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第5回
データ原口さんに色々と教えてもらおう(後編)
原口
で、各論から作品の成り立ちの話に戻るんだけど、『ピュー太』に関しては、オープニングに構成という役職で斉藤賢、光延博愛、永沢詢と、3人の名前が出ている。永沢さん御本人の言によれば、チーフディレクターとしての仕事をやっていたのが、光延さんだった。前番組の『(かみなり坊や)ピッカリ★ビー』も光延さんは監督をやっていて、その流れで『ピュー太』でも監督をやっている。斉藤賢さんは放送動画制作という制作現場のプロデューサーで、全体の制作の管理をやっていた。それと同時に、シナリオのチェックに関与していたらしい。シナリオまでの段階は斉藤賢さんと、毎日放送の名物プロデューサーである井口(亮)さん、それから光延さんも加わる形で内容を見ていて、光延さんが演出面のチェックをしていた。それでは、永沢さんは何をやっていたの? と思うところだけど、「作品の立ち上げとか、キャラクターの設定には関与したんだけど、シリーズが始まってからは各話スタッフとして参加しただけで、他の人が描いたコンテのチェックなどはしていない」とご本人は言っているのね。だから、「構成」の役職で3人の名前が出ているけれど、それは企画構成ぐらいの意味で、監督のクレジットはされてないという感じかもしれないね。
――
なるほど、監督は光延さんなのか。話は前後するけど、「南太平洋 メチャクチャ 大戦争」の倉橋(達治)さんは元々、東映のアニメーターなんだよね。演出は他には何をやってるの?
原口
作画は『まんが日本昔ばなし』や『みんなのうた』、それから『えくぼおうじ』など代表作がたくさんあるけど、TVシリーズの演出は、『ピュー太』の後にはないんじゃないかな。
――
そうなんだ。
原口
だけど、『ピッカリ★ビー』はやってるんだよ。
――
『ピッカリ★ビー』でも、ああいったハッチャケたものを作ってるのかねえ。
原口
可能性は大いにある。東映動画を辞めた人が、この放送動画制作には集結してるわけだけど、その中では大きく分けるとふたつの流派があった。劇場長編が中心だった頃に入ってフルアニメ教育を受けて、TV時代になって辞めた人。それから、TVアニメが始まってから入って、フルの教育を受けてない人。倉橋さんは長編の最後の頃に入っているので、かろうじてフルアニメ教育を受けてる人であるわけ。だから、本人もフルアニメ的に動かす事が凄く好きで、凝りまくった仕事をやってしまう。それで、倉橋さんは『ピッカリ★ビー』時代からヤンチャな仕事をしていたらしいんだよ。それに『ピッカリ★ビー』は総作監が倉橋さんなんで(笑)。
――
なるほど。だけど、リリースされているビデオに『ピュー太』と一緒に入ってる『ピッカリ★ビー』は凄い地味だったじゃない。
原口
そうそう(笑)。
――
『ピッカリ★ビー』は子供の頃に観た記憶があるけど、だいたいあんな感じではあったよ。
原口
『おそ松』『ピッカリ★ビー』『ピュー太』と、だんだん進化していく流れだったはずだよね。永沢さんが『ピッカリ★ビー』には参加してなかったりとか、多少のスタッフの入れ替えはあったにしても、総じてその3作品の参加スタッフは、同じような顔ぶれがだったはずだから。切磋琢磨しながら、いろんな事をやっていたんだと思うんだ。だから、『ピュー太』が完成形であるのは間違いないんだよね。完成し過ぎちゃって「早すぎた作品」になってしまったと思うんだけど。『ピッカリ★ビー』も1年やってるから(苦笑)、後半には『ピュー太』に近い……。
――
傑作があるのでは(笑)。
原口
じゃないかな、と。
――
また新たな人生の目標が生まれたね。
原口
そうなんだよ(笑)。
――
僕らは生きているうちに『ピッカリ★ビー』が観られるのか?
