色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第76回 昔々……(47) 白人主役!? 『Coo』立ち上げ

いつものことなんですけど、コンピューターを買い換えるときって、ものすごく悩みます。なんかね、長くつきあってた彼女との別れ、そして新しい彼女との未来、みたいな……。

「ずっと一緒にいられると思ってたのに……」

「最初からわかってたことだよ。誰も時の流れには勝てないんだ……」

恋愛の最後のはかなさに似てるんです。

仕事でコンピューターを使い始めてからずっと、僕はMacを使っています。Windowsはどうも肌に合わず、ず〜っとMacです。自宅と仕事場とになんだかんだで3台のデスクトップ機(MacPro)を使っているのですが、その間をつなぐように肌身離さず持ち歩いて愛用しているのは、Macのノート型パソコンPowerBookG4です。

現在使っているPowerBookは、自分史上4代目になります。2005年の12月購入。実はキーボードをはじめすでにかなりいろいろへたってきてて、しかも去年、香港の空港ロビーで床に落としちゃいまして、筐体に歪みが……。それでもなんとか頑張って使ってきたのでありますが、日に日に新しくなっていくテクノロジーとドンドン大きくなっていく取り扱いデータ。やはりさすがにスペックが限界(泣)。新しくMacBookProに買い換えることにしたのでした。

我慢して頑張っていけばもう少しは何とかなる。でも、確実にやってくる別れからは逃れられない……。未練と言ってしまえばそれまでだけど、長い間時間を共にしてきた「彼女」への愛は絶大です。僕の指が憶えているキーボードの感触は、新しい「彼女」になったとしても、すぐには忘れないのですね(苦笑)。

いっそ死別(壊れて使えなくなっちゃったり)だったら諦めもつくんですがね(←こらこら)。

ずっとこの連載もそのPowerBookで書いてまいりましたが、次回からは新しい「彼女」で書くことになりそうです。

さてさて。

『Coo 遠い海から来たクー』の先行イメージスチールを作ることになったのですが、大倉さんが描いてきた原画を見てびっくり。そこに描かれていたのは日本人の少年・洋介ではなく、外国人、見るからに白人の少年の姿だったのです。

「ああ、これね、実は主人公を日本人にしないで、外国人にしようっていうような話になってるんだよね」と今沢さん。

聞いてみると、どうもそれは角川側からの話。実はこの『Coo』、日本国内の公開だけにとどめず、全米、そして全世界公開を念頭において製作したい、ということ。そのためには、主人公が日本人親子であるよりも、白人の親子である方が北米的、世界的には受け入れられやすいのではないか、という考えらしいのです。で、洋介が白人少年になっちゃってたのでした。

いまなら日本人が主人公でも全然大丈夫なのかもですが、日本と海外、言葉、という大きな壁は以前から、そしていまもありますが、人種ヴィジュアルの点でも当時はやはりこういう「壁」があったのです。

「ええ〜〜〜!? う〜む……」

まあ、わからない話ではないですが、原作のファンである僕としては、なんかちょっと納得できないなあ、という感じでありました。でもまあ、そこはお仕事であります。瞳が澄んだブルーの、さわやかな金髪の少年に作り上げました。で、納品。

その頃は『Coo』の制作についてはまったりとしたペースで進んで……というか、停滞していました。プロデューサー、監督、作監、そして美術で南太平洋までロケハンに出かけたり、とかはあったのですが、いずれにせよその「人種問題」がハッキリしないと、キャラ設定も、そもそもシナリオ自体手がつかないわけです。

で、しばらくして角川から連絡が来ました。

「原作どおりに進めてください。日本人親子、で」

ということで、ようやくいろいろスタートということになりました。ここから僕と『Coo』の長い付き合いが始まったのです。

■第77回へ続く

(09.01.20)