色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第90回 GW番外編 『明日のナージャ』思い出の街、そして『どれみ』のあの人の街(笑)

GW(ゴールデン・ウィーク)終わっちゃいました。終わったらもういきなり暑いです(泣)。とくになんとも湿気が……。

そんなGW、僕は日本を離れておりました。で、そんな留守中、いろんなことがありましたね。某有名ロックシンガーが亡くなったり、某有名俳優が結婚されたり……。

ぼくの知り合い関係でもいろいろありました。電撃入籍しちゃった某色指定とか(苦笑)。あるいは、ソウルの僕の友達のお母さんが若くして急逝されたりとか。嬉しいこと悲しいことがひしめき合ってた、そんな今年のGWであったようです。

さてさて。

今年のGW、ちょっと長めのお休みをいただいてイタリア北部を廻ってきました。ミラノから、パルマ、ボローニャ、ヴェネツィア、ヴェローナ、そして再びミラノ、という具合。それぞれの街でいろんなものを見て、いっぱい食べて(笑)来ちゃいました。

国内国外、いつもどこへ出かけて行ってもそうなのですが、かつて自分が関わった作品の、その本編に登場したゆかりの場所って、やっぱり気になるものであります。で、ヨーロッパ、といえば『明日のナージャ』です。

『明日のナージャ』では約1年間、イギリスからオーストリアまで、ヨーロッパ中を「旅」しました。イタリアもミラノ、ヴェネツィア、ローマと登場しましたが、中でも本編2話(第18話〜第19話)に渡って登場したのが僕の大好きなヴェネツィアでありました。

実は僕、ヴェネツィアに来たのはこれがなんと3回目! 前回訪れたのが11年前でありました。なので、『ナージャ』以降では今回が初めてになります。本編中では、運河、サンマルコ広場、リアルト橋、などなど有名なところが登場するのですが、当然みんなメジャーどころなので、たいていは行ったことのある場所でありました。ですので、当時本編作業の時にも、どこの場所もバッチリ雰囲気がわかってたので、バッチリいい感じに色味とか空気感を作れました。

ところがひとつ、僕の行ったことのない場所が本編に登場しました。それはコンタリーニ・デル・ボヴォロ宮殿、そしてそのらせん階段であります。たいていのポイントは見てまわってるはずなのに、そこはまるで行ったことがなくて、調べるとガイドブックにはちゃんと載ってはいたのですが、たぶん正直あんまりいい写真で載ってなかったので、無意識にパスしちゃった建物だったのですね。

第19話。カーニヴァルの夜。サンマルコ広場から逃走した「黒薔薇」を追うシーンで、ほんの一瞬、ほんの数カットだけ、その場所は登場しました。屋根の上で満月を背に立ち回りを演じる「黒薔薇」、その光景をナージャとハービーがこのらせん階段から見つめるのであります。

ゆきゆきえさんが描き上げたそのシーンの美術ボード。夜のシーンで登場するその宮殿は、ヴェネツィアの深い青い夜の中、白く美しく幻想的で、そのらせん階段も白くふわっと浮き上がって見えたのです。

で、今回、どうしてもその宮殿、そのらせん階段が見たくて、訪ねていってみたのです。

その日のヴェネツィアは爽やかな陽気で、通り雨とかもあったりしたのですが、ヴェネツィアらしい気持ちのよい、まさに観光日和でありました。

午前中から、いろんな教会巡りをしまして宗教画三昧。陽がちょっと傾いた頃、いよいよ「らせん階段」を目指して路地を延々と歩き回ったのでありました。迷路のような街をくねくねと歩き、とうとう目指す場所へとたどり着いたのであります。

「ああ、ここだ!」

その宮殿はヴェネツィアの迷宮のなかに守られるようにして、ひっそりと建っておりました。

が、残念。この建物、もう「死んでる」建物だったのです。

ここヴェネツィアは『時を止めてしまった街』。何世紀も前からそこにある建物たちを、中は手を入れていまの暮らしに合わせて改装し、でも外観はそのままの姿を保たせながら、できるだけそのままに使っているというそんな街です。なので、見た目は往年のまま古い建物であっても「生きてる」建物がほとんどであります。

ところがこの宮殿は『死んでる』建物でありました。すでに廃墟であり誰も住んでいませんし、壊れた箇所の修復すら行われていないようでありました。当然、僕ら観光客は立ち入り禁止。遠巻きに鉄柵のこちらから眺めるだけでありました。

「あぁ〜、そうなんだ……」僕はため息をつきました。

いま、ここで実物を見るまで、僕はてっきりまだ「生きてる」建物だと思い込んでたのです。

「あ、ひょっとしたらナージャがこの階段を駆け上がった時も、ひょっとしたらもう死んでたのだろうか? いや、そんなことはないよなあ、きっと」

らせん階段を見上げながら、ひとり感傷にひたっておりました(笑)。アニメと現実、ゴッチャにしちゃダメですが、劇中の1900年頃へと、ふと想像の世界に埋没してみた僕でありました。

冷たい鉄の柵で囲われたその宮殿と階段は、少し暗くなりかけた夕方の翳りの中にひっそりとそれでも美しくそこにありました。ゆきえさんの美術ボードのイメージがその上に柔らかく重なって見えたのは言うまでもありません(笑)。

ところで、翌日、ムラーノ島まで行ってみました。ヴェネツィアン・グラスの産地として有名な島です。その島へ未来さんとその工房(!)を探しに行ってみたのですが、残念! 見つけることはできませんでした(笑)。

■第91回へ続く

(09.05.12)