色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第72回 もひとつ番外編を! 『キャシャーンSins』のこと

実は本日(12/9)、東映撮影所大泉スタジオ内の試写室で『劇場版 ゲゲゲの鬼太郎 日本爆裂!!』のスタッフ初号であります。で、その初号までの合間、それと打ち上げまでの合間に原稿中(汗)。

思えば、なんか今年はずっと『鬼太郎』だったなあと。ちょうど去年の今頃は『墓場鬼太郎』の立ち上げをやっていたのですよね。あ〜、あれからもう1年も経っちゃったのか、と思うと、思わず遠い目に……。で、その『墓場鬼太郎』の制作期間の終わりになってこの『鬼太郎』の劇場長編の話がやってきて……。

ま、そういう年だったのですな、今年は。来年はどういう年になっていくんでしょうねえ。まだまだ何も見えてこないので、まあ心しつつも、ゆったりと構えていようかなあ、と。

皆さんにとって、今年はどんな年だったのでしょう?

さてさて。

「僕的『鬼太郎』Year」だった今年、実は並行して静かに密かに動いていた作品がありました。現在絶賛放映中の『キャシャーンSins』であります。

……「現在絶賛放映中」と書きましたが、実は全国放送ではなく、関東・中部・大阪圏中心の深夜帯の放送なのです。しかも、関東での放送はあっても東京の放送局ではやってない、という微妙な状況(苦笑)。なので、ご存じない方もいらっしゃるんでは? ……ということで、またも宣伝であります!(笑)

原作/竜の子プロダクション、シリーズ構成/小林靖子、キャラクターデザイン/馬越嘉彦、監督/山内重保。そう、あの山内監督の作品なのですね。

「山内監督が馬越キャラで『キャシャーン』やるらしい」、そんな噂をある筋から聞いたのが一昨年の暮れでありました。その頃の僕はと言えば、父の最期の日々におわれていて余裕がなかったのですが、いろいろ片づいて後のある日、意を決して山内監督に電話したのです。

「『キャシャーン』やるんですって?」

「やりますよ(笑)」

「あのお、僕もいいでしょうか?(汗)」

ということで、半ば押しかけ(!)で「キャシャーン」に参加させてもらうことになったのです。色彩設計、ということで、キャラクターの基本の色、シーンごとの設計を担当。時々各話の色指定もやってます。

実は僕、旧作の『新造人間キャシャーン』って見てないんですよ。その後に作られたOVAも。世代的にはストライクゾーンど真ん中だったのですが、なんでか見ていなかった。カラオケで主題歌唄えと言われれば盛り上がって唄えるくせに(笑)、なぜか本編は見てなかったんですよね。いまだに本編参考資料以上には観てないのです(ごめんなさい)。

ですので、『キャシャーン』をやる、ということよりも、とにかく、僕は山内監督と仕事がしたかった。それに尽きます。

制作の現場はマッドハウスであります。初めて制作プロデューサーにお会いしたのが、たしか去年の夏になる前のこと。秋にはスタッフルームに僕の仕事用Mac持ち込んで、「僕の巣」が完成、じわ〜っと作業に入ってました。

2クール全24話。みっちりとやるにはちょうどいい分量です。演出も作画も少数精鋭でまとめていきたい、とそんな風に監督は考えているような布陣でありました。

「監督演出回は、作監は馬越さん、色指定・検査は辻田さん担当で」とか、いつのまにかそういう風になっておりまして(苦笑)、それはまあそれでよかったんですが、スケジュール表には、前半いきなり1話、2話、4話、7話と監督自らの演出回が連なっておりました。

「こ、これは!(汗)」

こりゃあ大変なことになるんじゃないか? と、一瞬たじろいでしまいましたが、それでも放送開始がだいぶ先、なので、たぶん、大丈夫、なんじゃないかなあ、と。そんな気分であったのですね。

そんなこんなのうちに声優さんのオーディションが始まっていきました。実は密かに「古谷徹さん、来ないかなあ」とか思っていたのです。旧作のキャシャーンはどうか知らないですが、今回の新しいキャシャーン像には実は合ってるんじゃないかなあ、と勝手に想像していたのですね。そうしたら、なんと古谷さんですよ! いやあ、ビックリです! これは嬉しかった。

こんな風に、じわっじわっといろんな事が決まっていって、年が明け、今年になりました。去年の時点ですでに本編は制作に入ってまして、画面も徐々に見えてきました。そして、この秋からのオンエア目指して、結構地道に作ってきたのでありました。

画面的には、まずはもうなんと言っても作画の冴えですね! 馬越氏中心にキッチリといい画を描いてくれてて、もう毎話すばらしい。作画の注意点として、今風の細い線は捨て、全編クッキリと骨太に動画を仕上げてもらってます。作画の持つ力強さが画面により強く伝わってくるように気を配ってます。

撮影時に画面全体に「にじみ」を載せるという手法をとっています。すべてのカットにこの処理を載せることにより、シーンごとに画面のバラつきのない強い一体感が生まれています。

この「にじみフィルター処理」でセルも背景も彩度とコントラストが一気に大きくいじられてしまうので、想定した完成画面から逆算して、セルの色彩も背景も彩度明度のコントロールをしています。ある意味『墓場鬼太郎』の真逆な感じですね(笑)。

スタートの段階で地デジ、ハイビジョンの画面の見え方をだいぶ意識して作っていまして、ですから正直言って、同じ放送でもアナログ放送よりも地デジでの視聴をオススメしたいところであります。

で、まあ、かなり贅沢な時間のかけ方をして完成した第1話でありますが、やはり多少、黒っぽく見えにくくなってるカットもあったりしましたが、それでも、手前味噌ではありますが、なかなかよい出来でありました!

そしてやっぱり「山内節」炸裂です。絶妙なレイアウトと切れのよい作画まわし、空気感と間、そして音楽。

もうね、ここであれこれ書くより、なにより見てもらいたいです(笑)。

さすがに放送前に積み上げた「貯金」も底をついちゃってまして(苦笑)、毎週毎週日々コレ決戦! が続いていますが、放送も今月でシリーズ前半が終了。これから先、いろんな謎が明らかになり、一気にお話は動いて行きます。

そろそろ現場は大変になってますが、なんか楽しくって仕方ないそんな僕です(笑)。

放送のない地域の多い作品ではありますが、ネット配信でもご覧いただけますので、是非一度見てやってください。もちろん、ソフトもDVD通常版とBlu-ray版両方でますよ!

■第73回へ続く

(08.12.09)