第91回 昔々…(54) 『Coo』水の上、水の中
2週間のご無沙汰でございます(汗)。
ここに来て本業の仕事の方が立て込んで参りまして、あたふたしております。
そんな中、本日、ある授賞式に出席して参りました。去年、東映アニメーションで制作、僕も参加してた『墓場鬼太郎』が、日本映画テレビ技術協会の2008年度の「映像技術奨励賞」というのをいただきました。
この賞、映像技術関係の賞でありまして、今回受賞したのも本編で使用した「墓場フィルター」が受賞の対象になったわけです。で、このフィルターの開発運用に携わった個人ということで、CG監督の森田氏、撮影監督の入部氏をはじめ、美術の倉橋氏、本間氏、そして僕の5名連名での受賞となったのでした。
「ひょっとしたら僕の人生で最初で最後の表彰式かもしれない」ので(笑)……っていうか、「まあ、おもしろそうだし、こういうの体験しておいた方がいいかな?」と思い、出席してきたわけです。ちなみに倉橋氏、本間氏は最初っから欠席。出席になってた入部氏も「仕事が……(汗)」ということで当日になって欠席。寂しく、森田氏と僕だけの出席です。
実は割と軽い気持ちで行ったのですが、いやはやこれが大したモノでありましてビックリ。結構大きな賞だったようです。文字どおり、映画やTVの様々な作品、技術が受賞をしておりました。配られた受賞者一覧を見て、森田氏と2人してちょっとビビッておりました。
僕らの表彰自体が割と早めの方だったので、その緊張も壇上で賞を受け取ったらばサクッと終了(笑)。あとは余裕で他の各賞の表彰の様子を堪能しておりました。
僕らの受賞はともかくとして、他の各賞の受賞内容を見ていくと、なんかワクワクしてきました。映像と、それを支えていく技術って、奥が深くて、そして楽しいです。
さてさて。
『Coo 遠い海から来たクー』といえば「海」であります。
「海面のね、上と下、こんな風にひとつの画面に収めてみたいんだよね」
ある日、今沢監督が1冊の写真集を持ってきました。
その写真集は南の海の写真集で、カメラのレンズを下半分だけ水の中に入れて、ちょうど画面の真ん中で水上と水中が分かれている、という構図の写真がたくさん載っていました。透明度の高い美しい(たぶん)南太平洋の海。水上も水中もまるで見分けがつかないほどに澄んだクリアな映像が切り取られて載っておりました。
「こんな風にね、海中、水中も、できるだけ水上とか空気中と変わらないような映像を作れないかと思ってね」と監督。
普通、海中の処理っていうと、まず色指定でキャラ等の色味をそれらしく変えて、さらに撮影処理で波ガラス処理などで水の揺らめきを加えて、「ここって海の中だからねっ!」ってくらいに作り込みたくなっちゃいます。でも、それをあえてやらないで、びっくりするくらいの水の透明感を狙おう、というワケです。
で、これもいろいろテスト。本番の作画を使って処理のテストを試みてみました。
その写真集のように、画面の上下に同時に海上と海中が収まるカットでは、なるほど、水上も水中も同じ色味で塗っちゃっても大丈夫そうな感じです(実際には、ほんの少し、水中の方を暗く彩色しています)。狙いどおり、いい感じの透明感が出せてます。
しかし、カメラが水上(海上)にあって、水越しで水中部分が見えるようなカットでは、やはりちゃんと水上と水中の色味の差をつけた方が気持ちいいことが判明。つまるところ、ケース・バイ・ケースってことですね。「水がない」のではなく「水がまるでないように見える」ということが重要でした。ただ、撮影での波ガラス処理は極力入れないでいこう、ということになりました。
海の中はこんな感じでいけそうだったのですが、問題は室内の水槽でありました。劇中、はなれの研究室にクー飼育用の大きな水槽を新調。その中でクーが泳ぎ回るのです。
海と水槽の大きな違いは、水槽にはガラスの壁がある、ということと、水槽が室内にある、ということ。
「ガラスの壁」感は、泳いでるクーがガラスに近づいたらクーの身体をガラスに映り込ませる、という手法で表現しました。
問題はやはり「室内に置かれた水槽」という点。海中だったら遠くまで何もない海中が見えるだけなので、水の透明感はそのままであればいいわけだったりするのですが、室内の水槽ってことは水とガラス越しに室内のあれこれが見えちゃうっていうことで、透明感ということよりも、むしろ「そこに水がある」ということを表現してあげないと、ゴチャゴチャとうるさい画面になってしまいそうだったのです。
そこはいろいろ悩みどころでありました。先にも書きましたが、監督は「透明感」をテーマにしていて、でもその透明感が画面上に災いする、という状態です。で、これもいろいろテスト撮影を試みました。海中と同じになんにもしないヴァージョン、セルで色替え+撮影で波ガラスヴァージョン、などなど。
そんな中で「ああ、これかな?」と落ち着いたのは、水面から下、水のある部分全部に厚さの薄い水色のカラー・フィルムを重ねて撮る、という手法でありました。正直言って透明感は少し落ちてしまいますが、ここは『水がある』ということの表現の方を優先したのでした。なので、彩色的には基本ノーマルの色味で彩色です。作画的には、カラー・フィルムを置きやすいように、吃水の部分に塗りで厚みを作りました。それの下にフィルムを敷き込んで撮るのです。そんな手法で水槽の件はクリアです。
ところが、です。
「う〜ん、なんかもうひとつ、味つけがほしいなあ……」海中のカットのテスト撮影ラッシュを見ながら、監督と作画監督が何やらうなり始めたのでした。
■第92回へ続く
(09.06.02)