原口
いやいや、観られるよ。『ピュー太』の後にDVD化される予定なんだ。
――
なるほど。明日、医者に「あなたは癌です」と宣告されても、大丈夫だな。なんとか『ピッカリ★ビー』は観られる。
原口
(苦笑)。WEBアニメスタイルで前に取材した時もそういう話になったけど、永沢さんは、フルアニメ時代の教育を受けてるにもかかわらず、リミテッド的な動かし方にも積極的に挑戦した人だった。フルをちゃんと描けるけど、枚数を端折る事から出てくる動きのお洒落さや面白さも理解してる人なわけね。そういう永沢さんが、多分、カリスマ的な存在として皆の上にいたんだね。倉橋さんは、弟分みたいな感じで永沢さんについていった人なのね。で、さらにその永沢さんの後輩だったのが、竹内大三さん。この人は東映で宮崎(駿)さんと同期だから、最後の正社員だよね。本格的な長編にかすった最後の世代で、本来はフルアニメ志向になっていいはずなのに、『ピュー太』での竹内さんの持ち味は、倉橋さんの対極にある徹底したリミテッドなのね。ガッチャガチャ、ガッチャガチャ動くんですよ。竹内大三がやった回でお勧めなのが、さっきの24話の美人コンテストの回と、15話ですね。暴走し続けて、最後まで暴走しまくって終わる回で、倉橋流とは全然違う動きだけど、作画的に楽しめると思います。
――
「南太平洋 メチャクチャ 大戦争」では倉橋さんも原画を描いているの?
原口
それも調べているんだけど、あの話を林静一、鈴木欽一郎、それと倉橋さんで描いているのは間違いないみたい。冒頭からドラム缶の潜水艦を作る手前までは、倉橋さんの原画らしい。ワルサーがいろんな国の人のコスプレをするじゃない。あれが倉橋さん。潜水艦を作るあたりは鈴木さんらしい。だから、あのオバQみたいになるハッスルも鈴木さんの作画のはず。その後、ピュー太との待ち合わせの場所に、すごい恰好をしたカッコちゃんがタクシーでくるじゃない。あそこから倉橋さんなんだって。
――
じゃあ、あの潜水艦内の魚眼レンズっぽいところも?
原口
うん。あそこも倉橋さんの作画であるはずだよ。
――
その後の文句を言われたカッコちゃんが「テヘ」となるところも?
原口
ああ、「テヘ」ね。あれは重要だよね!(笑)
――
重要だよ。大半の読者には何の事だかわかんないだろうけど、重要だよね。
原口
それに、「テヘ」を受けたピュー太が、ニコっと笑ったりしてね。
――
あのやりとりを見たら絶対に恋人同士だよね(笑)。
原口
あそこも倉橋さんの作画だと思うんだけど。どうしてあんな芝居をさせたのかは分からないけど。
――
描いている人の気持ちが、高まってるんだろうなあ。ワルサーとブレーキが飛行機から飛び降りるところは?
原口
飛行機の中のシーンも含めて、倉橋さんらしいよ。でも海に落ちた後で、小さな島をブレーキが押していくじゃない。あそこは林静一さんらしい。さらに、ピュー太がおどけて、崖から落ちるところは倉橋さん。入り組んでるよね(笑)。フカに襲われる手前までが倉橋さんの作画で、フカに襲われているところが林さんか鈴木さん。そのあたりはよくわからないけど、鈴木さんが、林さんに波のフォルムの描き方を教わりながらピュー太の泳ぎを描いた記憶があるらしいの。間違いなく林さんが描いた場所としては、後半のアメコミみたいな正義の使者がドドドと出てくるところ。あそこは林さんだって。ワルサーとブレーキが南の島に漂着する辺りから始まって、かなり強烈な中抜きしてるのが林さん。
――
ああ、そうなんだ。以前、長谷川君が言ったのが当たったなあ(
「もっとアニメを観よう 第13回 長谷川眞也・吉松孝博対談(2)」
)。話を整理すると、『ピュー太』は、東映長編、あるいは東映TV初期に参加していた人が、主力スタッフになってると考えていいわけね。
原口
そうです。少なくとも放送動画制作という現場に集った人は、ほとんどが東映出身です。完全に東映系と言っていいと思いますね。各話の外注に関しては、虫プロのスタッフも参加しているんだけれど。
――
つまり、東映長編の本流を受け継いだのがAプロダクションで、それに対して『ピュー太』は「裏Aプロ」みたいな存在?
