色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第59回 夏休み企画 聖闘士星矢 冥王ハーデス冥界編・エリシオン編 完成&放映記念全話おぼえがき(前編)

すみません、またも2週お休みさせていただいて、今週から復活です。

夏の高校野球甲子園大会が始まりましたね。連日繰り広げられる熱戦を、仕事の間中ずっと聴いてます。ラジオから聞こえてくる「カッキーン!」という球音と、その向こうから聞こえてくるスタンドから大声援が、この季節の僕の仕事の友です。

このスタンドからの応援のブラスバンド、今年もやっぱり『宇宙戦艦ヤマト』と『海のトリトン』が盛り上がります。もう甲子園の応援ブラスの定番でありますね。いやあ、それにしてもこの2曲、僕が小学生だった頃のアニメ主題歌ですから、かれこれもう35〜36年になるでしょうか? なんか凄いことですよね。

で、これ、よく聴いてると、各校ごとにちょっとずつアレンジが違ってたりしてます。こういうのって、ブラス用の譜面集とかって出てるんでしょうね。ひょっとしたら、常連校なんかはその高校独特の伝統のアレンジの譜面とかあって、そんなのが綿々と受け継がれてたりして。そんなことなんかを思いながら、短い「夏」を楽しんでたりしてます。

この甲子園が始まると、夏もいよいよ折り返しに向かう感じであります。

さてさて。

先月『聖闘士星矢 冥王ハーデス エリシオン編』が完成しました。最初の『聖闘士星矢』のTV放映が1986年。途中長くブランクはありましたが、トータル実に22年かかって、車田先生の原作に描かれた「星矢」はすべて終わったわけであります。

で、その『エリシオン編』の最終5、6話が現在スカパー!にて絶賛放映中であります。それを勝手に記念して、3回にわたって「聖闘士星矢 冥王ハーデス冥界編・エリシオン編完成&放送記念全話おぼえがき」であります。

あ、星矢ファンじゃない方々にはごめんなさいです(汗)。

さて。

まずは『冥界編 前章』から。山内重保監督の『冥王ハーデス十二宮編』シリーズ、その最終13話のラスト、冥界へ向かった星矢。その星矢を追って瞬たちも冥界へと向かうところからお話は始まります。

この『冥界編』から監督が勝間田具治氏に替わりました。勝間田さんは最初のシリーズでも第2話から演出されてましたね。他のメインスタッフは概ねおんなじですが、監督が替われば当然テイストも変わっていきます。さあ、どんな感じに変わっていくのか?

『冥界編 前章』第1話 渡れ!アケローンの河 演出/勝間田具治

どんなシリーズでもそうですが、できるだけ第1話は僕自身で色指定をするようにしています。実際に本編、原画に触れてみて初めて、細かい気をつけなきゃならない点とかが見えてくるのですね。この第1話も僕が色指定担当です。

このシリーズでは、ほぼ全編「冥界」が舞台であります。なので、当然暗めなフンイキです。かと言って、キャラ色自体あんまり暗く設定しちゃうと、とにかく全編陰鬱になりかねないので、そのあんばいがひとつポイントでした。

前作シリーズの『ハーデス十二宮編』では、「地上であるサンクチュアリでずっと夜」という舞台設定だったので、リアルに「夜の暗さ」のキャラ色を作っていったのですが、今回の舞台は「冥界」。

「『冥界』に入っちゃえばそこが基本なので、むしろ明るめの方がいいんじゃないのか?」と勝間田監督。なので、冥界での基本は明るめに設計してみました。いわゆる「ノーマル」の色味から少しだけ明るさを抑え込んでますが、背景自体暗いので実際の画面ではそんなには暗くは見えてない、ほとんど「ノーマル」に見えるように設計してます。

