』は小説原作です。マンガ原作の場合、すでにマンガとしてキャラクターのビジュアルが先にあるので、自ずとアニメ版のキャラクターデザインも原作のその絵柄に準じていくことになるんですけど、小説原作だと「挿し絵」とかの画にこだわらなければ、キャラクターのビジュアル・デザインを最初からアニメ版スタッフで始められるので自由度が高いのです。
で、この『ヴァンパイヤー戦争』のキャラクターデザイン、もうね、とってもいいんですよ! 僕が勝手に原作読んで妄想し、想像していたのとピッタリな感じであったのですね。濱州さんのリアル指向な線の感じがもう嬉しくて、参加しててとても楽しい作品となりました。内容的にもちょいオトナなお話、描写も多い作品なのでもうピッタリだったのですね。
主人公は日本人なんですが、それ以外はすべて外国人。お話の舞台もパリで、スタッフの誰もヨーロッパに行ったことはなかったんだけれど(いまだにパリには行ったことないんですが(苦笑))、なんとかヨーロッパのフンイキを色に乗せられないだろうか? と、いろいろ海外の写真集とか参考にして、ドンドン自分の持ってるイメージを重ねていきました。
今回もキャラクターの最初の色味は美術デザイナーの中村さんから出てましたが、あわせて僕のイメージの色も出させてもらって、それを監督以下みんなで集まって、ああだこうだと意見交わしつつ修正加えて決め込んでいきます。
現在のように、モニターの中の色見本をクリックひとつで修正していける、という便利な時代ではなかったので、塗り上がってる色見本のセルに絵の具の短冊のカラーチャートを乗せながら決め込んでいき、それを次回の色打ち合わせまでに塗り直しておく、という段取りです。僕としては、もう明日にでも次の打ち合わせやって、さらに決め込んで行きたいんだけど、それぞれ忙しいし社外のスタッフも多く、1週間後とかの打ち合わせが待ち遠しくて仕方なかったのでした。
前回『あすか組!2』ではかなり苦しんだ絵の具問題、今回もそれなりに苦労はすることになるのですが、割とすんなりと行けた感じでありました。テイストをヨーロッパのフンイキで、と考えていったら、割と派手めな色もOKだったのですね。当然抑えるところは抑えていくのですが、全体にビビッドな色遣いが「らしさ」を醸し出してくれた感じです。主人公は地味な色で、それ以外はちょっと派手めな色多く使って、そんな感じ。
劇中の小道具とかも、実在してるものをモロに参考にして作画して、リアル感を出そうとしていました。さすがに銃器は現物参考ってワケにはいかず、でも山ほどモデルガンの雑誌や軍用装備の紹介雑誌を参考用に集めまして、そこは男の子、楽しみながら弾丸やら迷彩塗装やら決め込みました。
それとお酒。ある日、監督が僕の机のところへやってきまして「コレ、参考」と、どんっ! と置いていったのがラム酒の瓶。もちろん中身入り。劇中、これをラッパ飲みするんですよ、主人公。「じゃ、実際にやってみるかな?」。いやいや、実際ラッパ飲みは試さなかったですが、すべてそんな感じで細かく決めていったのです。
でもやっぱり苦しかったのは、肌色系中間色のヴァリエーションのなさ。白人が多く登場するので、肌色を全体に赤みを含ませた色味で展開していったのですね。ところが、やはり、夜色などの少し明度を落としたいシーンでの色数が足りず、結果、暗めのところでは、みんな同じような肌の色に落ち着けるしかなくなっちゃったのでした。
それでも『あすか組!2』よりもだいぶ時間に余裕があったので、ひとつひとつ可能な限り、自分でちまちまと見本を作り続けながらの色指定ができて、ほぼすべてのシーン、キッチリとうまくいったなあ、と、自画自賛です(笑)。
というわけで、1990年12月に完成。これ売れたのでしょうかね? その辺はちょっとわからないですが、このあと小説原作のOVAは長く続かなかったような気がしてます。う〜む、残念。
そうそう、この『ヴァンパイヤー戦争』、ちょっと対象年齢オトナ向けなので、実はちょっと「オトナなシーン」があったりします。初「オトナなシーン」の色指定でちょっとドキドキ。で、そんな僕にさらなる「オトナのシーン」のある作品が。
OVA『Cryingフリーマン4 雄首冬獄』。あの山内重保監督作品が待っていたのでありました。
■第50回へ続く
(08.04.30)