色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第56回 昔々……(37) 16mmと35mmの話『天上編 宇宙皇子』その5

先日、自宅の電話に1件の留守電が入っておりました。

「こちら中野税務署の○○と言います。確定申告の内容について、お話がありましてお電話しました」

う゛っ、税務署! 実は今年、過去3年分の確定申告をまとめてやったのですが、そのうち過去2年分について、税務署からの「OK通知」が来てなかったので、ちょっと心配してたのです。

う〜む、何がまずかったんだろう? 別に所得隠しとか、不正な経費の水増しとかやってないし。……やってないハズだし。……やってないと思うし、たぶん。……う〜む(汗)。やっぱり呼び出し?(汗) ……で、やっぱりしぼられるのかなあ?(滝汗)

ドキドキしながら、翌日税務署に電話しましたよ。そしたら……。

「ええと、平成17年度分に3ヵ所計算ミスが見つかりまして……」

「はい」

「修正申告お願いいたします」

「それだけですか?」

「それだけですよ」

なんとまあ、そういうことでした(笑)。「郵送でOK」ってことなので、書類送ってもらって対応ってことでクリアです。ああ、よかった(笑)。やっぱねえ、苦手なんですよ、税務署(苦笑)。

さてさて。

『天上編 宇宙皇子』を作っていた1990年頃、当然まだ「セル画でフィルム撮影」だったのですが、当時アニメの撮影では16mmフィルムと35mmフィルムが使われておりました。

16mmと35mm、これはフィルムの幅であります。フィルム両側に撮影・映写用の連続した穴(perforation)があるので、画像の写る面積はさらに狭まるのですが、当時、TV作品は16mmフィルム、劇場用作品は35mmを使用していました。画像の写る面積が大きい分、画像の密度は高くなるわけで、面積比にして35mmは16mmの約4倍の35mmフィルムの方が、当然映画館などの大きなスクリーン向きです。発色とかも35mmの方がよいのです。

で、『天上編 宇宙皇子』はこの35mmフィルムで撮ってました。『天上編 宇宙皇子』に限らず当時の東映動画のOVA作品は、みんな35mmだったはずです。基本的には1度放映されれば終わり、というTV作品に対して、繰り返し観ることを前提としたビデオ作品は劇場用作品に準ずる、ということだったのでしょう。

ただ、TV作品でもオープニングやエンディングのフィルムは35mmでの撮影でしたし、頻繁に使うBANKカットなんかも35mmで撮ってることが多かったのです。繰り返し使う映像はオリジナルのフィルムからデュープ(duplicate=複製)・ネガを起こしてそれを使って現像、という工程があって、そんなことも一因で35mmが適してたようでした。今では編集時にコンピューター上でサクッとコピーして差し込めばOKだったりしますが(笑)。

ですので、基本、TV作品のラッシュチェックは16mmのポジ・フィルムで行い、劇場用作品・OVA作品は35mmのポジでチェック、だったのですが……。

この35mmフィルム、当然ネガ・フィルム代もその現像代も16mmに比べて結構高いのです。ですので、通常のラッシュ・チェックは16mmのポジ・フィルムを使用していました。撮影自体は35mmネガ・フィルムを使うのですが、プリント時に16mmのポジ・フィルムに圧縮して焼きつけるのですね。ですので、僕らが撮影の上がりのラッシュチェックで観るのは、ほとんどの場合16mmフィルムの映像だったのです。

これが結構微妙だったのです。

当然16mmは16mm用の映写機での映写になるわけで、フィルム画面が小さい分、スクリーンに投影される光量自体が少なくなっちゃうわけで、35mmのラッシュに比べてどうしても暗く感じる画面になります。作画やカメラワーク自体をチェックするのには16mmでも大丈夫なのですが、僕らの領域である色味の発色や透過光などの光の効果の具合は、やはり35mmのラッシュより見劣りがしてしまいました。

ただし16mmにも利点はいろいろあって、第一に扱いが断然ラクです。映写もそうですが、なんといっても編集がラクです。編集は当然ポジフィルムでやっていくわけで、これが16mmでの編集と35mmでの編集とでは、もうね大変さが天と地ほど違うんですね(全カットOKになってから行う「ネガ編集」は当然原板である35mmのネガフィルムで行うんですが)。

で、そんな感じで16mmでチェックしてOK出していってでき上がったフィルムですが、最終チェックは35mmフィルムで行います。

この最終チェック、「0号試写」と言うんですが、これはネガ編集で組み上がった1本のネガから、最初に現像したポジフィルムで試写をすることを言います。ここで実際に致命的な問題がないかどうかを見るわけですね。ま、問題が出ちゃまずいんですが(苦笑)。ここに僕もチェックで立ち会うわけです。

僕の場合、何をチェックするのかというと、画面の色味の発色であります。フィルムっていうのは、プリントでずいぶん印象が変わります。当然、はじめにネガありき、なのですが、プリントする際のバランスで色味や透明感がずいぶん違って見えるのです。

また、撮影したカメラ、レンズの固有差っていうのもありまして、実は同じ35mmカメラでもレンズの固有差で微妙に映像の色味に影響があったりしたのです。全部同じレンズで撮ってしまえばバラつきはないんですが、何台もの撮影台で並行作業で撮影していくと、往々にしてカットごとに色味に若干のバラつきが出たりすることがあるんです。

そういうことの調整も含めて、現像所の技術者の方があらかじめある程度調整して0号はプリントしてくれているのですが(そのために、あらかじめ実際に本編で使用したセルと背景の組み合わせたものを、色味参考にシーンごとに渡しておいたりしていました)、アニメーションの場合、光や発色が自然物を撮ってるワケではないので、場面によっては多少強調した方がよかったりする効果や色味もあったりします。それで本来狙った効果がうまく出ていなかったりした時は、プリントで調節してもらう、といったこともあるのです。

「このシーンはもっと炎の色が強く出るように」とか、「もう少し青空の発色がすっきり出るように」とか、場合によってはカットを指定して調整をお願いしたりすることもあります。

で、試写を見たあとに現像所の技術者の方々と監督以下、僕らアニメーションスタッフでミーティングを開いて確認や注文といったやりとりをします。こういう調整を「タイミング」というのですが、これはフィルム上映になる作品では必ずやってます。デジタル制作になった今でも、フィルム上映になる劇場用作品では最後のチェックポイントがここなのですね。

その0号試写は東映系の現像所、調布の東映化学工業(現・東映ラボ・テック)で行われていました。『天上編 宇宙皇子』では毎話ごと、だいたい2ヶ月に1度のペース。並行してその他のOVA作品も0号に行っていましたから、結構な頻度で東映化工に通っていたことになります。0号の日には、大泉のスタジオから2〜3台のタクシーに分乗して出かけるのですが、何回か通ってるうちに、大泉から東映化工への道はタクシーの運転手さんより僕の方が詳しくなっちゃったのでした(笑)。

1990年から翌91年いっぱいは、こんな感じでOVA中心の日々が続いていたのでありました。

■第57回へ続く

(08.06.18)