で、第1話。もうね、延々“三途の川”であるところのアケローン河を舟で行くだけのお話。う〜む、地味です(苦笑)。

『冥界編 前章』第2話 静かなる法廷 演出/佐々木憲世

お話が動き出す第2話からは、小日置さんに色指定をバトンタッチ。以降第6話まですべて小日置さんが色指定担当です。

冥闘士の色味の系統は、すでに前作シリーズで基本線ができてましたので、それをベースにあとは原作の画のヌリ(たとえば、原作では髪は黒ベタなのか白抜きなのか、とか)を参考に色を作って行きました。なので2話のゲストキャラ、ルネは銀髪に。

『冥界編 前章』第3話 伝説の聖闘士オルフェ 演出/勝間田具治

冒頭、ファラオ&ケルベロスとのシーンは、冥界の基本色よりも若干さらに暗く設計しています。星矢のペガサスの聖衣のベースが白なので、暗めの空間ではとにかく1人浮きまくっちゃうのです(苦笑)。

なので、シーンごとに色味の基本を決めていく時に、基準になるのはいつもペガサス聖衣であります。白をどこまで抑え込んでいくのか、というところがポイントになりました。

そうそう、3話登場の琴座のオルフェもほぼ白ベースでありましたね。

『星矢』では戦いの中での“ワザ”のシーンがいくつもあるのですが、シリーズの原則としてその「ワザの空間」ではキャラ色は特殊彩色にしていきました。で、この3話くらいまでは、ワザをかける方もかけられる方も両方とも特殊彩色にしていたのですが、後半からは少し整理して、ワザをかける方はオーラを出させてキャラ色はノーマル系で少しコントラストをつける、かけられる方のみその空間の特殊な色味を作る、という風にしていきました。

ちなみに「ドカーン!」と吹っ飛ばされるときは、やられてる方をハイコン処理にしていくという約束にして、これも整理しました。

『冥界編 前章』第4話 オルフェ 悲しき鎮魂歌 演出/信田ユウ

ずっと暗めの背景の冥界にあって、3話、4話のユリティースの捕らえられてる場所は明るい花園。なのでキャラクターも明るく設定しています。

ただし、明るい空間では星矢たちが闘うときのエフェクトが画面映えしにくいのです。これは結構難しい。なので、戦いが始まったらイメージ空間にしちゃうとか、なんとか光のエフェクトが映えるように考えました。この宿題はそのままエリシオン編へとつながっていきます。

『冥界編 前章』第5話 ハーデス!驚愕の憑依 演出/勝間田具治

冥王ハーデスの間。ここでの基本のキャラ色のバランスが、実は僕の一番のお気に入りだったりします。明るさを抑え込んで、なおかつ色味がちゃんと出てる。気持ちがいいです(笑)。

明るい玉座周りと暗い謁見の間との行き来、出し入れも上手くいきました。

そして“瞬顔”のハーデス。製作の現場では「ハーデス瞬」と呼ばれてました(笑)。アンドロメダ瞬の時は少しピンクの入った割と血色のいい肌色ですが、ハーデスが憑依してからは血の気の失せた色味にしました。

『冥界編 前章』第6話「激闘!ジュデッカへの道」演出/勝間田具治

画面に1人、黄金聖闘士(ゴールドセイント)が入ると、ピシッと画面がしまります。そして紫がかった灰色のラダマンティスたち冥界3巨頭たちと対峙するとより映えます(笑)。

そしていよいよ真打ち、一輝登場です(笑)。5人の青銅聖闘士それぞれのオーラはすべて撮影処理なのですが、このフェニックス一輝のまとうオレンジ色のオーラが5人の中でイチバン画面映えして美しかったりします。なんか、イチバン強そうでよいです(笑)。

*   *   *

十分に余裕を持って臨んだハズの全6話、最後の2本はやはり少々、っていうかだいぶ、苦しいスケジュールでありました。それでもなんとか走り出した『冥界編』です。『前章』を終えてみて、いろいろ考えることも多く、次への宿題として準備を始める僕でありました。

■第60回へ続く

(08.08.05)