原口
そう考えていいと思う。東映に始まり、後の高畑作品や宮崎作品につながっていく流れがあるとすると、もの凄く個性が強くて、ひとつの様式の中ではまとまりきれない、きかん坊達がいて。彼等が東映から出て、やりたいエネルギーを発散させるために与えられた現場が放送動画制作だった。そういう風に位置づけられる。
――
なるほど。
原口
だから、当然、ここに集まった人たちの、後の大成の仕方も、Aプロの人達とは全然違う。長編やTVシリーズのスタッフとして、現在もバリバリやっている人はむしろ少数派で、CM作家とか、個人作家として大成した人が多いんだよ。永沢まこと、倉橋達治、竹内大三、ひこねのりお……などのようにね。
――
『ピュー太』って、何かの本で「『タイム ボカン』のルーツともいえる作品」とかって書かれたのを読んだ記憶がある。「25年史」もそれに近い記述だったよね。「太平洋」を観た時には「どこがルーツだよ?」と思ったんだけど、改めて1話を観ると、確かに似ているよね。
原口
そうそう。毎回繰り返されるパターンのひとつとして、御先祖様の胸像というのがあるんだ。ワルサーが、屋敷の部屋の中にある胸像に呼び出されて、それに悪事を働くように命じられる。で、失敗して戻ってくると、お仕置きが待ってる。
――
『タイム ボカン』初期だねえ。近いのは『ゼンダマン』かな。
原口
かたちとしては『ヤッター マン』のドクロベエが指令を与えて、お仕置きをするのに近いと思う。御先祖ってのが、謎の存在で。
――
正体は最後まで分かんないの?
原口
分かんない。企画書によれば、ワルサー家の子孫が代々悪の道を踏みはずさないようにと、ワルサー1世が作った監視装置という事になっている。だから、内部にメカが仕込まれている、という裏設定はあるらしい……。でも、テレビの本編を観る限りでは、どうして御先祖がツルリ邸の詳細を知ってるのかも全然分かんないんだよ。
それに、回によって不統一だから「これだ」とは断言できないんだけど、ワルサーは本当に先祖の指令を受けているのか、と疑いたくなるところが随所にあるのね。
――
それって「先祖に命令されているというのは、ワルサーの妄想じゃないか」という事?
原口
そうそう! 本人がワルサー家の名誉に対して強迫観念を持ってて、ご先祖に指令を受けていると思い込んでいるだけだ、と取れる回があるんだよ。
――
へえー。
原口
で、全部がその設定で作られていたら、なかなか深い話なんだけど……。
――
そうでもない?
原口
そうなんだ。そこが惜しいところでね。で、さっきの話に戻ると、どんな風にツルリがハッスルするのかとか、カッコちゃんがどんな役で出ているのかとか、最後に必ずお仕置きがあるとかという……。
――
フォーマットの面白さ?
原口
そうそう。『ピュー太』にはそういうパターンがいくつかあって、そのお約束がどんな風にクリアされるかを視聴者は楽しむ。TVアニメの歴史の中において、『ピュー太』以前にそういう事をやった作品ってなかったんじゃないかと思うんだ。
――
そうかもしれないね。そういう事も含めて『タイム ボカン』のルーツだね。
原口
それは「ウルトラマン」で「毎回どこかで変身します」というのとは違うと思うんだよね。バラエティ的なノリで、物語の流れの中には組み込まれてるけど、そこの要素だけを取り出して楽しめるというのかな。ハッスルのシーンなんて、スタッフもハッスルしちゃっている。そこはスタッフが勝手に遊んでいいわけだよね。お仕置きも、どんなお仕置きかわからないわけだしね。
――
よし、じゃあ、そろそろまとめましょう。
原口
はい(笑)。
――
よもや『ファイトだ!! ピュー太』の記事を作ったり、イベントをする事になるとは思わなかったよ。
原口
いやいやホントに。それに、いきなり全話というのがよかったよ。東映のモノクロ作品がDVD化されたのは嬉しい半面、セレクトだったのがちょっと悲しかった。『ピュー太』だってヘタすれば、セレクトでDVD化される事だって、ありえたわけだから。10話だけしか観られなかった頃には、10話だけが面白くて、あとは大した事ないんじゃないかもしれないと思っていた。だけど、実際に観てみたら、確かに暴走という事では10話がトップレベルだけど、さっき言った23話や15話を始めとして、それに負けず劣らずのパワフルな話が確実にあったわけ。東映系のヤンチャな人達が集ってるだけの事はあるんだ。錚々たるメンバーが、若いエネルギーを発散させて、好き放題やってるという事は確認できた。そういう意味ではね、仮に10話をソフトで持ってても、このDVDは買う価値あるというか。必見ではあるよね。
――
読者に「買えよ!」と言いたいところだけど、DVDが出た途端に、CATVとかで全部放送されるとイタイなあ。
原口
あり得ない話じゃないからね。
――
とは言いつつも、TV放映するとも限らないし(笑)。
原口
難しいところだね(苦笑)。
■「『ファイトだ!! ピュー太』作戦本部(6)」へ続く
(05.05.30)
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