色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第55回 昔々……(36) 高ぶる気持ちは天を翔るか『天上編 宇宙皇子』その4

先日、つい「ぽちっ」とお買い物をしてしまいました。しかも結構なお値段のお買い物。あ、パソコンじゃないですよ。カメラです。デジカメ。また買ってしまいました。

SIGMA製のDP-1というコンパクトのデジカメなのですが、これがね、いいんですよ!ズームレスの高性能のレンズに一眼レフのデジカメ用の大型CCD。いやはや、マニアックな一品であります。

もうね、これ持ってどこか写真撮りに出かけたくてウズウズしてます。ああ〜、旅行行きたい! できれば海外行きたい! 海外じゃなくても、どこか地方へ旅に出たい! 今夜これから深夜バスに飛び乗って、明日は東北? 四国? 九州?

でも、こういう時に限って忙しいんですよね、仕事。あるいは、忙しさの反動でついついカメラとか買っちゃうのでしょうか?(苦笑)

いずれにせよ、季節は梅雨。天気はずっと不順ですが……。でも、またその雨の風景、なんてのも被写体としてはなかなか面白いし……。

……と、まあ、お決まりのじたばたモードの真っ最中です(苦笑)。

さてさて。

梅雨時のジメジメな時期の約3週間を、さらさらで快適な病室で若い美人の看護婦さんたち(!)に囲まれて過ごした僕は、元気ハツラツ! 第6話から最前線に復帰しました。とはいえ、すぐさま100%全開! とはいかず、第6話と並行作業となった第7話は仕上検査を他の方にお願いしました。ですが、以降最終13話まで、ガッチリと自分でやりきることができました。

『聖闘士星矢』をはじめとして、これまでいくつかのTVシリーズを担当してきた僕ですが、この『天上編 宇宙皇子』のように、連続して各話色指定を担当させてもらったのは初めてのことでした。話数を重ねるごとにますます気持ちは乗ってきますし、ドンドンいろんなアイデアや試してみたいことが出てきます。色指定の打ち合わせが楽しいものになって行ったのも、確かこのあたりからだったような。

あ、いや、それまでも楽しいものだったのですが(笑)、演出さんから「こうしてください」と言われるのを受けるだけでなく、自分の方から積極的にアイデア出したり、意見を言うようになっていったのでした。

と言うのも、前にも書きましたがこの『天上編 宇宙皇子』、演出も作画も美術も撮影も、そして色指定も、比較的少ないメンバーのローテーションでガッチリと固めていたので、無意識に「チーム」的なフンイキというか、信頼感というか、そんなまとまりを感じていました。だからこそ、自分からドンドン関わっていけば行くほど、それがうまく受け入れられてさらにいい形になって、という、そんな流れがあったように思います。

加えて、とりわけ作画陣は自分の担当以外の話数の「チーム」への対抗心も相まって、どんどんクオリティが高まっていったのでありました。こういう高まり方っていいですよね(笑)。

余談ですが、当時角川書店はこの『天上編 宇宙皇子』と同様に小説「ロードス島戦記」のOVAを作っておりました(制作・マッドハウス)。で、同じようなスケジュールで全13話製作&発売していくのですが、この『ロードス島戦記』が大ヒットしちゃったんですな。

ところが制作状況の方はかなりいっぱいいっぱいだったそうで、何度となく「発売日延期」をやってたのですね。でも、発売されればメチャクチャ売れてたんですよ。

一方こちらは一向に売り上げが上向かず、収支的にはずいぶん赤字っぽかったようです。角川のプロデューサー氏は頭抱えておりました。「『ロードス島戦記』のもうけで『天上編 宇宙皇子』作ってるようなもの」そんな苦笑いな話があったほど(苦笑)。

そんな『ロードス島戦記』のLD、実はみんな持ってたりする僕でした(笑)。

今回『天上編 宇宙皇子』のことを書くにあたって、実は実家からLDのデッキを発掘してきて、ひととおり見なおしてみたのでした。もう何年も電源すら外しっぱなしで、TVの下でず〜っとホコリかぶってた機材ですよ(笑)。それを手持ちで電車で運んで自宅に設置です。当然一緒にソフトもまとめて持ってきたのですが、なんせ直径30センチのディスクたちですから、もうね、重くて(苦笑)。

で、動作確認しつつ、おそるおそる再生です。LDのソフトの方も、ジャケットの外のビニール袋が風化しちゃってて、触るたびハラハラと粉のようにバラバラになっていくほどです(笑)。で、それをパソコンに取り込んで、ムービーデータにして今も観ながら書いてます(笑)。

連続して観ててよくわかったんですが、ホントに回を追っていろんなことやってたんだなあ、と。最初の方の話数では多少手探り感のあった特殊彩色のパターンも、後半に向かうにしたがってドンドン手が込んだものが増えていき、作画のテンションとピッタリ息のあったいい収まり感の気持ちがいいシーンが増えていきます。また、茶色や白や青などの様々な色カーボン使って小技効かせようとしてたり、1カットの中での色味の変化つけたりと、たぶんその当時考えついたあらゆること試して楽しんでたのですね。

先だっての東映ビデオ系のOVAの時もそうだったんですが、昔の自分の仕事をあらためて見直すのって、なんともプチ恥ずかしい気持ちがあってくすぐったいのですが、この『天上編 宇宙皇子』は「なんかとっても楽しそうに仕事してるなあ(笑)」と、そんな様子が見て取れてむしろ楽しいです。

約2年間で作った全13話(そういえば途中、第7話くらいまでをまとめた再編集ものの劇場版とかもあったりしましたね)。たのしく満足感のある日々でありました。最終話を作り終えて、さらに続編シリーズも映像化の話がこないかなあ? と、密かに願ってはいたのですが、残念ながらそのチャンスは訪れませんでした(苦笑)。

当時、何本もの仕事を並行して抱えながらではありましたが、とっても充実した作り方のできた作品だった、そんな気がしています。同時に「あ、我ながらずいぶん成長したのかも(笑)」と、今だからそう言える、そんな作品だったのでした。

■第56回へ続く

(08.06.10)