色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第67回 昔々……(44) 実は2種類あった! スーパーサイヤ人のヒミツ

朝晩の空気がすっかり秋です。気をつけないと風邪ひいちゃうくらい冷え込んでる日も増えてきちゃいました。そんなここ数日、仕事で朝帰りが続いておりますが、まあ連日朝の空がすばらしい。雲がね、いいんですよ。

毎日毎朝、その日その日でまるで空の表情が違うんです。光のあふれ方であったり、雲の色であったり。それがまた素晴らしく美しくって、昇る朝日に思わず合掌。なんかね、ありがたいなあ、と(笑)。

段々寒くなっていくこの季節、イチバン朝が気持ちよい季節なのかもですな。ああ、カメラ持って素晴らしい朝を撮りに旅行に行きたいなあ。もちろん、温泉はセットですな。

さてさて。

「新ナメック星に移住したナメック星人たちが、何者かに襲われて滅亡の危機に瀕していた。新しく地球の『神さま』となったデンデは、それを関知。悟空たちに新ナメック星を救ってくれるよう依頼。悟空、悟飯、ピッコロたち一行は新ナメック星へと向かった。到着した一行を待ち受けていたのは、謎のロボット兵軍団と、機械の身体を得て蘇ったクウラ、メタルクウラであった……」

劇場版『DRAGON BALL Z 激突!100億パワーの戦士たち』を、たぶん初号以来初めて見返しました。というのも、折しも劇場版『DRAGON BALL』のDVDが発売となり、注文しておいたらたまたま先日それが届いたのでありました。

いやあ、はははは(苦笑)。

いつもそうなんですが、昔自分がやった仕事を見直すのは、結構恥ずかしいっていうか、こそばゆい感じです。思わず「あ〜」とか声が出ますよ(苦笑)。やっぱねえ、事細かに憶えてるものですね。映像を見てさらに細かく思い出したり。

見直して確認したのですが、自分で思ってた以上に太陽色彩絵の具のシーン、カットが多かったのでビックリです。多かった、というか、半分以上は太陽色彩色カットですねえ。それだけ多く韓国のプロダクションにお願いしてたってことですね。

DRAGON BALL、悟空と言えばスーパーサイヤ人であります。「気」を高めていって「うりゃあ!」となると、髪が逆立ち金色になり、ハイコン調の彩色になって、ブラシのオーラをまとって暴れる強くなるっていうアレです。

このスーパーサイヤ人の処理、強弱2種類の使い分けがあったのですが、皆さんはご存じだったでしょうかねえ?

悟空が普通の状態からスーパーサイヤ人になると、まずは「どわあ!」っと「強」タイプの処理になり(制作上の呼び名は確か『B』タイプだったかな? 「弱」は『A』)、そのまま会話が長く続くようなときは「弱」に落としておいて、で、また闘いになると「どりゃあ!」って感じで「強」タイプにする、とまあ、そういう使い方です。

劇場版では割といきなり「うりゃあ!」と闘いに入っちゃうので、あんまり「弱」タイプは使わなかったんですが、展開上どうしても長く会話芝居をしなきゃならないTVシリーズでは、結構この「弱」タイプの処理を使うことが多かったのです。

どう違うのか? っていうと、「弱」は「強」に比べて、1.髪の色が薄い(白っぽい)黄色、2.身体のハイコンの色調が控えめ、3.まとっている特殊効果(ブラシ&タッチ)のオーラが軽め、といった感じです。

芝居上、ず〜っと高まった状態で立ち話ってのも微妙ですので、当然こういった強弱は必要不可欠なんですが、作業的にも多少軽減したい、っていうこともあったようです。

このね、サイヤ人のオーラの特殊効果っていうのが実に大変だったんですね。当時はセル画ですから、このオーラ、すべて特殊効果さんが手作業で描いていたのです。まず動画に従ってブラシかけるためのマスキング用のセルを切り抜きます。そのマスクを使ってブラシを吹きつけていき、さらにそのブラシ部分の輪郭に、手描きで勢いのタッチを描いていくのです。これをね、1枚1枚、1カット1カット、特殊効果さんたちは作業しくれていたのです。

他にも『DRAGON BALL』では、キャラごとに決まり事の特殊効果がたくさんありました。長く続いたシリーズだったし、その数たるやすさまじい量です。当時、特殊効果班のチーフでいらっしゃった平尾さんは、それを事細かにノートにつけておられて、事あるごとに「DRAGON BALL特殊効果事典」として特効班みんなで活用していたのでした。

ちなみに、先だっての新作、集英社JUMPツアーズ用『DRAGON BALL』の制作時にも、その遺産は活かされてたようです。そうそう、デジタル彩色となった今日でも、やはりサイヤ人のオーラは手描きでブラシ&タッチだったようです(苦笑)。

この「弱」の方のタイプ、この『激突!100億パワーの戦士たち』本編では結構使っておりました。そのヘンはTVシリーズを踏まえての処理あわせだったのですね。TVを見て劇場に足を運んでくれるお客さん、そのお客さんにTVと同じもの観てもらうのはなんか足りないし申し訳ない。だからTVよりも、スピーディーでボリュームがあって、満足感たっぷりの映像を見せたい。でも、TVとあんまりかけ離れちゃうと、「あれれ?」ってことになっちゃうので注意。そのへんがTV作品の劇場版作る際のポイントでしょうか。

そういえば後の劇場版では「『弱』やめませんか?」ということになったような……しかも僕が言い出して……。

で、その「弱」の時の髪の色がどうにもヌケ(発色)がよくなくてフィルム映えせず、なんか消化不良というか、閉口したのを憶えております。「強」の方の髪も同様にヌケがよくないのですけども、オーラの処理の軽い「弱」の方がより目立って鈍く見えちゃってました。う〜む。やはり発色の点ではSTAC絵の具が上だなぁ、と痛感。前々回にも書きましたが、STAC→太陽色彩の換算上の「ちょっとずつの誤差」が、やっぱり画面上で気になっちゃったのでした。

ともあれ、なんだかんだで完成にこぎ着けまして、無事3月全国公開となったわけであります。なんとかやりきって一段落、の僕の手元には、夏の東映まんがまつりの『DRAGON BALL Z』のシナリオがありました。

■第68回へ続く

(08.10.15)