色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第96回 皆既日食中継で思い知らされた海と空、そして昔々……(58) 『Coo 遠い海から来たクー』

先日22日の皆既日食、東京の天気はガッツリ曇り。部分日食すら肉眼で観られませんでした。しかも残念ながら僕は仕事。なのでずっとTVにかじりついてNHK総合の日食中継を観てました。もちろん地デジでハイビジョン液晶TVの組み合わせ。ばっちりBlu-rayで録画です(笑)。

早くから話題になっていた皆既日食帯が通る南の島々の天気はあいにく悪かったようで、民放各局は惨敗だった様子。NHKはというと、太平洋上の日食観測船と硫黄島からの手堅い2元中継で完勝! でありました。

僕自身、少年時代から天文少年だったのですが、実は日食にはそんなに関心は深くなくって、今回の日食も、別段観測に出かけるでもなく、「TVでいいジャン」くらいの軽い気持ちであったんですよね。

でもね、NHKの中継観て、完璧にやられてしまいました。ああ〜、皆既日食観にいけばよかった(泣)。特に太平洋上に出てた観測船ツアーに。

もうね、すごかったんですよ! NHKの中継画像。あ、日食の画像自体はやっぱりどうでもよかったんですが(爆)、すごかったのは皆既日食中とその直前直後の周囲の風景、光景でありました。

西の水平線から「月の影」がひたひたと近づいてきて、やがて徐々に周囲が影の中に入っていきます。するとね、空も海も浮かんでいる雲も、それまで美しく鮮やかに輝いてたのが、だんだん色がなくなっていって、ほんのり紫色を含んだグレーに変わっていくのです。それと呼応して影の外側、水平線近くは、ちょうど夕焼けとおんなじ原理で黄色〜オレンジ色に空が染まっていって、そんな空を背景に浮かんでる雲がシルエットになっていく。

その映像がすごかった。

神秘的っていうか、もうその光景の大きさが圧倒的すぎて。刻一刻と変わっていく風景を固唾を呑んでTV観てました。もうね、TV観ながら唸るばかりです。皆既日食の中継ですから、当然ダイヤモンドリングや真っ黒な太陽やコロナ、プロミネンスの映像も映すワケなんですけど「皆既中の太陽なんか映さなくていいから、ずっと風景の方を見せろ!」ってくらいの僕でした(笑)。

観測船にしろ硫黄島にしろ、周囲360度ぐるっと海。そんなロケーションだったからこそ、なおさらすごい画面になったんだろうなあ、と思います。

とりわけ硫黄島からの中継は、NHKの解説委員の方がマイクを持って、移り変わる光景の中に身を置きながら実況してくれてたんですが、その彼がもうその風景に圧倒されて、言葉が出なくなっちゃうくらいでありました。

皆既日食中の影の中はどんな風になるのか、一応知識では知ってたんですが、ああ〜、これなんだよね。やっぱりホンモノ体験しなくちゃ。なんで応募しなかったんだろう、オレ。ま、1年も前に応募は締め切られるわけで、とうていムリだったんだろうけども。

皆既日食自体は、ほぼ毎年、世界中のどこかで起きてる現象なんですね。なので、ちょっと(だいぶ)がんばれば、海外に日食見に行けないこともない。なので、そんなに遠くない未来、海の上で皆既日食を体験したいです。それくらい、心揺さぶられちゃったのでありました。

さてさて。

そんな南の海の風景です。『Coo 遠い海から来たクー』。当然、劇中で日食、なんてのはなかったですが(笑)、僕が中継で見たような美しい風景を、美術の山本二三さんが描いてくれておりました。

当時『Coo 遠い海から来たクー』のスタッフルームは、ちょうど大泉スタジオの正門入った正面の建物の3階にありまして、当時「劇場部屋」と呼ばれてた部屋でありました。その部屋に山本さんは机を置いて、毎日こつこつと美術ボード、そして本番の美しい背景画たちを描いてました。

監督以下みんなひとつところで作業できるのは理想型です。監督も作監も美監も、みんないっしょにいてくれるのは、とても心強い環境でありました。まあ、本来そうでなくっちゃいけないんですが、なかなかそうもいきません。今ではデジタル全盛なので、美術さんもパソコンがあれば……みたいな感じになってきてますが、当時は普通に水彩で描いてたわけで、絵の具やら筆やら、その他数多くの荷物が美術さんには必要だったわけですよね。水を使うので、水道も近くにないと困るし。ですので美術さんは、打ち合わせなどの時以外はそれぞれの美術スタジオで作業されている、というのがほとんどでありました。

背景も作画仕上げも徐々に作業が進んでいき、夕景や夜のシーンのカット(動画)が色指定にまわってくるようになりました。僕の手元にある程度カット数がまとまってきた頃合いと、そのシーンの美術ボードの状況を見ながら、特殊シーンの色味を決めていきます。

昼はもとより、いくつかの時間経過にあわせていくつかの夕景色、早朝色などなど、順繰りに作って決め込んでいきました。そしていよいよ巡ってきました。それは前半戦のヤマ場、「夜」のシーンでありました。

■第97回へ続く

(09.07.24)